この記事では冪級数の収束と発散を収束半径を中心にその周辺定理を合わせて解説します.
*)この記事では数列,級数を実数の範囲で扱っていますが,各命題はそのまま複素数の範囲に拡張可能です.(証明は実数の範囲で行っています)
1. 級数とは
\(\{a_n\}\) を数列とするとき,
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n = a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots $$
を無限級数,または単に級数といいます.
ある級数 \(a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots\) が与えらているとき,
$$S_n=a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n$$
をその級数の部分和といい,部分和を新たに数列 \(\{S_n\}\) とみなせます. \(\{S_n\}\) が収束するとき,すなわち,ある実数 \(S\) があって,
$$\lim_{n\rightarrow \infty} S_n=S$$
が成り立つとき,級数は収束するといい,
$$a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots=S$$
と書きます.また,数列 \(\{S_n\}\) が収束しないとき,級数は発散するといいます.
ある級数 \(\ (*)\ a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots\) に対して特に,
$$|a_0|+|a_1|+|a_2|+\cdots +|a_n|+ \cdots$$
が収束するとき, \((*)\) は絶対収束するといい, \((*)\) が収束するが絶対収束しないとき \((*)\) は条件収束するといいます.
命題 \(1.1\)
ある級数が絶対収束すれば,その級数は収束する.
命題 \(1.1\) 証明
級数を \(a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots\) とかくとすると,
$$0\leq \frac{1}{2} (|a_n|+a_n)\leq |a_n|,\ 0\leq \frac{1}{2} (|a_n|-a_n)\leq |a_n|$$
であるので, \(a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots\) が絶対収束するから補題 \(3.1.2\) (後に紹介)より
$$\sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2} (|a_n|+a_n) =\alpha\ ,\ \sum_{n=0}^{\infty} \frac{1}{2} (|a_n|-a_n)=\beta$$
とそれぞれ収束する.ここで,
$$\sum_{n=0}^{n} a_n = \sum_{n=0}^{n} \frac{1}{2} (|a_n|+a_n)\ -\ \sum_{n=0}^{n} \frac{1}{2} (|a_n|-a_n)$$
と表せるので,
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n = \alpha\ -\ \beta$$
となり,収束する.
2. 冪級数とは
\(x\) を変数, \(\{a_n\}\ (n=0,1,2,\cdots)\) を数列とするとき,
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_nx^n = a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots $$
を \(x\) の冪(べき)級数,または整級数といいます.
冪級数の収束,発散は \(x\) の値によって異なります.例えば,全ての \(n\) で \(a_n=1\) とすると,
$$x=1 \Longrightarrow 1+1+1+\cdots+1\cdots = \infty$$
$$x=\frac{1}{2} \Longrightarrow 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{2^2}+\cdots+\frac{1}{2^n}\cdots = 2$$
$$x=-1 \Longrightarrow 1+(-1)+1+\cdots+(-1)^n\cdots = {\rm 不定}$$
となります.冪級数の収束する \(x\) の集合を冪級数の収束域と呼びます.
では,冪級数の収束域について考えてみましょう.
3. 収束半径の導入
収束半径を導入する前に次の命題を確認しておきます.
命題 \(3.1\)
ある冪級数が \(x=\alpha\ (\neq 0)\) で収束するなら,その冪級数は \(|x|\lt|\alpha|\) となる任意の \(x\) で絶対数束する.
証明を行う前に次の \(2\) つの補題を示しておきます.
補題 \(3.1.1\)
級数 \(a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots\) が収束するならば,
$$\lim_{n\rightarrow\infty}a_n=0 \ .$$
補題 \(3.1.1\) の証明
\(S_n-S_{n-1}=a_n\) であり, \(\{S_n\}\) は収束するので,
$$\lim_{n\rightarrow\infty}a_n=S-S=0 \ .$$
補題 \(3.1.2\)
全ての \(n\) で \(a_n\geq 0\) である級数
$$(*)\quad a_0+a_1+a_2+\cdots +a_n+ \cdots$$
に対して,全ての \(n\) で \(b_n\geq 0\) である級数
$$(**)\quad b_0+b_1+b_2+\cdots +b_n+ \cdots$$
は次を満たす.
(1) \((*)\) が収束して,全ての \(n\) で \(a_n\geq b_n\) ならば \((**)\) は収束する.
(2) \((*)\) が発散して,全ての \(n\) で \(a_n\leq b_n\) ならば \((**)\) は発散する.
