注)この記事は「Sylowの定理の証明〜準備編〜」の知識を前提とします.
今回はSylowの定理(シローの定理)の証明を行います.
まず, p 群と Sylow p 部分群(シローp部分群)について,定義します.
p 群・ Sylow p 部分群の定義
\(p\) を素数とするとき,位数が \(p\) の冪であるような有限群を p 群といい,群 \(G\) の位数を \(p^rq\) ( \(q\) は \(p\) で割り切れない) と書くとき,位数 \(p^r\) である \(G\) の部分群を Sylow p 部分群という.
Sylowの定理の証明を行う前に,次の補題を示しておきます.
補題
\(p\) を素数とするとき,次が成り立つ.
$$ \left( \begin{array}{cccc} p^rq \\ p^r \end{array} \right) \equiv q\quad mod\ p\ . $$
$$ \left( \begin{array}{cccc} p^rq \\ p^r \end{array} \right) \equiv q\quad mod\ p\ . $$
証明
\(p\) が素数であることから,
$$
\left(
\begin{array}{c}
p \\
i
\end{array}
\right)
\equiv
\left\{
\begin{array}{c}
0\quad(i\neq 0,p)\\
1\quad(i= 0,p)
\end{array}
\right. \quad mod\ p
$$
であり,
\(
\left(
\begin{array}{c}
p \\
i
\end{array}
\right)
\)
が \((x+1)^p\) を展開したときの \(x^{i}\) の係数であるので,
$$(x+1)^p\equiv x^p+1 \quad mod\ p\ .$$
したがって,
$$(x+1)^{p^2}=((x+1)^p)^p\equiv (x^p+1)^p\equiv x^{p^2}+1$$
$$\vdots$$
$$(x+1)^{p^r}=((x+1)^{p^{r-1}})^p\equiv (x^{p^{r-1}}+1)^p\equiv x^{p^r}+1$$
であるので,
$$(x+1)^{p^r}\equiv x^{p^r}+1 \quad mod\ p\ .$$
両辺を \(q\) 乗して, \(x^{p^r}\) の係数を考えると,
$$
\left(
\begin{array}{cccc}
p^rq \\
p^r
\end{array}
\right) \equiv q\quad mod\ p\ .
$$
では補題が証明できたので,Sylowの定理を証明します.
Sylowの定理
Sylow p 部分群に対して,次 4 つが成り立つ.
(1) 有限群 \(G\) は,任意の素数 \(p\) に対して, Sylow p 部分群を持つ.
(2) 有限群 \(G\) の p 部分群はある Sylow p 部分群に含まれる.
(3) Sylow p 部分群は互いに共役である.
(4) Sylow p 部分群の個数を \(n_p\) とすると,
$$n_p\equiv 1 \quad mad\ p\ .$$
(1) 有限群 \(G\) は,任意の素数 \(p\) に対して, Sylow p 部分群を持つ.
(2) 有限群 \(G\) の p 部分群はある Sylow p 部分群に含まれる.
(3) Sylow p 部分群は互いに共役である.
(4) Sylow p 部分群の個数を \(n_p\) とすると,
$$n_p\equiv 1 \quad mad\ p\ .$$
(1) 有限群 \(G\) は,任意の素数 \(p\) に対して, Sylow p 部分群を持つ.
証明) \(G\) の位数が \(p^rq\) ( \(q\) は \(p\) で割り切れない) であるとする.このとき,次のような \(G\) の部分集合の集合 \(X\) を考える. $$X=\{S\subset G\ |\ \#S=p^r\}$$ この \(G\) の \(X\) への作用を $$G\times X\ni (g,S)\longmapsto gS\in X$$ とすると,この軌道分解 $$X=\coprod_iO_G(S_i)$$ が得られる.したがって, $$\#X= \left( \begin{array}{cccc} p^rq \\ p^r \end{array} \right) =\sum_i\#O_G(S_i)$$ であって,補題から \(\#X\) は \(p\) で割り切れないので, \(\#O_G(S_0)\) が \(p\) で割り切れないようなある \(S_0\) が存在する.この \(S_0\) の固定化部分群を \(H:=Z_G(S_0)\ (=\{g\in G\ |\ gS_0=S_0\})\) とすると,次の定理から,
しかし, \(s\in S_0\) に対して, \(H\) が \(S_0\) の固定化部分群なので, \(Hs\subset S_0\) であり, $$Hs\subset S_0\Longrightarrow H\subset S_0s^{-1}\Longrightarrow \#H\leq \#(S_0s^{-1})=\#S_0=p^r$$ となる.したがって, \(\#H=p^r\) となり, \(H\) は Sylow p 部分群である.
