連分数【数論2】

今回は連分数について解説します.

 

1. 正の連分数

\(a_n > 0\ (n\neq 0)\) である実数列 \(\{a_n\}_n\) に対して,

\[[a_0;a_1a_2\cdots a_n]:=a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

と定める.

補題 1.1
\(a_n >0\ (n\neq 0)\) である実数列 \(\{a_n\}_n\) に対して, \[p_{-1}=1 \ ,\quad p_0=a_0\ ,\quad p_n=a_np_{n-1}+p_{n-2} \] \[q_{-1}=0 \ ,\quad q_0=1\ ,\quad q_n=a_nq_{n-1}+q_{n-2} \] と定める.このとき,\(n\geq 1\) で次が成り立つ. \[[a_0;a_1a_2\cdots a_n] = \frac{p_n}{q_n}\]

証明
帰納法を用いる.\([a_0;a_1]\) に対して成り立つことは容易に確かめられる.( \(a_0\neq 0\) ならば \(n=0\) でも成り立つ)\(k\geq 1\) に対して \[[a_0;a_1a_2\cdots a_k] = \frac{p_k}{q_k}\] が成り立つとする.このとき \(b_k = a_k+\displaystyle\frac{1}{a_{k+1}}\) とおくと, \[[a_0;a_1a_2\cdots a_{k-1}b_k] = [a_0;a_1a_2\cdots a_ka_{k+1}]\] である.また,仮定より \[[a_0;a_1a_2\cdots a_{k-1}b_k] = \frac{p’_k}{q’_k}\] と表せて, \[p’_k = b_kp_{k-1}+p_{k-2} \ ,\quad q’_k = b_kq_{k-1}+q_{k-2} \] である.したがって, \begin{eqnarray} \frac{p’_k}{q’_k} &=& \frac{a_{k+1}a_{k}p_{k-1}+p_{k-1}+a_{k+1}p_{k-2}}{a_{k+1}a_{k}q_{k-1}+q_{k-1}+a_{k+1}q_{k-2}} \\ &=& \frac{a_{k+1}p_{k}+p_{k-1}}{a_{k+1}q_{k}+q_{k-1}} = \frac{p_{k+1}}{q_{k+1}} \end{eqnarray} すなわち,\([a_0;a_1a_2\cdots a_{k+1}] = \displaystyle\frac{p_{k+1}}{q_{k+1}}\) である.

補題 1.2
補題 1.1 と同様の設定とする.このとき,以下が成り立つ. \[p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}=(-1)^{n+1}\]

証明
\(p_n,\ q_n\) の定め方から, \begin{eqnarray} \begin{pmatrix} p_{n} & p_{n-1} \\ q_{n} & p_{n-1} \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} p_{n-1} & p_{n-2} \\ q_{n-1} & p_{n-2} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} p_{0} & p_{-1} \\ q_{0} & p_{-1} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_1 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} a_0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray} が成り立つ.したがって,両辺の行列式を考えれば, \[p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}=(-1)^{n+1}\] が成り立つ.

命題 1.3
\(a_n\geq 1\ (n\neq 0)\) である整数列 \(\{a_n\}_n\) に対して,\([a_0;a_1a_2\cdots a_n]\) は \(n\to\infty\) で収束する.

証明
まず,収束性をみる.補題 1.1 のように \(p_n,\ q_n\) をとると,\([a_0;a_1a_2\cdots a_n]=\displaystyle\frac{p_n}{q_n}\) と書けて,補題 1.2 より \[\frac{p_n}{q_n}-\frac{p_{n-1}}{q_{n-1}}=\frac{p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}}{q_nq_{n-1}} = \frac{(-1)^{n+1}}{q_nq_{n-1}}\] となる.\(a_n\geq 1\ (n\neq 0)\) より \(\{q_n\}\) が狭義単調増加するから, \[\lim_{n\to\infty}q_n=\infty\ \Longrightarrow\ \left|\frac{p_n}{q_n}-\frac{p_{n-1}}{q_{n-1}}\right|\to 0\] である.したがって,交代級数 \[\sum_{n=0}^{\infty} \left(\frac{p_n}{q_n}-\frac{p_{n-1}}{q_{n-1}}\right) = \lim_{n\to\infty}\frac{p_n}{q_n}-\frac{p_0}{q_0}\] は収束するから \(\displaystyle\frac{p_n}{q_n}\) は収束する.

