剰余類【群論入門シリーズ5】

群論入門シリーズ

 

剰余類

剰余類の定義
群 \(G\) とその部分群 \(H\) に対して \(G\) の部分集合を次のように定義する. $$xH:=\{xh\in G\ |\ h\in H\}$$ このような部分集合 \(xH\) を \(H\) による左剰余類とよぶ.
また次のような部分集合 \(Hx\) を \(H\) による右剰余類とよぶ. $$Hx:=\{hx\in G\ |\ h\in H\}$$

剰余類集合の定義
群 \(G\) の部分群 \(H\) による左剰余類全体の集合を左剰余類集合といい \(G/ H\) と書く.また,右剰余類全体の集合を右剰余類集合といい \(H\verb|\| G\) と書く.


以降,剰余類につての命題やその証明について左剰余類の表記を用いて述べます.右剰余類についても左剰余類の場合と全く同様に議論できます.

これから剰余類に関する性質を確認していきますが,その前に見通しをよくするために例をひとつ示しておきます.

加法に関する群 \(\mathbb{Z}\) に対して, \(3\) の倍数の集合 $$\mathbb{Z}_3=\{3x\ |\ x\in \mathbb{Z}\}$$ は \(\mathbb{Z}\) の部分群で, $$0+\mathbb{Z}_3=\{0+y\ |\ y\in \mathbb{Z}_3\}=\{0+3x\ |\ x\in \mathbb{Z}\}$$ $$1+\mathbb{Z}_3=\{1+y\ |\ y\in \mathbb{Z}_3\}=\{1+3x\ |\ x\in \mathbb{Z}\}$$ $$2+\mathbb{Z}_3=\{2+y\ |\ y\in \mathbb{Z}_3\}=\{2+3x\ |\ x\in \mathbb{Z}\}$$ はそれぞれ \(\mathbb{Z}\) の \(\mathbb{Z}_3\) に対する剰余類となり,次のような集合となっている.

\(0+\mathbb{Z}_3=\{\) \(3\) で割り切れる数 \(\}\) 
\(1+\mathbb{Z}_3=\{\) \(3\) で割って \(1\) 余る数 \(\}\)
\(2+\mathbb{Z}_3=\{\) \(3\) で割って \(2\) 余る数 \(\}\)

また, \(3\) で割って \(1\) 余る数は, \(3\) で割って \(4\) 余る数でもあり, \(-2\) 余る数でもあるので次のようなことがわかる. $$\cdots =-3+\mathbb{Z}_3=0+\mathbb{Z}_3=3+\mathbb{Z}_3=\cdots$$ $$\cdots =-2+\mathbb{Z}_3=1+\mathbb{Z}_3=4+\mathbb{Z}_3=\cdots$$ $$\cdots =-1+\mathbb{Z}_3=2+\mathbb{Z}_3=5+\mathbb{Z}_3=\cdots$$ このことから, \(\mathbb{Z}\) の \(\mathbb{Z}_3\) による剰余類は \(0+\mathbb{Z}_3,1+\mathbb{Z}_3,2+\mathbb{Z}_3\) のみであることが分かるので,剰余類集合 \(\mathbb{Z}/\mathbb{Z}_3\) は $$\mathbb{Z}/\mathbb{Z}_3=\{0+\mathbb{Z}_3,\ 1+\mathbb{Z}_3,\ 2+\mathbb{Z}_3\}$$ となる.しかもこの \(3\) つの剰余類で, \(\mathbb{Z}\) を分割していることがわかる.

 

 

剰余類の性質

では,剰余類の性質をいくつか示します.

命題
\(x\in xH\) である.

証明
\(H\) は群なので単位元 \(e\) を含むから, \(x=xe\in xH\) .


この命題から \(0\in 0+\mathbb{Z}_3,\ \ 1\in 1+\mathbb{Z}_3,\ \ 2\in 2+\mathbb{Z}_3\) となることがわかります.

\(xH\) に属するひとつの元を \(xH\) の代表元といいます.この命題から \(x\) は \(xH\) の代表元のひとつとなります.

命題
\(y\in xH\Longleftrightarrow xH=yH\) .

証明
・ \(y\in xH\Longrightarrow xH=yH\) を示す.
\(xH\) の任意の元 \(xh\) を取る. \(y\in xH\) なのである \(h’\in H\) が存在して \(y=xh’\Rightarrow x=yh’^{-1}\) が成り立つ.よって, \(xh=yh’^{-1}h\in yH\) なので \(xH\subset yH\) である.
次に \(yH\) の任意の元 \(yh\) を取る. \(yh=xh’h\in xH\) なので \(xH\supset yH\) である.したがって, \(xH=yH\) .

・ \(y\in xH\Longleftarrow xH=yH\) を示す.
\(y\in yH\) なので, \(y\in yH=xH\) .