補題 \(3.1.2\) の証明
\((*),(**)\) の部分和をそれぞれ \(S_n,T_n\) とすると,全ての \(n\) で \(a_n,b_n\geq 0\) であるので, \(\{S_n\},\{T_n\}\) はいずれも増加数列である.
(1) \(\{S_n\}\) が収束するので,その極限値を \(S\) とすると,
$$T_n \leq S_n \leq \lim_{n\rightarrow\infty}S_n=S$$
となり,数列 \(\{T_n\}\) は上に有界な増加数列なので収束する.
(2) \(\{S_n\}\) が発散するので, \(S_n \leq T_n\) より,
$$\infty = \lim_{n\rightarrow\infty}S_n \leq \lim_{n\rightarrow\infty}T_n$$
では,命題 \(3.1\) の証明を行います.命題も改めて記載します.
命題 \(3.1\)
ある冪級数が \(x=\alpha\ (\neq 0)\) で収束するなら,その冪級数は \(|x|\lt|\alpha|\) となる任意の \(x\) で絶対数束する.
命題 \(3.1\) の証明
仮定より,
$$a_0+a_1{\alpha}+a_2{\alpha}^2+\cdots +a_n{\alpha}^n+ \cdots$$
が収束するので,補題 \(3.1.1\) により,
$$\lim_{n\rightarrow\infty}a_n{\alpha}^n=0$$
となっている.したがって,数列 \(\{a_n{\alpha}^n\}\) は有界で,ある正の実数 \(M\) があって,任意の \(n\) で
$$|a_n{\alpha}^n| \leq M$$
となる.ここで, \(|x|\lt|\alpha|\) である \(x\) をひとつとって \(x=\beta\) とすると, \(|\beta|/|\alpha|\lt 1\) なので, \(|\beta|/|\alpha|\lt r\lt 1\) となる実数 \(r\) が存在する.したがって,
$$|a_n{\beta}^n|\lt |a_n{\alpha}^n|r^n\leq Mr^n$$
となる.このことから,補題 \(3.1.2\) より
$$M\sum_{k=0}^n r^k = M+Mr+Mr^2+\cdots +Mr^n\cdots$$
が収束することを示せば命題が証明されたことになる.
実際,等比数列の公式より,
$$M\sum_{k=0}^n r^k = M\frac{1-r^{n+1}}{1-r}$$
とかけるので, \(r\lt 1\) より,
$$M\sum_{k=0}^{\infty} r^k = \lim_{n\rightarrow\infty} M\frac{1-r^{n+1}}{1-r}=\frac{M}{1-r}$$
となり収束する.
また,次の命題 \(3.2\) も同様に成り立ちます.
命題 \(3.2\)
ある冪級数が \(x=\alpha\) で発散するなら,その冪級数は \(|x|\gt|\alpha|\) となる任意の \(x\) で発散する.
命題 \(3.2\) の証明
冪級数が \(\alpha\) で発散するとき,冪級数が収束するような \(|\beta|\gt|\alpha|\) となる \(\beta\) が存在すると仮定する.このとき \(|\beta|\gt|\alpha|\) であるので,命題 \(3.1\) より \(\alpha\) でこの冪級数は絶対収束し,命題 \(1.1\) より絶対収束する冪級数は収束するので,冪級数が \(\alpha\) で収束することになり,これは矛盾.
したがって,冪級数は \(|x|\gt|\alpha|\) となる任意の \(x\) で発散する.
冪級数が収束する \(x\) の集合 \(C\) を考えると,冪級数が発散するような \(x=\beta\) が存在するとすれば命題 \(3.2\) より \(|x|\gt |\beta|\) では冪級数は発散するので, \(C\) は有界で上限と下限を持ちます.
このとき上限を \(r\) とおくと, \(|x|\lt r\) で冪級数は収束し, \(|x|\gt r\) で冪級数は発散します.
命題 \(3.3\)
\(|x|\lt r\) で冪級数は収束し, \(|x|\gt r\) で冪級数は発散する.
命題 \(3.3\) の証明
まず,上限の定義から \(r\) が集合 \(C\) の上限であるための必要十分条件は,
・任意の \(x \in C\) に対して, \(x\leq r\)
・任意の \(x\lt r\) に対して,ある \(x’ \in C\) があって, \(x\lt x’\)
である.
\(|x|\lt r\) となる任意の \(x\) をとると,ある \(x’ \in C\) があって, \(|x|\lt x’\) となる. \(x’\in C\) であるので,冪級数は \(x’\) で収束する.