\(\displaystyle\lim_{n\to\infty}[a_0;a_1a_2\cdots a_n]\) を \([a_0;a_1a_2\cdots]\) または

\[a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}\]

と表し,この分数表示と有限の分数表示

\[a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

を併せて正の(正則)連分数と呼ぶ.ただし,\(\{a_n\}_n\) は \(a_n\geq 1\ (n\neq 0)\) なる整数列である.

 

2. 正の連分数展開

\(x\in \mathbb{R}\setminus \mathbb{Q}\) に対して次のように定める.

\[x_0=x\ ,\quad a_0=[x]\]

\[x_{n+1}=\frac{1}{x_n-a_n} > 1 \ ,\quad a_{n+1}=[x_{n+1}] \geq 1\]

ただし \([x]\) は \(x\) を超えない最大の整数とする.このとき,

\[x=a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{x_n}}}}\]

を得る.すなわち整数列 \(\{a_n\}_n\) を得る.

命題 2.1
\(x\in \mathbb{R}\setminus \mathbb{Q}\) に対して上の操作で得られる整数列を \(\{a_n\}_n\) とする.このとき, \[x=[a_0;a_1a_2\cdots]\] である.

証明
補題 1.1 を用いれば, \[x=[a_0;a_1a_2\cdots a_nx_{n+1}] = \displaystyle\frac{p’_{n+1}}{q’_{n+1}} = \displaystyle\frac{x_{n+1}p_{n}+p_{n-1}}{x_{n+1}q_{n}+q_{n-1}}\] と表せる.また, \[[a_0;a_1a_2\cdots a_{n-1}a_n] = \displaystyle\frac{p_n}{q_n}\] であるから,補題 1.2 より \begin{eqnarray} \frac{p_n}{q_n}-x &=& \frac{p_n}{q_n}-\frac{x_{n+1}p_{n}+p_{n-1}}{x_{n+1}q_{n}+q_{n-1}} \\ &=& \frac{p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}}{q_n(x_{n+1}q_{n}+q_{n-1})} \\ &=& \frac{(-1)^{n+1}}{q_n(x_{n+1}q_{n}+q_{n-1})} \end{eqnarray} である.したがって, \[\left|\frac{p_n}{q_n}-x\right|\leq \frac{1}{q_{n}^2}\to 0\]

また,\(x\in\mathbb{Q}\) に対して同様に \(x_n,\ a_n\) を定めると,容易にわかるように有限の \(n\) で \(x_n=a_n\) となり,

\[x=a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

を得る.すなわち任意の \(x\in\mathbb{R}\) は

\[x=a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}\]

または

\[x=a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{a_2 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

なる連分数表示を持つ.この表示を \(x\) の正の(正則)連分数展開と呼ぶ.

 

3. 正の連分数展開の一意性

命題 3.1
\(\omega=[a_0;a_1a_2\cdots]\) は無理数である.また,無理数の正の連分数展開は一意的である.

証明
補題 1.1 より \([a_0;a_1a_2\cdots a_n]=\displaystyle\frac{p_n}{q_n}\) と書ける.ここで, \[\frac{p_n}{q_n}-\frac{p_{n-2}}{q_{n-2}} = \frac{(-1)^{n+1}}{q_nq_{n-1}}+\frac{(-1)^n}{q_{n-1}q_{n-2}}\] であるから \(\displaystyle\frac{p_{2k}}{q_{2k}}\) は狭義単調増加し,\(\displaystyle\frac{p_{2k+1}}{q_{2k+1}}\) は狭義単調減少する.ここで,容易にわかるように任意の \(n\geq 2\) で \[a_0< [a_0;a_1a_2\cdots a_n] < a_0+1\] であるから \[a_0< \omega < a_0+1\] となる.すなわち \(a_0=[\omega]\) である.\(\omega_1=\displaystyle\frac{1}{\omega-a_0}\) と定めると, \[\omega_1 = [a_1;a_2a_3\cdots ]\] となる.全く同様に \(a_1< \omega_1 < a_1+1\) であり \(a_1=[\omega_1]\) となる.以下同様に繰り返すと,\(\omega\) の正の連分数展開は \(\{a_n\}_n\) であることがわかる.よって,連分数展開は一意的である.また,この作り方では有理数の連分数展開は有限でないとならないから \(\omega\) は無理数である.

