関数解析5(逆作用素と閉作用素)

\(X,Y,Z\) は \(K\) ベクトル空間とする.( \(K\) は \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) である )
 

逆作用素

定義 5.1
\(X\) から \(Y\) への線形作用素 \(T\) に対して,\(S\) が \(T\) の逆作用素であるとは \(S\) が \(Y\) から \(X\) への線形作用素であって, \[R(S)\subset D(T) \ ,\quad TSy = y \quad (y\in D(S))\] かつ, \[R(T)\subset D(S)\ ,\quad STx = x\quad (x\in D(T))\] を満たすことである.またこのとき,\(S\) を \(T^{-1}\) で表す.

ここで \(T\) の逆作用素 \(S\) は ( 定義域を除いて ) 一意的に定まる.実際,\(T\) の逆作用素 \(S,S’\) が存在すると仮定すると,任意の \(y\in D(S)=D(S’)\) に対して,

\[ TSy = y\ ,\ S’T(Sy) = Sy \ \Longrightarrow \ S’y = S’TSy = Sy \]

が成り立つからである.

\(X,Y,Z\) をノルム空間とし,\(T\in \mathscr{B}(X,Y),S\in \mathscr{B}(Y,Z)\) の逆作用素 \(T^{-1}\in \mathscr{B}(Y,X),\) \(S^{-1}\in \mathscr{B}(Z,Y)\) が存在すると仮定すると,

\[(TS)^{-1} = S^{-1}T^{-1}\]

となる.なぜなら,任意の \(y\in Y\) に対して

\[(TS)(S^{-1}T^{-1})y = TT^{-1}y = y\]

が成り立つ.また,任意の \(y\in Y\) に対して

\[ (S^{-1}T^{-1})(TS)y = S^{-1}Sy = y \]

が成り立つからである.

命題 5.2
\(X\) をバナッハ空間とし,\(T\in \mathscr{B}(X,X)\) をとる.もし,\(\|T\|<1\) ならば \((I-T)^{-1}\in \mathscr{B}(X,X)\) が存在し, \[(I-T)^{-1} = I+T+T^2+T^3+\cdots\] である.また,\(\|(I-T)^{-1}\| \leq \frac{1}{1-\|T\|}\) である.

* \(I+T+T^2+\cdots\) をノイマン ( Neumann ) 級数と呼ぶ.

証明
\(\|T\|<1\) だから \(\sum_{k=0}^{\infty}\|T\|^k\) は収束する.また,\(\|T^k\|\leq \|T\|^k\) であるから,任意の \(\varepsilon\) に対して \(n,m\) を十分に大きくすると, \[ \left\|\sum_{k=0}^{n}T^k-\sum_{k=0}^{m}T^k\right\| = \left\|\sum_{k=m+1}^{n}T^k\right\| \leq \sum_{k=m+1}^{n}\|T\|^k < \varepsilon \] となり,\(\sum_{k=0}^{n}T^k\) はコーシー列であるので,\(\mathscr{B}(X,X)\) の完備性より極限値 \(\tilde{T}\) が存在する.ここで, \[(I-T)\tilde{T} = \tilde{T}(I-T) = \sum_{k=0}^{\infty}T^{k}-\sum_{k=0}^{\infty}T^{k+1} = T^0 = I\] より, \((I-T)^{-1}=\tilde{T}\) である.また, \[\|(I-T)^{-1}\| = \left\|\sum_{k=0}^{\infty}T^k\right\| \leq \sum_{k=0}^{\infty}\|T\|^k = \frac{1}{1-\|T\|}\]

 

逆作用素の例

例 5.3 ( \(l^p\) 上の作用素)
作用素 \(T_n:l^p\to l^p\ \ (n\in\mathbb{Z})\) を関数解析 \(4\) 例 \(4.9\) で定めた有界線形作用素 \[T_nx = \left\{ \begin{array}{ccc} (x_n,x_{n+1},x_{n+2},\cdots) & \quad & (n\geq 0) \\ (\underbrace{0,\cdots,0}_{|n|},x_0,x_1,x_2,\cdots) & \quad & (n\leq 0) \end{array} \right. \] とする.ここで,\(n\geq 0\) に対して \(T_n\) の定義域を \(R(T_{-n})\) に制限する.このとき \[T_{-n}T_{n}x = x \quad(x\in R(T_{-n}))\] \[T_nT_{-n}y = y \quad(y\in l^p)\] が成り立つので,これは逆作用素である.