\(|x|\lt |x’|\) であるので,命題 \(3.1\) より冪級数は \(x\) で収束する.
次に \(|x|\gt r\) となる任意の \(x\) をとると, \(|x|\gt x’\gt r\) となる \(x’\) が存在し,上限の定義から \(x’ \notin C\) であるので,冪級数は \(x’\) で発散する.したがって,命題 \(3.2\) より \(|x|\gt |x’|\) なので, \(x\) で発散する.
この \(r\) を冪級数の収束半径といいます.冪級数が任意の \(x\) で収束するとすときは \(r=\infty\) とします.
下限 \(r’\) に対しても, \(|x|\lt -r’\) で冪級数は収束し, \(|x|\gt -r’\) で冪級数は発散することが同様の証明により示せるので, \(r=-r’\) となります.
収束半径と呼ばれるのは冪級数を複素数に拡張したとき, \(|z|\lt r\) で収束し,\(|z|\gt r\) で発散するような実数 \(r\) が同様に考えられて,複素平面上で \(|z|\lt r\) の範囲が境界を含まないような半径 \(r\) の円となるからです.
収束半径 \(r\) に対して \(|x|\lt r\) で収束し, \(|x|\gt r\) で発散することはわかりますが, \(|x|=r\) となる \(x\) では収束するか発散するかは別で調べなければなりません.
4. 冪級数の収束半径の判定法
収束半径の算出方法として,次の \(2\) つの判定法を紹介します.ここでは証明は省略します.
4.1. ダランベールの収束判定法
ダランベールの収束判定法
冪級数 \(a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots\) において,
$$\lim_{n\rightarrow\infty}\left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right|$$
が有限値,または \(+\infty\) となるとき,収束半径 \(r\) は,
$$r=\lim_{n\rightarrow\infty}\left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right|$$
で求まる.
4.2. コーシーの収束判定法
ダランベールの収束判定法では極限が収束せずに振動するとき収束半径を求めることができません.次に紹介するコーシーの収束判定法は一般の冪級数に対して用いることができます.
コーシーの収束判定法
冪級数 \(a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots\) において,収束半径 \(r\) は,
$$\frac{1}{r}=\overline{\lim_{n \to \infty}} \sqrt[n]{|a_n|}$$
で求まる.ここで, \(\overline{\lim}\) は下極限を表し,
$$\overline{\lim_{n \to \infty}} a_n = \lim_{n \to \infty}\left( \sup_{k\geq n}\ a_k \right)$$
である.
5. 冪級数の収束域判定の例
問題 \(5.1\)
次の冪級数の収束域を求めよ.
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}x^n=x+\frac{1}{2}x^2+\cdots+\frac{1}{n}x^n+\cdots$$
問題 \(5.1\) の解答
ダランベールの収束判定法より,
\begin{eqnarray}
r&=&\lim_{n\rightarrow\infty}\left| \frac{a_n}{a_{n+1}} \right|
=\lim_{n\rightarrow\infty}\left| \frac{\frac{1}{n}}{\frac{1}{n+1}} \right|
=\lim_{n\rightarrow\infty}\left( 1+\frac{1}{n} \right)=1
\end{eqnarray}
したがって,収束半径は \(r=1\) であって, \(|x|\lt r\) でこの冪級数は収束する.
\(x=1\) のとき,
$$\sum_{n=1}^\infty \frac{1}{n}=1+\frac{1}{2}+\cdots+\frac{1}{n}+\cdots=\infty$$
であり, \(x=-1\) のとき,
$$\sum_{n=1}^\infty (-1)^n\frac{1}{n}=-1+\frac{1}{2}+\cdots+(-1)^n\frac{1}{n}+\cdots
=-\log 2$$
となるので(証明略),収束域は \(-1\leq x\lt 1\) である.
問題 \(5.2\)
次の冪級数の収束半径を求めよ.