証明) \(G\) の位数が \(p^rq\) ( \(q\) は \(p\) で割り切れない) であるとする.このとき,次のような \(G\) の部分集合の集合 \(X\) を考える. $$X=\{S\subset G\ |\ \#S=p^r\}$$ この \(G\) の \(X\) への作用を $$G\times X\ni (g,S)\longmapsto gS\in X$$ とすると,この軌道分解 $$X=\coprod_iO_G(S_i)$$ が得られる.したがって, $$\#X= \left( \begin{array}{cccc} p^rq \\ p^r \end{array} \right) =\sum_i\#O_G(S_i)$$ であって,補題から \(\#X\) は \(p\) で割り切れないので, \(\#O_G(S_0)\) が \(p\) で割り切れないようなある \(S_0\) が存在する.この \(S_0\) の固定化部分群を \(H:=Z_G(S_0)\ (=\{g\in G\ |\ gS_0=S_0\})\) とすると,次の定理から,
定理
群 \(G\) が集合 \(X\) に作用しているとき,
$$\#G=\#O_G(x)\ \#Z_G(x)$$
が成り立つ.また,これより, \(G\) が有限群ならば, \(\#O_G(x),\ \#Z_G(x)\) は \(\#G\) の約数である.
$$\#G=\#O_G(S_0)\ \#H \ .$$
したがって, \(\#O_G(S_0)\) が \(p\) で割り切れないから, \(\#H\) が \(p^r\) で割り切れて, \(\#H\geq p^r\) である.しかし, \(s\in S_0\) に対して, \(H\) が \(S_0\) の固定化部分群なので, \(Hs\subset S_0\) であり, $$Hs\subset S_0\Longrightarrow H\subset S_0s^{-1}\Longrightarrow \#H\leq \#(S_0s^{-1})=\#S_0=p^r$$ となる.したがって, \(\#H=p^r\) となり, \(H\) は Sylow p 部分群である.
(2) 有限群 \(G\) の p 部分群はある Sylow p 部分群に含まれる.
証明) Sylow p 部分群 \(H\) を 1 つ固定して, \(Y=G/H\) を考えると, $$\#G=\#H\ \#Y$$ より, \(\#Y=q\) なので \(p\) で割り切れない.ここで, p 部分群 \(K\) に関して,次の写像 $$K\times Y\ni (k,gH) \longmapsto (kg)H\in Y$$ は, \(K\) の \(Y\) への作用となって,軌道分解 $$Y=\coprod_iO_K(g_iH)$$ が得られて, $$\#Y=\sum_i\#O_K(g_iH)$$ が成り立つ.したがって, \(\#Y\) は \(p\) で割り切れないので, \(\#O_K(g_0H)\) が \(p\) で割り切れないような, \(g_0H\) が存在する.
しかし, \(\#K\) が \(p\) の冪であることと, $$\#K=\#O_K(g_0H)\ \#Z_K(g_0H)$$ より, \(\#O_K(g_0H)\) は \(p\) の冪なので, \(\#O_K(g_0H)=1\) である.
ここで, \(\#O_K(g_0H)=1\) であるとは,任意の \(k\in K\) について, \(kg_0H=g_0H\) となることなので, $$kg_0H=g_0H \Longrightarrow kg_0\in g_0H \Longrightarrow k\in g_0Hg_0^{-1}$$ より, \(K\subset g_0Hg_0^{-1}\) が成り立つ.