例 5.4 ( \(L^p(\Omega)\) 上の作用素)
関数 \(k:\Omega\to\mathbb{C}\) が実数 \(\alpha \geq \beta >0\) があって, \[\beta\leq |k(x)|\leq \alpha\quad (\mu -\text{a.e.})\] を満たす関数とする.このとき,\(f,g\in L^p(\Omega)\) に対して, \[(Tf)(x) = k(x)f(x)\] \[(Sg)(x) = \frac{g(x)}{k(x)}\] と定めると,\(T,S\in \mathscr{B}(L^p(\Omega),L^p(\Omega))\) で \(S=T^{-1}\) である.

例 5.5 ( \(L^2(\Omega)\) 上の作用素)
作用素 \(T\in\mathscr{B}(L^2(\Omega),L^2(\Omega))\) を関数解析 \(4\) 例 \(4.11\) で定めた \[(Tf)(x) = \int_{\Omega}k(x,y)f(y)\ dy\] とする.ここで \(\Omega = [a,b]\) として, \[M(b-a)<1\quad \left(M:=\sup_{x,y\in[a,b]}|k(x,y)|\right)\] と仮定すると \(\|T\|<1\) であるから,\((I-T)^{-1}\in\mathscr{B}(L^2(\Omega),L^2(\Omega))\) が存在する.作用素\(H\) を次のように定める \[k_1(x,y)=k(x,y)\] \[k_n(x,y)=\int_{a}^{b}k_1(x,t)k_{n-1}(t,y)\ dt \quad (n>1)\] \[h(x,y)=\sum_{n=1}^{\infty}k_n(x,y)\] \[(Hg)(x) = \int_{a}^{b}h(x,y)g(y)\ dy\] この \(H\) によって \((I-T)^{-1}=I+H\) と表せる.( 証明略 )

 

閉作用素

関数解析 \(4\) 例 \(4.12\) で見たように有界線形作用素でない例が存在するから,有界線形作用素を含む線形作用素のクラスを考えたい.

実際,このような作用素は量子力学で現れ,これを扱うために非有界作用素の理論が生まれた.

\(T\) を \(X\) から \(Y\) への線形作用素に対して,\(X\times Y\) の部分集合 \(G(T)\) を

\[ G(T) = \left\{(x,Tx)\in X\times Y \mid x\in D(T)\right\} \]

と定める.この集合を \(T\) のグラフという.(一般の写像に対しても定義可能)この \(G(T)\) を

\[(x_1,y_1)+(x_2+y_2) = (x_1+x_2,y_1+y_2)\]

\[a(x,y) = (ax,ay)\]

によって部分空間とみなす.線形作用素のグラフは次のように特徴付けされる.

命題 5.6
\(T\) が線形作用素であるとき,\(G(T)\) は次を満たす. \[(0,y)\in G(T)\Rightarrow y=0\ .\] また \(G\) を \(X\times Y\) の部分空間で上の性質を満たすものとする.このとき \(G(S)=G\) となる線形作用素 \(S\) ただ一つ存在する.

証明
前半は定義から明らかである.

後半を示す. \((x,y)\in G\) に対して \(Sx=y\) と定める.この定義が well-defined であることは \((x,y),(x,y’)\in G\) をとると,仮定より \[(x,y)-(x,y’) = (0,y-y’) \Rightarrow y=y’\] であることからわかる.\(S\) が線形作用素であることは \(G\) が部分空間であることからわかる.一意性は well-def 性と全く同様.

定義 5.7
ノルム空間 \(X\) からノルム空間 \(Y\) への線形作用素 \(T\) が閉作用素であるとは \(G(T)\) が閉部分空間となることである.

ノルム空間の閉集合の定義から直ちわかるように ( 関数解析 \(1\) 参照 ) ,\(G(T)\) が閉部分集合であるとは,つまり \(T\) が閉作用素であるとは, \[ x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to x\in X \ , \ \ Tx_n\to y\in Y \] \[ \Longrightarrow x\in D(T)\ ,\ \ Tx = y \] を満たすことである.