$$1+\frac{1}{2}x+\frac{1}{3^2}x^2+\frac{1}{2^3}x^3+\frac{1}{3^4}x^4+ \cdots$$
問題 \(5.2\) の解答
与えたれた冪級数の係数 \(a_n\) は
$$
a_n=\left\{
\begin{array}
\ \frac{1}{2^n} \quad (n=2k+1) \\
\frac{1}{3^n} \quad (n=2k)
\end{array}
\right. \quad (k=0,1,2,\cdots)
$$
とかけるので,
$$
\lim_{k\rightarrow\infty}\left| \frac{a_{2k+1}}{a_{2k+2}} \right|
=\lim_{k\rightarrow\infty}\left| \frac{\frac{1}{3^{2k+1}}}{\frac{1}{2^{2k+2}}} \right|
=\lim_{k\rightarrow\infty}2\left( \frac{2}{3} \right)^{2k+1}=0
$$
$$
\lim_{k\rightarrow\infty}\left| \frac{a_{2k}}{a_{2k+1}} \right|
=\lim_{k\rightarrow\infty}\left| \frac{\frac{1}{2^{2k}}}{\frac{1}{3^{2k+1}}} \right|
=\lim_{k\rightarrow\infty}3\left( \frac{3}{2} \right)^{2k}=\infty
$$
となり,ダランベールの収束判定法では収束半径を判定できない.コーシーの収束判定法を用いれば,
$$
\varlimsup_{n \to \infty} \sqrt[n]{|a_n|}
=\lim_{n \to \infty} \sqrt[n]{\frac{1}{2^n}}
=\frac{1}{2}
$$
となり,収束半径は \(r=2\) となる.
6. 冪級数の収束半径の性質
6.1. 収束半径の絶対値級数での不変性
定理 \(6.1\)
冪級数
$$(*)\quad a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots $$
の収束半径 \(r\) とその絶対値数列
$$(**)\quad |a_0|+|a_1x|+|a_2x^2|+\cdots +|a_nx^n|+ \cdots $$
の収束半径 \(r’\) は等しい.
定理 \(6.1\) の証明
ある級数が絶対値収束するとき,その級数は収束するので, \(r’\leq r\) である.
ここで, \(r’\lt r\) と仮定すると, \(r’\lt |\beta| \lt |\alpha| \lt r\) となる \(\alpha,\beta\) が存在して, \(|\alpha| \lt r\) により, \(x=\alpha\) で \((*)\) は収束する. \(|\beta| \lt |\alpha|\) であるので,命題 \(3.1\) より, \(x=\beta\) で \((**)\) は収束する.これは \(r’\lt |\beta|\) と矛盾するので. \(r=r’\) である.
6.2. 冪級数の項別微分・項別積分可能性
冪級数に対して微分を考えます.このとき,収束半径 \(r\) に対して, \(|x|\lt r\) では
\begin{eqnarray}
(\sum_{n=0}^{\infty} a_nx^n)’
&=& (a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots )’\\
&=& (a_0)’+(a_1x)’+(a_2x^2)’+\cdots +(a_nx^n)’+ \cdots\\
&=& \sum_{n=1}^{\infty} (a_nx^n)’
\end{eqnarray}
とできて,冪級数は項別微分可能であるといいます.
実は一般の級数
$$\sum_{n=0}^{\infty} a_n(x)=a_0(x)+a_1(x)+a_2(x)+\cdots +a_n(x)+ \cdots $$
は一般には項別微分はできません.
また同様に冪級数に対して積分を考えます.このとき,収束域内の閉区間 \([a,b]\) で
\begin{eqnarray}
\int_a^b \sum_{n=0}^{\infty} a_nx^n\ dx
&=& \int_a^b (a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots )\ dx\\
&=& \int_a^b a_0\ dx+\int_a^b a_1x\ dx+\int_a^b a_2x^2\ dx+\cdots +\int_a^b a_nx^n\ dx+ \cdots\\
&=& \sum_{n=0}^{\infty} \int_a^b a_nx^n\ dx
\end{eqnarray}
とできて,冪級数は項別積分可能であるといいます.
積分に関しても一般の級数は一般には項別積分はできません.
項別微分可能性・項別積分可能性は級数の一様収束性という概念により決まりますが,ここでは割愛します.
6.3. 収束半径の項別微分・項別積分での不変性
\(6.2.\) では任意の冪級数は微分・積分が項別で行えるという良い性質を持っていることを紹介しましたが,項別微分・項別積分して得られる冪級数の収束半径についても以下のような良い性質が成り立ちます.(証明略)
定理 \(6.3.1\)
冪級数 \(\sum a_nx^n\) の収束半径が \(r\) であるとき,その冪級数を項別微分して得られる冪級数 \(\sum na_nx^{n-1}\) の収束半径も \(r\) となる.
定理 \(6.3.2\)
冪級数 \(\sum a_nx^n\) の収束半径が \(r\) であるとき,その冪級数を項別積分して得られる冪級数 \(\sum \frac{1}{n+1}a_nx^{n+1}\) の収束半径も \(r\) となる.
