【群論入門シリーズ】
群 \(G\) の部分群 \(H\) による剰余類集合 \(G/H\) に群の構造を持たせることを考えます.
このとき, \(H\) を次で定義するような正規部分群とすると, \(G/H\) に自然に群の構造を入れることができます(剰余群という).(剰余群については「剰余群【群論入門シリーズ7】」にて解説します.)
剰余群は群論において重要な群となるので正規部分群は重要です.
正規部分群
正規部分群の定義
群 \(G\) の剰余類が任意の \(g\in G\) で,
$$gH=Hg$$
となるような \(G\) の部分群 \(H\) を正規部分群といい, \(H \triangleleft G\) とかく.
このように定義した正規部分群に対して次の命題が成り立ちます.
命題
群 \(G\) の部分群 \(H\) に対して, \(H\) が任意 \(g\in G\) で,
$$H=\{ghg^{-1}\ |\ h\in H\}:=gHg^{-1}$$
を満たすことと, \(H\) が任意の \(g\in G\) で,
$$gH=Hg$$
を満たすことは同値である.
証明
\(H\) が任意 \(g\in G\) で \(H=gHg^{-1}\) を満たすとする
.
任意の \(h\in H\) を取ると,ある \(h’\in H\) があって \(ghg^{-1}=h’\) よって \(gh=h’g\) が成り立つので, \(gH\subset Hg\) .
また, \(gh’g^{-1}=h\) よって \(gh’=hg\) がなりたつので, \(gH\supset Hg\) .
したがって, \(gH=Hg\) である.
逆に任意の \(g\in G\) で \(gH=Hg\) を満たすとする.
このとき,任意の \(h\in H\) を取ると,ある \(h’\in H\) があって, \(gh’=hg\) よって \(h=gh’g^{-1}\) が成り立つので, \(H\subset gHg^{-1}\) .
また, \(gh=h’g\) よって \(h’=ghg^{-1}\) が成り立つので, \(H\supset gHg^{-1}\) .
したがって, \(H=gHg^{-1}\) が成り立つ.
任意の \(h\in H\) を取ると,ある \(h’\in H\) があって \(ghg^{-1}=h’\) よって \(gh=h’g\) が成り立つので, \(gH\subset Hg\) .
また, \(gh’g^{-1}=h\) よって \(gh’=hg\) がなりたつので, \(gH\supset Hg\) .
したがって, \(gH=Hg\) である.
逆に任意の \(g\in G\) で \(gH=Hg\) を満たすとする.
このとき,任意の \(h\in H\) を取ると,ある \(h’\in H\) があって, \(gh’=hg\) よって \(h=gh’g^{-1}\) が成り立つので, \(H\subset gHg^{-1}\) .
また, \(gh=h’g\) よって \(h’=ghg^{-1}\) が成り立つので, \(H\supset gHg^{-1}\) .
したがって, \(H=gHg^{-1}\) が成り立つ.
上の命題により正規部分群の定義を,任意の \(g\in G\) に対して,
$$H=\{ghg^{-1}\ |\ h\in H\}:=gHg^{-1}$$
となる \(G\) の部分群と,定義することもできます.
また,次の命題により核は正規部分群であり,正規部分群とは核の概念を拡張したものだとわかります.
逆に群 \(G\) の部分群 \(H\) が正規部分群のとき,ある群 \(G’\) とその間の準同型 \(f:G\longrightarrow G’\) の核となることもわかります.このことは「剰余群【群論入門シリーズ7】」にて解説します.
命題
\(G,G’\) を群とし, \(f:G\longrightarrow G’\) を準同型とする.このとき \({\rm Ker} f\) は \(G\) の正規部分群となる.
証明
まず, \({\rm Ker}f\) が \(G\) の部分群となっていることを確かめる.
任意の \(x,y \in {\rm Ker}f\) を取ると, $$f(xy^{-1})=f(x)f(y)^{-1}=e’e’^{-1}=e’$$ となるので, \(xy^{-1} \in {\rm Ker}f\) となり, \({\rm Ker}f\) は \(G\) の部分群となる.