線形作用素 \(T\) が連続で \(D(T)\) が閉部分空間であるとは, \[ x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to x\in X\] \[ \Longrightarrow x\in D(T)\ ,\ \ Tx_n\to y\in Y \ ,\ \ Tx = y \] を満たすことなので,明らかに \(T\) が \(D(T)\) が閉部分空間となる有界作用素 ( つまり連続 ) であるならば, \(T\) は閉作用素である.

特に \(Y\) がバナッハ空間であれば,任意の有界線形作用素は \(\mathscr{B}(X,Y)\) の元であると見做して良い ( 関数解析 \(4\) 定理 \(4.8\) 周辺を参照 ) ので有界線形作用素は閉作用素であると思える.

逆に次のことが知られている.

閉グラフ定理
\(X,Y\) がバナッハ空間とする.\(X\) から \(Y\) への閉作用素 \(T\) が \(D(T)=X\) であるとき,\(T\in \mathscr{B}(X,Y)\) である.

これを示すのは容易でないのでここでは紹介のみとする.

閉作用素の特徴づけとして次の定理がある.

定理 5.8
\(X,Y\) がバナッハ空間であるとき,\(X\) から \(Y\) への線形作用素 \(T\) が閉作用素であるための必要十分条件は定義域 \(D(T)\) に定めたノルム \[\|x\|_{D(T)} := \|x\|_X + \|Tx\|_Y \] によって,\(D(T)\) がバナッハ空間となることである.

証明
\(T\) を閉作用素とする.\(\{x_n\}\) を \(\|\cdot\|_{D(T)}\) における \(D(T)\) のコーシー列とする.このとき定義から,\(\{x_n\},\{Tx_n\}\) は \(X,Y\) のコーシー列である.\(X,Y\) の完備性より \(x_n\to x\in X\ ,\ \ Tx_n\to y\in Y\) となる \(x,y\) が存在する.したがって,\(T\) が閉作用素であるので \(x\in D(T)\ ,\ \ Tx=y\) となり, \[\|x_n-x\|_{D(T)} = \|x_n-x\|_X + \|Tx_n-Tx\|_Y \to 0\] であるので,\(D(T)\) はバナッハ空間である.

逆を示す.\(x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to x\in X \ , \ \ Tx_n\to y\in Y\) とすると,\(\{x_n\},\{T(x_n)\}\) はそれぞれ \(X,Y\) に対してコーシー列であるから \(\{x_n\}\) は \(\|\cdot\|_{D(T)}\) に対するコーシー列である.\(D(T)\) は完備なので \(x\in D(T)\) が存在して \[\|x_n-x\|_{D(T)} = \|x_n-x\|_X + \|Tx_n-Tx\|_Y \to 0\] となる.極限の一意性より \(x\in D(T)\ ,\ \ Tx=y\) である.

*閉作用素をバナッハ空間の間の作用素に制限して \(\|\cdot\|_{D(T)}\) の完備性で定義することも多い.

命題 5.9
\(X,Y\) をノルム空間とする.\(T\) を \(X\) から \(Y\) への閉作用素で,\(S\in \mathscr{B}(X,Y)\) とするとき,\(T+S\) も閉作用素である.

証明
まず,\(D(T+S)=D(T)\) である.ここで, \[ x_n\in D(T+S)\ ,\ \ x_n\to x\in X \ , \ \ (T+S)x_n\to y\in Y \] とすると \(S\) は連続なので,\(Sx_n\to Sx\in Y\) となり, \[\|Tx_n-(y-Sx)\| \leq \|(T+S)x_n-y\|+\|Sx-Sx_n\|\to 0\] だから,\(Tx_n\to y-Sx_n\) となる.したがって,\(T\) が閉作用素だから \[ x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to x\in X \ , \ \ Tx_n\to y-Sx\in Y \] \[ \Longrightarrow x\in D(T)\ ,\ \ Tx = y-Sx \] となり,\(x\in D(T+S)\) かつ \((T+S)x = y\) が成り立つ.よって,\(T+S\) は閉作用素である.