命題 3.1 より \(x\) の正の連分数展開が有限かは \(x\) が有理数か無理数かによって定まる.

無理数の正の連分数展開は一意的に定まるが,有理数の正の連分数展開は一般に一意的でない.なぜならば,

\[a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{a_n}}} = a_0 +\frac{1}{a_1 +\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} +\displaystyle\frac{1}{(a_n-1)+\displaystyle\frac{1}{1}}}}\]

と表せるからである.ここで,\(x\in\mathbb{Q}\) の正の連分数展開を \([a_0;a_1a_2\cdots a_n]\) とするとき,\(a_n\geq 2\) としておく.このとき正の連分数展開は一意的となることを確かめる.

命題 3.2
\(x\in\mathbb{Q}\) の正の連分数展開に対して,最終の項が \(1\) でない展開は一意的である.

証明
\(x=[a_0;a_1a_2\cdots a_n]\) とする.\(a_n\geq 2\) とすると,命題 2.2 の証明と全く同様の考察により \(0\leq k\leq n-1\) で \(a_k\) は一意に定まる.したがって \(a_n\) の連分数展開は \(a_0=[a_0]\) と \(a_0=[a_0-1;1]\) のみであるので,結局全ての \(a_k\) は一意的に定まる.

 

4. 負の連分数

負の連分数は定義はやや不自然に感じるが,正の連分数に比べて良い性質を持っている.

\(a_n \geq 2\ (n\neq 0)\) である実数列 \(\{a_n\}_n\) に対して,

\[[[a_0;a_1a_2\cdots a_n]]:=a_0 -\frac{1}{a_1 -\displaystyle\frac{1}{a_2 -\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1}-\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

と定める.

定義から容易にわかるように \( [[a_0;a_1a_2\cdots a_n]] \) は単調減少する.また,\(x \geq 2,\ y > 1\) ならば \(x-\displaystyle\frac{1}{y} > 1\) であるから \(n\geq 1\) で \(a_0-1 < [[a_0;a_1a_2\cdots a_n]] < a_0\) となる.したがって,\( [[a_0;a_1a_2\cdots a_n]] \) は \(n\to\infty\) で収束する.

正の連分数と同様に \(\displaystyle\lim_{n\to\infty}[[a_0;a_1a_2\cdots a_n]]\) を \([[a_0;a_1a_2\cdots]]\) または

\[a_0 -\frac{1}{a_1 -\displaystyle\frac{1}{a_2 -\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}\]

と表す.この分数表示と有限の分数表示

\[a_0 -\frac{1}{a_1 -\displaystyle\frac{1}{a_2 -\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} -\displaystyle\frac{1}{a_n}}}}\]

を併せて負の(正則)連分数と呼ぶ.ただし,\(\{a_n\}_n\) は \(a_n\geq 2\ (n\neq 0)\) なる整数列である.

補題 4.1
\(a_n\geq 2\ (n\neq 0)\) である実数列 \(\{a_n\}_n\) に対して, \[p_{-1}=1 \ ,\quad p_0=a_0\ ,\quad p_n=a_np_{n-1}-p_{n-2} \] \[q_{-1}=0 \ ,\quad q_0=1\ ,\quad q_n=a_nq_{n-1}-q_{n-2} \] と定める.このとき,\(n\geq 1\) で次が成り立つ. \[[[a_0;a_1a_2\cdots a_n]] = \frac{p_n}{q_n}\]

証明
証明は補題 1.1 と全く同様である.

補題 4.2
補題 4.1 と同様の設定とする.このとき,以下が成り立つ. \[p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}=-1\]

証明
\(p_n,\ q_n\) の定め方から, \begin{eqnarray} \begin{pmatrix} p_{n} & p_{n-1} \\ q_{n} & p_{n-1} \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} p_{n-1} & p_{n-2} \\ q_{n-1} & p_{n-2} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} p_{0} & p_{-1} \\ q_{0} & p_{-1} \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_1 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \\ &=& \begin{pmatrix} a_0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a_1 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray} が成り立つ.したがって,両辺の行列式を考えれば, \[p_nq_{n-1}-q_np_{n-1}=-1\] が成り立つ.