任意の \(x\in {\rm Ker} f\) をとる.任意の \(g\in G\) に対して, \(gxg^{-1}\) を考えると, \(f\) が準同型写像であることから, $$f(gxg^{-1})=f(g)f(x)f(g^{-1})=f(g)e’f(g)^{-1}=f(g)f(g)^{-1}=e’.$$ したがって, \(gxg^{-1}\in {\rm Ker} f\) なので, \(g^{-1}({\rm Ker} f) g\subset {\rm Ker} f\) がわかった.
逆に \(g^{-1}xg\in {\rm Ker} f\) も成り立つので \(x\in g({\rm Ker} f)g^{-1}\) .よって, \({\rm Ker} f\subset g({\rm Ker} f)g^{-1}\) が成り立つ.
したがって, \({\rm Ker} f=g({\rm Ker} f)g^{-1}\) であるので \({\rm Ker} f\) は正規部分群.
任意の \(x,y \in {\rm Ker}f\) を取ると, $$f(xy^{-1})=f(x)f(y)^{-1}=e’e’^{-1}=e’$$ となるので, \(xy^{-1} \in {\rm Ker}f\) となり, \({\rm Ker}f\) は \(G\) の部分群となる.
任意の \(x\in {\rm Ker} f\) をとる.任意の \(g\in G\) に対して, \(gxg^{-1}\) を考えると, \(f\) が準同型写像であることから, $$f(gxg^{-1})=f(g)f(x)f(g^{-1})=f(g)e’f(g)^{-1}=f(g)f(g)^{-1}=e’.$$ したがって, \(gxg^{-1}\in {\rm Ker} f\) なので, \(g^{-1}({\rm Ker} f) g\subset {\rm Ker} f\) がわかった.
逆に \(g^{-1}xg\in {\rm Ker} f\) も成り立つので \(x\in g({\rm Ker} f)g^{-1}\) .よって, \({\rm Ker} f\subset g({\rm Ker} f)g^{-1}\) が成り立つ.
したがって, \({\rm Ker} f=g({\rm Ker} f)g^{-1}\) であるので \({\rm Ker} f\) は正規部分群.
正規部分群の例
正規部分群の例
(1) 群 \(G\) の自明な群 \(\{e\},G\) は正規部分群である. \(\{e\}\) は恒等写像の核であり, \(G\) は零写像の核である.
(2) 加法に関する群 \((x,y),(x’,y’)\in \mathbb{R}^2\) の間の準同型 \(f(x,y)=x+y\) の核 $${\rm Ker} f=\{(x,y)\in \mathbb{R}^2\ |\ y=-x\}$$ は正規部分群となる.
(3) 一般線形群 \(GL_n(\mathbb{R})\) から \(\mathbb{R}^{\times}\) への準同型 \(det\)(行列式の値を求める写像)の核は特殊線形群 \(SL_n(\mathbb{R})\) となり, 特殊線形群は一般線形群の正規部分群である.
(4) 可換群の任意の剰余類は正規部分群となる.実際,左剰余類と右剰余類は $$gH=\{gh\ |\ h\in H\},\ Hg=\{hg\ |\ h\in H\}$$ となり,可換群なら \(gh=hg\) なので任意の \(g\in G\) で \(gH=Hg\) となる.
(2) 加法に関する群 \((x,y),(x’,y’)\in \mathbb{R}^2\) の間の準同型 \(f(x,y)=x+y\) の核 $${\rm Ker} f=\{(x,y)\in \mathbb{R}^2\ |\ y=-x\}$$ は正規部分群となる.
(3) 一般線形群 \(GL_n(\mathbb{R})\) から \(\mathbb{R}^{\times}\) への準同型 \(det\)(行列式の値を求める写像)の核は特殊線形群 \(SL_n(\mathbb{R})\) となり, 特殊線形群は一般線形群の正規部分群である.
(4) 可換群の任意の剰余類は正規部分群となる.実際,左剰余類と右剰余類は $$gH=\{gh\ |\ h\in H\},\ Hg=\{hg\ |\ h\in H\}$$ となり,可換群なら \(gh=hg\) なので任意の \(g\in G\) で \(gH=Hg\) となる.