複素数の基礎【複素解析入門1】

このシリーズの内容

このシリーズは【複素解析入門】と称して全 5 回のシリーズで以下の内容を解説します.

1.複素数の基礎
2.複素関数
3.複素積分
4.ローラン級数と解析接続
5.留数定理

参考文献として以下の書籍を用いています.

・杉浦光夫「解析入門Ⅱ」
・アールフォルス「複素解析」
・R.V.チャーチル/J.W.ブラウン「複素解析入門」

 

複素数の定義

二乗して \(-1\) となる数を形式的に \(i\) と表し,この \(i\) を虚数単位とよびます.このとき, 2 つの実数 \(x,y\) に対して,複素数 \(z\) を

$$z=x+iy$$

と定義します. \(x\) を \(z\) の実部といい \({\rm Re}\ z=x\) と書き,\(y\) を \(z\) の虚部といい \({\rm Im}\ z=y\) と書きます.

次に 2 つの複素数 \(z_1=x_1+iy_1,z_2=x_2+iy_2\) に対して, 2 つの複素数が等しいことと,和と積を次のように定義します.

$$x_1+iy_1=x_2+iy_2 \Longleftrightarrow x_1=x_2,y_1=y_2$$ $$(x_1+iy_1)+(x_2+iy_2) := (x_1+x_2)+i(y_1+y_2)$$ $$(x_1+iy_1)(x_2+iy_2) := (x_1x_2-y_1y_2)+i(x_1y_2+y_1x_2)$$

このように演算を定義すると複素数全体の集合 \(\mathbb{C}=\{x+iy\mid x,y\in \mathbb{R}\}\) はとなります.(体がわからない方は \(\mathbb{R}\) と同じように計算できると考えてください)

商については, \(z=x+iy\neq0\) のとき,

$$(x+iy)\left(\frac{x}{x^2+y^2}+i\frac{-y}{x^2+y^2}\right)=1$$

が成り立つので,

$$\frac{1}{x+iy}=\frac{x-iy}{x^2+y^2}$$

となります.

 

複素平面

複素数 \(z=x+iy\) を \(xy\) 平面上の点 \((x,y)\) と同一視した \(xy\) 平面を複素平面またはガウス平面とよびます. \(x\) 軸を実軸, \(y\) 軸を虚軸といいます.

\(z=x+iy\) に対して \(\sqrt{x^2+y^2}\) を \(z\) の絶対値といい, \(|z|\) で表します.絶対値は複素平面上で原点からの距離であることは明らかです.また, \(z=x+iy\) に対して, \(\overline{z}=x-iy\) を \(z\) の共役複素数といい,

$$|z|^2=z\overline{z}$$

が成り立ちます.共役複素数が複素平面上で \(z\) と実軸対称であることも明らかです.

絶対値に関する次の不等式はよく用います.

絶対値に関する不等式(証明略)
\(z,w\in \mathbb{C}\) に対して, $$(1)\quad -|z| \leq {\rm Re}\ z,\ {\rm Im}\ z \leq |z|$$ $$(2)\quad |z|-|w| \leq |z+w| \leq |z|+|w|$$ $$(3)\quad \left| \sum_{i=1}^{n}z_iw_i \right|^2 \leq \sum_{i=1}^{n}|z_i|^2 \sum_{i=1}^{n}|w_i|^2$$ ここで, \((2)\) の不等式は三角不等式とよばれ, \((3)\) の不等式はコーシー・シュワルツの不等式とよばれる.

また,このノルムにより \(\mathbb{C}\) は完備な距離空間となり,任意のコーシー点列は極限をもちます.(わからない方は飛ばしても結構です.)

 

極形式

複素平面上の点 \((x,y)\) の曲座標表示 \((r,\theta)\) を考えると,

$$x=r\cos\theta,\quad y=r\sin\theta$$

なので, \(z\) は

$$z=r\ (\cos\theta+i\sin\theta)$$

と表され,この形を極形式といいます.この式はオイラーの公式

$$e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$$

を用いて \(z=r\ e^{i\theta}\) とも書けますが,この公式は次回に導入します.

ここで, \(r=|z|\) であり \(\theta\) は偏角とよばれ, \(\theta=\arg z\) と表します.また,三角関数の周期性から

$$z=r\ \{\cos(\theta+2n\pi)+i\sin(\theta+2n\pi)\} \quad (n\in\mathbb{Z})$$

であるので,偏角は一意に定まりません.なので,特に \(\arg z\) で \(-\pi\lt \arg z\leq \pi\) であるものを \(\arg z\) の主値といい, \({\rm Arg}\ z\) と書くことにします.