\(g_0Hg_0^{-1}\) は Sylow p 部分群であるので, p 群が Sylow p 部分群に含まれることが示せた.
証明) Sylow p 部分群 \(H\) を 1 つ固定して, \(Y=G/H\) を考えると, $$\#G=\#H\ \#Y$$ より, \(\#Y=q\) なので \(p\) で割り切れない.ここで, p 部分群 \(K\) に関して,次の写像 $$K\times Y\ni (k,gH) \longmapsto (kg)H\in Y$$ は, \(K\) の \(Y\) への作用となって,軌道分解 $$Y=\coprod_iO_K(g_iH)$$ が得られて, $$\#Y=\sum_i\#O_K(g_iH)$$ が成り立つ.したがって, \(\#Y\) は \(p\) で割り切れないので, \(\#O_K(g_0H)\) が \(p\) で割り切れないような, \(g_0H\) が存在する.
しかし, \(\#K\) が \(p\) の冪であることと, $$\#K=\#O_K(g_0H)\ \#Z_K(g_0H)$$ より, \(\#O_K(g_0H)\) は \(p\) の冪なので, \(\#O_K(g_0H)=1\) である.
ここで, \(\#O_K(g_0H)=1\) であるとは,任意の \(k\in K\) について, \(kg_0H=g_0H\) となることなので, $$kg_0H=g_0H \Longrightarrow kg_0\in g_0H \Longrightarrow k\in g_0Hg_0^{-1}$$ より, \(K\subset g_0Hg_0^{-1}\) が成り立つ.
\(g_0Hg_0^{-1}\) は Sylow p 部分群であるので, p 群が Sylow p 部分群に含まれることが示せた.
(3) Sylow p 部分群は互いに共役である.
証明) \(K\) を Sylow p 部分群とすると, (2) の証明より, \(K\subset gHg^{-1}\) がわかり,また, \(\#K=\#(gHg^{-1})\) であるので, \(K=gHg^{-1}\) となる.
よって, Sylow p 部分群は互いに共役である.
証明) \(K\) を Sylow p 部分群とすると, (2) の証明より, \(K\subset gHg^{-1}\) がわかり,また, \(\#K=\#(gHg^{-1})\) であるので, \(K=gHg^{-1}\) となる.
よって, Sylow p 部分群は互いに共役である.
(4) Sylow p 部分群の個数を \(n_p\) とすると,
$$n_p\equiv 1 \quad mad\ p\ .$$
証明) Sylow p 部分群全体の集合を $$Z=\{H_1,\dots,H_s \}$$ として, Sylow p 部分群 \(H\in Z\) を 1 つ固定する.このとき写像 $$H\times Z\ni (h,H_i)\longmapsto hH_ih^{-1}\in Z$$ は \(H\) の \(Z\) への作用となる.ここで, \(H_i\) の軌道 $$O_H(H_i)=\{hH_ih^{-1}\ |\ h\in H\}$$ の元が 1 つならば, \(H=H_i\) であることを示す.
もし, \(H_i\) の軌道の元が 1 つならば,任意の \(h\in H\) に対して, \(hH_ih^{-1}=H_i\) となる.これより \(h\) は作用 $$G\times Z\ni (g,H_i)\longmapsto gH_ig^{-1}\in Z$$ を考えたときの正規化群 \(N_G(H_i)\) の元であり, \(H\subset N_G(H_i)\) となる. また,当然 \(H_i\subset N_G(H_i)\)でもある.
\(\#N_G(H_i)\) の位数は, $$\#G=\#O_G(H_i)\#N_G(H_i)$$ より, \(\#N_G(H_i)\) は \(\#G=p^rq\) の約数で, $$\#N_G(H_i)=\#N_G(H_i)/H_i\ \#H_i$$ より, \(\#N_G(H_i)\) は \(\#H_i=p^r\) の倍数でなので, \(\#N_G(H_i)=p^rq’\) ( \(q’\) は \(p\) で割れない)とわかる.したがって, \(H,H_i\) は \(N_G(H_i)\) の Sylow p 部分群である.