例 5.10 ( \(C[a,b]\) 上の作用素)
関数解析 \(4\) 例 \(4.12\) で定めた \(C[a,b]\) から \(C[a,b]\) への非有界線形作用素 \[(Tf)(x) = f'(x)\quad(f\in D(T))\] は閉作用素である.

証明
\(C[a,b]\) はバナッハ空間であるから \(\|\cdot\|_{D(T)}\) が完備であることを示せば良い. \[\|f_n-f_m\|_{D(T)} = \|f_n-f_m\|+\|f_n’-f_m’\|\to 0\] とすると \(C[a,b]\) の完備性から \[\|f_n-f\|\to 0\ ,\quad \|f_n’-g\|\to 0\] となる \(f,g\in C[a,b]\) が存在する. \[f_n(x)-f_n(a)=\int_{a}^{x}f_n'(y)\ dy\] であるから \(n\to\infty\) とすると \[f(x)-f(a)=\int_{a}^{x}g(y)\ dy\] である.ここで極限と積分の交換はノルム \(\|\cdot\|\) の定め方から \(f_n’\) が一様収束することからわかる.また同様に一様収束性から,\(f\in C^1[a,b]\) かつ \(f’=g\) .ゆえに \[\|f_n-f\|_{D(T)} = \|f_n-f\|+\|f_n’-f’\|\to 0\]

 

可閉な作用素

定義 5.11
線形作用素 \(T\) が可閉であるとは閉作用素 \(S\) で \(S|_{D(T)} = T\) となるものが存在することである.またこのとき,\(S\) を \(T\) の閉拡大という.

定理 5.12
\(X,Y\) をバナッハ空間とする.\(X\) から \(Y\) への線形作用素 \(T\) が可閉であるための必要十分条件は \[x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to 0\ ,\ \ Tx_n\to y \Longrightarrow y=0\] となることである.

証明
\(T\) を可閉とする.このとき閉拡大 \(T_1\) が存在し, \[x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to 0\ ,\ \ Tx_n\to y\] とすると,\(y=T_1(0)=0\) .

逆を示す.\(x_n\in D(T)\ ,\ \ x_n\to 0\ ,\ \ Tx_n\to y\) を仮定する.\(x_n\in D(T),\ x_n\to x\in X\) かつ \(\{Tx_n\}\) がコーシー列となる \(\{x_n\}\) が存在するような \(x\in X\) 全体の集合を \(D\) とする.\(\{Tx_n\}\) はコーシー列なので, \(Tx_n\to y\in Y\) となる \(y\) が存在する. \(\{x_n\}\) と同様の条件を満たす \(\{x’_n\}\) をとると,\(Tx’_n\to y’\in Y\) となる \(y’\) が存在する.このとき, \(x_n-x’_n\in D(T)\) は \(x_n-x’_n\to 0\) かつ \(T(x_n-x’_n)\to y-y’\) となる.よって,仮定より \(y=y’\) .したがって \(y\) は \(x\) によってのみ決まる.よって \(x\in D\) に対して \(\tilde{T}x=y\) と定める.\(\tilde{T}\) が線形作用素であることは容易にわかる.また明らかに \(D=D(\tilde{T}),\ T=\tilde{T}|_{D(T)}\) である.
\(\tilde{T}\) が閉作用素であることを示す. \[ x_n\in D\ ,\ \ x_n\to x\in X \ , \ \ \tilde{T}(x_n)\to y\in Y \] となる \(\{x_n\}\) をとる.\(D\) の定め方より \[\|x_n-z_n\|<\frac{1}{n}\ ,\quad \|\tilde{T}x_n-Tz_n\|<\frac{1}{n} \] となる \(z_n\in D(T)\) が存在する. \[\|z_n-x\|\leq \|z_n-x_n\| + \|x_n-x\| \to 0 \] \[\|Tz_n-y\| \leq \|Tz_n-\tilde{T}x_n\| + \|\tilde{T}x_n-y\| \to 0 \] したがって,\(x\in D\) かつ \(\tilde{T}(x)=y\) である.よって \(\tilde{T}\) は閉作用素で \(T\) は可閉である.

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

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