 

5. 負の連分数展開

\(x\in \mathbb{R}\) に対して次のように定める.

\[x_0=x\ ,\quad a_0=[x]+1\]

\[x_{n+1}=\frac{1}{a_n-x_n} \geq 1 \ ,\quad a_{n+1}=[x_{n+1}]+1 \geq 2\]

ただし \([x]\) は \(x\) を超えない最大の整数とする.このとき,

\[x=a_0 -\frac{1}{a_1 -\displaystyle\frac{1}{a_2 -\displaystyle\frac{1}{\ddots a_{n-1} -\displaystyle\frac{1}{x_n}}}}\]

を得る.この操作は任意の \(n\) で \(a_{n}\neq x_{n}\) となるから無限に可能である.すなわち整数列 \(\{a_n\}_n\) を得る.

命題 5.1
\(x\in \mathbb{R}\) に対して上の操作で得られる整数列を \(\{a_n\}_n\) とする.このとき, \[x=[[a_0;a_1a_2\cdots]]\] である.

証明
補題 4.1 を用いれば, \[x=[[a_0;a_1a_2\cdots a_nx_{n+1}]] = \displaystyle\frac{p’_{n+1}}{q’_{n+1}} = \displaystyle\frac{x_{n+1}p_{n}-p_{n-1}}{x_{n+1}q_{n}-q_{n-1}}\] と表せる.また, \[[[a_0;a_1a_2\cdots a_{n-1}a_n]] = \displaystyle\frac{p_n}{q_n}\] であるから,補題 4.2 より \begin{eqnarray} \frac{p_n}{q_n}-x &=& \frac{p_n}{q_n}-\frac{x_{n+1}p_{n}-p_{n-1}}{x_{n+1}q_{n}-q_{n-1}} \\ &=& \frac{-p_nq_{n-1}+q_np_{n-1}}{q_n(x_{n+1}q_{n}-q_{n-1})} \\ &=& \frac{1}{q_n(x_{n+1}q_{n}-q_{n-1})} \end{eqnarray} である.したがって, \[\left|\frac{p_n}{q_n}-x\right|\leq \frac{1}{q_{n}^2}\to 0\]

命題 5.1 より,任意の \(x\in\mathbb{R}\) は

\[x=a_0 -\frac{1}{a_1 -\displaystyle\frac{1}{a_2 -\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}\]

なる連分数表示を持つ.この表示を \(x\) の負の(正則)連分数展開と呼ぶ.

注意:負の連分数展開では常に無限に続く連分数による表示を考える.

 

6. 負の連分数展開の一意性と性質

命題 6.1
負の連分数展開は一意的である.

証明
\(\omega=[[a_0;a_1a_2\cdots]]\) とする.任意の \(n\geq 1\) で \[a_0-1 < [[a_0;a_1a_2\cdots a_n]] < a_0\] かつ \([[a_0;a_1a_2\cdots a_n]]\searrow \omega\) であるから, \[a_0-1 \leq \omega < a_0\] となる.すなわち \(a_0=[\omega]+1\) である.\(\omega_1=\displaystyle\frac{1}{a_0-\omega}\) と定めると, \[\omega_1 = [a_1;a_2a_3\cdots ]\] となる.全く同様に \(a_1-1 \leq \omega_1 < a_1+1\) であり \(a_1=[\omega_1]+1\) となる.以下同様に繰り返すと,\(\omega\) の正の連分数展開は \(\{a_n\}_n\) であることがわかる.よって,連分数展開は一意的である.

命題 6.2
\(x\) の負の連分数展開を \([[a_0;a_1a_2\cdots]]\) とする.このとき,\(n\geq N\) ならば \(a_n=2\) となる \(N\) が存在することと \(x\in\mathbb{Q}\) であることは同値でである.