\(H,H_i\) は \(N_G(H_i)\) の Sylow p 部分群であるので,定理の (3) より,ある \(g\in N_G(H_i)\) があって, \(H=gH_ig^{-1}\) となるが, \(H_i\triangleleft N_G(H_i)\) より, $$H=gH_ig^{-1}=H_i$$ となる.よって, \(\#O_H(H_i)=1\) ならば \(H=H_i\) である.
\(\#Z\) は \(H\) による軌道により, $$\#Z=\sum_i\#O_H(H_i)$$ とかける.ここで, \(\#K=p^r\) かつ, $$\#H=\#O_H(H_i)\ \#Z_H(H_i)$$ より, \(\#O_H(H_i)\) は \(\#H\) の約数なので \(p\) の冪でかけることと, \(\#O_H(H_i)=1\) となるのが, \(H_i=H\) のときのみであることから, $$\#O_H(H_i) \equiv \left\{ \begin{array}{cccc} 1 \quad (H_i=H)\\ 0 \quad (H_i\neq H) \end{array} \right. \quad mod\ p\ .$$ したがって, $$\#Z \equiv 1 \quad mod\ p\ .$$
証明) Sylow p 部分群全体の集合を $$Z=\{H_1,\dots,H_s \}$$ として, Sylow p 部分群 \(H\in Z\) を 1 つ固定する.このとき写像 $$H\times Z\ni (h,H_i)\longmapsto hH_ih^{-1}\in Z$$ は \(H\) の \(Z\) への作用となる.ここで, \(H_i\) の軌道 $$O_H(H_i)=\{hH_ih^{-1}\ |\ h\in H\}$$ の元が 1 つならば, \(H=H_i\) であることを示す.
もし, \(H_i\) の軌道の元が 1 つならば,任意の \(h\in H\) に対して, \(hH_ih^{-1}=H_i\) となる.これより \(h\) は作用 $$G\times Z\ni (g,H_i)\longmapsto gH_ig^{-1}\in Z$$ を考えたときの正規化群 \(N_G(H_i)\) の元であり, \(H\subset N_G(H_i)\) となる. また,当然 \(H_i\subset N_G(H_i)\)でもある.
\(\#N_G(H_i)\) の位数は, $$\#G=\#O_G(H_i)\#N_G(H_i)$$ より, \(\#N_G(H_i)\) は \(\#G=p^rq\) の約数で, $$\#N_G(H_i)=\#N_G(H_i)/H_i\ \#H_i$$ より, \(\#N_G(H_i)\) は \(\#H_i=p^r\) の倍数でなので, \(\#N_G(H_i)=p^rq’\) ( \(q’\) は \(p\) で割れない)とわかる.したがって, \(H,H_i\) は \(N_G(H_i)\) の Sylow p 部分群である.
\(H,H_i\) は \(N_G(H_i)\) の Sylow p 部分群であるので,定理の (3) より,ある \(g\in N_G(H_i)\) があって, \(H=gH_ig^{-1}\) となるが, \(H_i\triangleleft N_G(H_i)\) より, $$H=gH_ig^{-1}=H_i$$ となる.よって, \(\#O_H(H_i)=1\) ならば \(H=H_i\) である.
\(\#Z\) は \(H\) による軌道により, $$\#Z=\sum_i\#O_H(H_i)$$ とかける.ここで, \(\#K=p^r\) かつ, $$\#H=\#O_H(H_i)\ \#Z_H(H_i)$$ より, \(\#O_H(H_i)\) は \(\#H\) の約数なので \(p\) の冪でかけることと, \(\#O_H(H_i)=1\) となるのが, \(H_i=H\) のときのみであることから, $$\#O_H(H_i) \equiv \left\{ \begin{array}{cccc} 1 \quad (H_i=H)\\ 0 \quad (H_i\neq H) \end{array} \right. \quad mod\ p\ .$$ したがって, $$\#Z \equiv 1 \quad mod\ p\ .$$
以上で証明は終了です.お疲れ様でした.