この命題から \(-2,1,4\in 1+\mathbb{Z}_3\) なので,

$$-2+\mathbb{Z}_3=1+\mathbb{Z}_3=4+\mathbb{Z}_3$$

となることがわかります.

命題
2つの剰余類 \(xH,yH\ (x,y\in G)\) は $$xH\cap yH=\emptyset\quad {\rm or}\quad xH=yH$$ のいずれか一方のみなりたつ.

証明
\(xH\cap yH\neq\emptyset\) とすると, \(z\in xH\cap yH\) が存在する.つまり,ある \(h,h’\in H\) が存在し, $$z=xh=yh’$$ がなりたつ. \(H\) が部分群なので \(h\in H\) の逆元 \(h^{-1}\in H\) が存在し, $$x=yh’h^{-1}$$と表せる. \(h’h^{-1}\in H\) なので \(x\in yH\) となる.したがって \(xH=yH\) である.


この命題から \(0+\mathbb{Z}_3,\ \ 1+\mathbb{Z}_3,\ \ 2+\mathbb{Z}_3\) はそれぞれ共通部分を持たず,また,任意の \(x\in \mathbb{Z}\) はいずれかの剰余類に含まれるので, \(3\) つの剰余類で \(\mathbb{Z}\) を分割していることがわかります.

このような剰余類による群の分割を類別といい, \(x\in xH\) より群の任意の元はいずれかの剰余類に含まれることから,群 \(G\) は \(G/H\) の全ての元の直和(共通部分を持たない集合の和)で表されることがわかります.

このことは \(G/H\) の各元を \(x_iH\ (i\in I)\) としたとき,直和の記号 \(\coprod\) を用いて次のように表せます.

$$G=\coprod_{i\in I}\ x_i H\ \left(=\bigcup_{i\in I}\ x_i H \right)$$


 

剰余類の例

剰余類の例
(1) 群 \(G\) の自明な部分群 \(G\) による剰余類は \(xG=G\) のみで,剰余類集合は \(G/G=\{G\}\) となる.
また, \(G\) の自明な部分群 \(\{e\}\) による剰余類は任意の \(x\in G\) に対して \(x\{e\}=\{x\}\) となるので \(G/\{e\}\) の濃度と \(\# G\) が等しい.

(2) \(\mathbb{Z}\) は通常の加法に関して群であり, \(\mathbb{Z}_n=\{nx\ |\ x\in \mathbb{Z}\}\ (n\in \mathbb{Z})\) は \(\mathbb{Z}\) の部分群となる.このとき \(\mathbb{Z}\) の \(\mathbb{Z}_n\) による剰余類 \(a+\mathbb{Z}_n\) は \(n\) で割って余りが \(a\) となる数の集合で, \(\mathbb{Z}/\mathbb{Z}_n\) は濃度が \(n\) となる.

(3) 行列の積に関する群 \(GL_n(\mathbb{R})\) とその部分群 \(SL_n(\mathbb{R})\) に関する剰余類 \(A\ SL_n(\mathbb{R})\) は \(A\) と行列式の値が等しい行列全体の集合となる.

(4) ベクトル空間 \(V\) はベクトルの加法に関して可換群となり,その部分空間 \(W\) は部分群となる.このときベクトル \(a\) に関する剰余類 \(a+W\) はアフィン部分空間と呼ばれ \(W\) に平行となる.


 

ラグランジュの定理

剰余類集合 \(G/H\) の濃度を \((G:H)\)とかき, \(H\) の \(G\) における指数といいます.

次の定理は特に有限群の位数に関する重要な性質となります.

定理(ラグランジュの定理)
群 \(G\) の 2 つの部分群 \(H\supset K\) に対し, $$(G:H)\ (H:K)=(G:K)$$ となる.特に \(K=\{e\}\) を考えると, $$(G:H)\ \# H=\# G$$ が成り立つ.(ラグランジュの定理

証明
\(G\) の \(H\) による剰余類に対して, \(G\) は次のようにかけて, $$G=\coprod_{i\in I}\ x_i H$$ 同様に \(H\) の \(K\) による剰余類に対して, \(H\) は次のようにかける. $$H=\coprod_{j\in J}\ y_j K$$ したがって, \(G\) は \(G\) の \(K\) による剰余類により次のようにかける. $$G=\coprod_{i\in I}\ x_i\ \left(\coprod_{j\in J}\ y_j K \right)=\coprod_{(i,j)\in I\times J}x_iy_j K \ .$$ これより, \(|I||J|=|I\times J|\) なので, $$(G:H)\ (H:K)=(G:K)\ .$$ ここで, \(K=\{e\}\) とすると, \((G:K)=\#G,\ (H:K)=\#H\) となるので, $$(G:H)\ \#H=\#G\ .$$

 

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