証明
\(x=[[2;2,2,\cdots]]\) とおくと,\(x=[[2;x]]=2-\displaystyle\frac{1}{x}\) である.これを解けば \(x=1\) である.したがって,\(n\geq N\) で \(a_n=2\) とすると, \[[[a_0;a_1a_2\cdots a_{N-1}a_{N}a_{N+1}\cdots]] = [[a_0;a_1a_2\cdots a_{N-2}(a_{N-1}-1)]]\] となる.右辺は明らかに有理数である.
逆を示す.まず,上で示したように \(1=[[2;2,2,\cdots]]\) であるから,\(x\in\mathbb{Z}\) のとき,明らかに \(x\) の連分数展開は \[x=(x+1)-\frac{1}{2-\displaystyle\frac{1}{2-\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}\] となる.\(x_0\in\mathbb{Q}\) とする.\(x_0\notin\mathbb{Z}\) ならば,\(x_0=\displaystyle\frac{g_0p_0+r_0}{p_0}\) と表示できる.ただし \(0 < r_0 < p_0\) である.このとき,\(a_0:=[x_0]+1=g_0+1\) であり, \[x_1 := \frac{1}{a_0-x_0} = \frac{p_0}{p_0-r_0}\] となる.ここで,\(x_1\in\mathbb{Z}\) ならば, \[x=a_0-\frac{1}{x_1}=a_0-\frac{1}{(x_1+1)-\displaystyle\frac{1}{2-\displaystyle\frac{1}{2-\displaystyle\frac{1}{\ddots}}}}\] となり,証明が終わる.\(x_1\notin\mathbb{Z}\) ならば,このとき\(p_1=p_0-r_0\) とおけば \(0 < p_1 < p\) であり,\(x_1=\displaystyle\frac{g_1p_1+r_1}{p_1},\ (0 < r_0 < p_0)\) と表示できる.\(x_0\) に施した操作を繰り返し行うことで,\(0 < p_n < \cdots < p_1 < p_0\) となるから,有限回の操作で \(x_n\in\mathbb{Z}\) となる.これで,主張が示された.

 

7. 正の連分数と負の連分数の変換

補題 7.1
次の等式が成り立つ.
\[ \begin{pmatrix} a & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} b & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a+1 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \underbrace{ \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} }_{b-1} \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 0 & -1 \end{pmatrix} \]

証明
次のようになることを用いて,右辺と左辺が一致することを確かめれば分かる.
\[ \underbrace{ \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} }_{b-1} = \begin{pmatrix} b & b-1 \\ -(b-1) & -(b-2) \end{pmatrix} \]

命題 7.2
\[ [a_0;a_1,a_2,\cdots] = [[(a_0+1);\underbrace{2,2,\cdots ,2}_{a_1-1},(a_2+2),\underbrace{2,2,\cdots ,2}_{a_3-1},(a_4+2),2,2,\cdots]] \]

証明
補題 1.1 より \([a_0;a_1,a_2,\cdots a_n] = \displaystyle\frac{p_n}{q_n}\) であり,\(p_n,\ q_n\) の定め方から
\[ \begin{pmatrix} p_{n} & p_{n-1} \\ q_{n} & p_{n-1} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a_0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} a_n & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \]
が成り立つ.したがって,補題 7.1 より \(n\) が偶数のとき,
\begin{eqnarray} && \begin{pmatrix} p_{n} & p_{n-1} \\ q_{n} & p_{n-1} \end{pmatrix} \\ &&\quad = \begin{pmatrix} a_0+1 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \underbrace{ \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} }_{a_1-1} \\ &&\quad\quad \begin{pmatrix} a_2+2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \underbrace{ \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} }_{a_3-1} \\ &&\quad\quad\cdots \begin{pmatrix} a_{n-2}+2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \underbrace{ \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \cdots \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} }_{a_{n-1}-1} \begin{pmatrix} a_{n}+2 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray}
となる.したがって,補題 4.1 の定め方から,
\[\frac{p_n}{q_n} = [[(a_0+1);\underbrace{2,\cdots ,2}_{a_1-1},(a_2+2),2,\cdots ,2,(a_{n-2}+2),\underbrace{2,\cdots ,2}_{a_{n-1}+2},(a_{n}+2)]] \]
となる.よって,両辺の極限を取ることで主張が示される.

 

8. 連分数と整数係数二次方程式の関係(おまけ)

連分数と整数係数二次方程式との関係を紹介する.ここでは証明はしない.

正の連分数 \([a_0;a_1a_2\cdots]\) に対して,ある整数 \(r\geq 1,\ N\geq 0\) が存在して,

\[n\geq N \Longrightarrow a_{n+r}=a_n\]

となるとき,\([a_0;a_1a_2\cdots]\) を正の循環連分数と呼ぶ.また,このとき,

\[ [a_0;a_1a_2\cdots a_N\overline{a_{N+1}\cdots a_{N+r}} ] \]

と表す.また,\( [\overline{a_0;a_1a_2\cdots a_r} ] \) であるとき,正の純循環連分数と呼ぶ.