次に複素数の極形式での積について考えと,

$$z_1=r_1\ (\cos\theta_1+i\sin\theta_1),\quad z_2=r_2\ (\cos\theta_2+i\sin\theta_2)$$

であるとき,

\begin{eqnarray} z_1z_2&=&r_1r_2\ \{\cos\theta_1\cos\theta_2-\sin\theta_1\sin\theta_2+i\ (\sin\theta_1\cos\theta_2+\cos\theta_1\sin\theta_2)\}\\ &=&r_1r_2\ \{\cos(\theta_1+\theta_2)+i\sin(\theta_1+\theta_2)\}\\ \end{eqnarray}

となるので,複素数の積 \(z=z_1z_2\) に対して, \(|z|=|z_1||z_2|\) が成り立ち,偏角について \(\arg z=\arg z_1+\arg z_2\) が成り立つことがわかります.

また,複素数の極形式での商については,

\begin{eqnarray} \frac{z_1}{z_2}&=&\frac{r_1}{r_2}\frac{\cos\theta_1+i\sin\theta_1}{\cos\theta_2+i\sin\theta_2}\\ &=&\frac{r_1}{r_2}\{\cos\theta_1\cos\theta_2+\sin\theta_1\sin\theta_2+i\ (\sin\theta_1\cos\theta_2-\cos\theta_1\sin\theta_2)\}\\ &=&\frac{r_1}{r_2}\{\cos(\theta_1-\theta_2)+i\sin(\theta_1-\theta_2)\}\\ \end{eqnarray}

となるので,複素数の商 \(z=\frac{z_1}{z_2}\) に対して, \(|z|=\frac{|z_1|}{|z_2|}\) が成り立ち,偏角について \(\arg z=\arg z_1-\arg z_2\) が成り立つことがわかります.

このことから特に次の公式が得られます.

ド・モアブルの公式
$$(\cos \theta +i\sin \theta)^n=\cos n\theta +i\sin n\theta\quad (n\in \mathbb{Z})$$

この公式を利用して \(n\) 乗根を求めることができます.

\(1\) の \(3\) 乗根は, \(1=z^3\) を満たすので, \(z=\cos \theta +i\sin \theta\) とおくと, \begin{eqnarray} 1 &=& \left(\cos \theta +i\sin \theta\right)^3 \\ &=& \cos 3\theta +i\sin 3\theta \\ \end{eqnarray} したがって, \(\theta=2n\pi/3\ \ (n\in \mathbb{Z})\) であるので, $$z=1,\frac{-1+i\sqrt{3}}{2},\frac{-1-i\sqrt{3}}{2}$$ が得られる.

 

複素平面上の位相

複素平面上の点 \(z_0\) を中心とした半径 \(\varepsilon\) の円の内部の点の集合

$$|z-z_0|<\varepsilon$$

を \(z_0\) の \(\varepsilon\) 近傍といいます.

\(\mathbb{C}\) の部分集合 \(S\) に対して次のことを定義します.

複素平面上の点の定義
・点 \(z_0\) が \(S\) の内点であるとは, \(z_0\) の \(\varepsilon\) 近傍が \(S\) に含まれる \(\varepsilon\) が存在することである.

・点 \(z_0\) が \(S\) の外点であるとは, \(z_0\) の \(\varepsilon\) 近傍と \(S\) の共通部分が空となる \(\varepsilon\) が存在することである.

・点 \(z_0\) が \(S\) の内点でも外点でもないとき \(z_0\) を境界点であるという.また,境界点全体の集合を \(S\) の境界という.

・点 \(z_0\) が \(S\) の集積点であるとは,任意の \(\varepsilon\) に対して, \(\varepsilon\) 近傍が \(z_0\) と異なる \(S\) の点を含むことである.集積点でない \(z_0\) が \(S\) に含まれるとき, \(z_0\) を \(S\) の孤立点という.

またこのことから次が定義できます.

複素平面上の開集合と閉集合
・複素平面上の部分集合 \(S\) が境界点を含まないとき \(S\) を開集合という.

・複素平面上の部分集合 \(S\) が境界を含むとき \(S\) を閉集合という.

・複素平面上の部分集合 \(S\) と \(S\) の境界の和集合を \(S\) の閉包といい, \(\overline{S}\) で表す.

 

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