6.4. アーベルの定理
ある冪級数
$$a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots$$
が与えたれたとき,この冪級数の収束域内の \(x\) に対して,ただ一つの実数が決まるので,この冪級数は関数とみれます.つまり,収束域内で定義されるただ一つの関数 \(f(x)\) があって,
$$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots$$
と書けます.このとき特に \(f(x)\) は \(C^{\infty}\) 級となります.
ここで,収束域が \(|x|\lt r\) である冪級数
$$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots$$
対して積分を考えます.このとき,冪級数は収束域内の閉区間 \([0,x]\) で,項別積分可能なので, \(0\leq x\lt r\) で
$$\int_0^x f(x)\ dx=a_0x + \frac{1}{2}a_1x^2+\frac{1}{3}a_2x^3+\cdots +\frac{1}{n+1} a_nx^{n+1}+ \cdots$$
と書けます.このとき右辺の冪級数が \(x=r\) に対して収束すれば,
$$\lim_{x \to r-0}\int_0^x f(x)\ dx=a_0r + \frac{1}{2}a_1r^2+\frac{1}{3}a_2r^3+\cdots +\frac{1}{n+1} a_nr^{n+1}+ \cdots$$
が成り立つことが分かっています.(証明略)
このことを表した定理として,アーベルの定理を紹介します.(証明略)
アーベルの定理
収束半径が \(r\gt 0\) である冪級数が \(|x|\lt r\) で
$$f(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots +a_nx^n+ \cdots $$
とかけるとき, \(x=r\) でこの冪級数が収束すれば,
$$\lim_{x \to {r-0}} f(x) = a_0+a_1r+a_2r^2+\cdots +a_nr^n+ \cdots$$
となる.したがって,\(f(x)\) は閉区間 \([0,r]\) で連続である.
7. 収束半径の性質を用いた級数の極限値の証明
問題 \(7.1\)
次の等式を示せ.
$$\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$$
問題 \(7.1\) の解答
等比級数の公式より,
$$\frac{1}{1+x’}=1-x’+{x’}^2-{x’}^3+\cdots$$
であり,収束半径は \(r’=1\) である.ここで, \(x’=x^2\) とすると,
$$\frac{1}{1+x^2}=1-x^2+x^4-x^6+\cdots$$
となり, \(|x|\lt 1\) で収束し, \(|x|\gt 1\) で発散するので,収束半径は \(r=1\) である.
この冪級数は \(|x|\lt 1\) に対して項別積分できて,
$$\int_0^x \frac{1}{1+x^2}\ dx=\int_0^x 1\ dx-\int_0^x x^2\ dx+\int_0^x x^4\ dx-\int_0^x x^6\ dx+\cdots$$
$$\Longrightarrow \tan^{-1}x=x-\frac{1}{3}x^3+\frac{1}{5}x^5-\frac{1}{7}x^7+\cdots$$
となり,得られた冪級数の収束半径は \(R=1\) となる(定理 \(6.3.2\) より).
ここで \(\lim_{x\to 1-0} \tan^{-1}x=\pi/4\) となるので, 右辺に \(x=1\) を代入して得られる級数
$$1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$$
が収束することを確認すればアーベルの定理により問が示される.
\(n\) が奇数のとき \(n=2m+1\) と書いて,
\begin{eqnarray}
S_{2m+1}
&=&1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots-\frac{1}{4m+3}\\
&=&\sum_{k=0}^{m} \left\{\frac{1}{4k+1}-\frac{1}{4k+3}\right\}\\
&=& \sum_{k=0}^{m} \frac{2}{(4k+1)(4k+3)} \\
\end{eqnarray}
ここで, \(k\geq 1\) で \(0\leq \frac{2}{(4k+1)(4k+3)}\leq \frac{2}{k^2}\) であり, \(\sum_{k=1}^{m} \frac{1}{k^2}\) はゼータ関数と呼ばれ収束することが知られているので補題 \(3.1.2\) より \(S_{2m+1}\) は収束する.
また, \(S_{2m+1}-S_{2_m}=-\frac{1}{4m+3}\) であって,
$$\lim_{m\to \infty}\frac{1}{4m+3}=0$$
であるので, \(\lim_{m\to \infty}S_{2m+1}=\lim_{m\to \infty}S_{2_m}\) が成り立つ.よって,
$$1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$$
が収束し,アーベルの定理より,
$$\frac{\pi}{4}=1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\cdots$$
以上で冪級数の収束と発散についての解説は終了です.お疲れ様でした.