同様に負の循環連分数負の純循環連分数を定める.

命題 8.1
\(x\in\mathbb{R}\) に対して,次の 3 つは同値である.
(i) \(x\) はある \(\mathbb{Z}\) 係数二次方程式の根である.
(ii) \(x\) の正の連分数展開は,正の循環連分数,または,有限で止まる.
(iii) \(x\) の負の連分数展開は,負の循環連分数である.

\(f(x,y)=ax^2+bxy+cy^2\in\mathbb{Z}[x,y]\) に対して,\(b^2-4ac >0\) であり,

\[a > 0\ ,\quad b > 0\ ,\quad b > a+c\]

が成り立つとき,\(f(x,y)\) は正の判別式を持つ簡約された二次形式という.

命題 8.2
\(\omega\in\mathbb{R}\) に対して,次の 2 つは同値である.
(i) ある正の判別式を持つ簡約された二次形式 \(ax^2+bxy+cy^2\) があって,\(\omega\) は二次方程式 \(ax^2-bx+c=0\) の大きい方の解である.
(ii) \(\omega\) の負の連分数展開は,負の純循環連分数である.

\(\omega=[\overline{a_0;a_1a_2\cdots a_r} ]\in\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}\) に対して,命題 8.1 より
\[\omega = \frac{b+c\sqrt{D}}{a}\quad (a,b,c,D\in\mathbb{Z})\]
と表せる.このとき,\(\omega’=\displaystyle\frac{b-c\sqrt{D}}{a}\) と定めて \(\omega\) の共役と呼ぶ.

命題 8.3
\[ \omega=[\overline{a_0;a_1a_2\cdots a_r}]\ \Rightarrow\ -\frac{1}{\omega’}=[\overline{a_r;a_{r-1}a_{r-2}\cdots a_0}]\]

\(\omega=[[\overline{a_0;a_1a_2\cdots a_r} ]]\) は \(1\) か無理数であり,\(\omega\) に対しても同様に共役 \(\omega’\) が定まる.

命題 8.4
\[ \omega=[[\overline{a_0;a_1a_2\cdots a_r}]]\ \Rightarrow\ \frac{1}{\omega’}=[[\overline{a_r;a_{r-1}a_{r-2}\cdots a_0}]]\]

 

9. 連分数展開の例

\(\psi\) を白金数,\(\phi\) を黄金数,\(e\) をネイピア数,\(\pi\) を円周率とする.

\[\psi := 1+\sqrt{2} = [\overline{2}] = [[3;\overline{2,4}]]\]

\[\psi^{-1} = [0;\overline{2}] = [[1;\overline{2,4}]]\]

\[\phi^{-1}=\frac{2}{1+\sqrt{5}}=[0;\overline{1}] = [[1;\overline{3}]]\]

\[\sqrt{3}=[1;\overline{1,2}] = [[2;\overline{4}]]\]

\begin{eqnarray} e &=& [2;1,2,1,1,4,1,1,6,1,1,8,1,1,10,\cdots] \\ &=& [[3;4,3,2,2,2,3,8,3,2,2,2,\cdots]] \end{eqnarray}

\begin{eqnarray} \pi &=& [3;7,15,1,292,1,1,1,2,1,3,1,14,3,\cdots] \\ &=& [[4;2,2,2,2,2,2,17,294,3,4,5,16,2,2,\cdots]] \end{eqnarray}

\(e,\pi\) は循環連分数にならないと予想できる.実際,この 2 つの数は代数的数でないことが知られているからこれは正しい.

\(e\) の連分数展開には明らかに規則性があるが,\(\pi\) の連分数展開にはそれが見出せない.しかし,正則でない連分数(分母が \(1\) とは限らない連分数)での展開を考えれば,規則性を見つけることができる.

この章は Continued fraction-Wikipedia (2022/3/6) https://en.wikipedia.org/wiki/Continued_fraction を参照した.

 

参考文献
・高木貞治,初等整数論講義
・D.ザギヤー,数論入門
・遠山啓,初等整数論

 

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