複素積分【複素解析入門3】

【複素解析入門】

今回は複素積分について解説します.

 

1. 複素積分の導入

ここでは関数の積分可能性は全て仮定します.

1.1. 複素平面上の曲線

複素積分を考えるための前準備として,複素平面上の曲線について定義しておきます.

曲線の定義
実関数 \(x(t),y(t)\) を閉区間 \([a,b]\subset\mathbb{R}\) で連続な実数値関数とする.このとき $$z(t)=x(t)+iy(t)\ \ (a\leq t\leq b)$$ を複素平面上の曲線,またはとよぶ.

また, \(C\) の端点 \(z(a),z(b)\) が一致する以外,自分自身と交わらない曲線(つまり輪っか)をジョルダン曲線単一閉曲線)という.

曲線の微分の定義
閉区間 \([a,b]\subset\mathbb{R}\) で定義された曲線 \(C:z(t)=x(t)+iy(t)\) の微分を $$z'(t)=x'(t)+iy'(t)$$ で定義する. \(x'(t),y'(t)\) が有界連続(つまり \(z'(t)\) が有界連続)であるとき, \(z(t)\) を \(C^1\)級曲線という.

次に曲線の例を示します.左から「一点をのぞき \(C^1\)級曲線」,「ジョルダン曲線でない \(C^1\)級曲線」,「 \(C^1\)級のジョルダン曲線」を視覚的に表しています.

上の左側の例のような有限個の点を除き \(C^1\)級である曲線を区分的 \(C^1\)級曲線と言います.

 

1.2. 実数変数複素数値関数の定積分

はじめに簡単な実数変数の複素数値関数の積分を次のように定義します.

実数変数の複素数値関数の積分の定義
実数変数の複素数値関数 $$z(t)=u(t)+i\ v(t) \ \ (a\leq t\leq b)$$ における区間 \([a,b]\) での定積分を次のように定義する. $$\int_a^b z(t)\ dt=\int_a^b u(t)\ dt + i\int_a^b v(t)\ dt$$

実数変数複素数値関数の定積分の基本的な性質
次の関係式が成り立つ. $$\tag{1} {\rm Re}\int_a^b z(t)\ dt = \int_a^b {\rm Re} \{z(t)\}\ dz$$ $$\tag{2} \int_a^b a\ z(t)\ dt = a\int_a^b z(t)\ dz$$ $$\tag{3} \left| \int_a^b z(t)\ dt\ \right| \leq \int_a^b |z(t)|\ dt $$ ここで, \(a\in\mathbb{C}\) は定数とする.

実数変数複素数値関数の定積分の基本的な性質の証明
(1) , (2) は定義に沿えば容易に証明できるので, (3) のみ示す.

\(\int_a^b z(t)\ dt\) の積分値を \(r_0e^{i\theta_0}\) と書くと, $$\left| \int_a^b z(t)\ dt\ \right| = r_0$$ が成り立つ.また, \begin{eqnarray} r_0 &=& e^{-i\theta_0}\int_a^b z(t)\ dt \\ &=& \int_a^b e^{-i\theta_0} z(t)\ dt \quad (\ \mbox{∵}\ \ (2)\ ) \\ &=& {\rm Re} \int_a^b e^{-i\theta_0} z(t)\ dt \quad (\ \mbox{∵}\ \ r_0\in \mathbb{R}\ ) \\ &=& \int_a^b {\rm Re} \{e^{-i\theta_0} z(t)\}\ dt \quad (\ \mbox{∵}\ \ (1)\ ) \\ &\leq& \int_a^b | e^{-i\theta_0} z(t) | \ dt \quad (\ \mbox{∵}\ \ {\rm Re}\ z \leq |z|\ ) \\ &=& \int_a^b | z(t) | \ dt \quad (\ \mbox{∵}\ \ |e^{i\theta_0}| = 1\ ) \\ \end{eqnarray}

 

1.3. 複素積分の定義

曲線 \(C:z(t)\) に沿った複素関数 \(f(z)\) の線積分を

$$\int_C f(z)\ dz$$

とかいて次のように定義します.

複素積分の定義
有限個の点 \(a=t_0\lt t_1\lt \cdots \lt t_{n-1}\lt t_n = b\) を除いて微分可能な区分的 \(C^1\)級の曲線 \(C:z(t)\ \ (a\leq t\leq b)\) に沿った積分を $$\int_C f(z)\ dz=\sum_{k=1}^{n} \int_{t_{k-1}}^{t_{k}} f(z(t))\ z'(t)\ dt$$ で定義する.

以降,積分路 \(C:z(t)\) は区分的 \(C^1\)級曲線であると仮定します.

 

1.4. 複素積分の基本的性質

複素積分の基本的な性質
次の関係式が成り立つ. $$\tag{1} \int_{-C} f(z)\ dz = -\int_C f(z)\ dz$$ $$\tag{2} \int_{C_1+C_2} f(z)\ dz = \int_{C_1} f(z)\ dz + \int_{C_2} f(z)\ dz$$ $$\tag{3} \int_{C} z_0 f(z)\ dz = z_0\int_{C} f(z)\ dz $$ $$\tag{4} \int_{C} \left\{f(z)+g(z)\right\}\ dz = \int_{C} f(z)\ dz + \int_{C} g(z)\ dz$$ $$\tag{5} \left| \int_{C} f(z)\ dz\ \right| \leq L\cdot \sup_{z\in C} \left\{\left| f(z) \right| \right\} $$ \(-C\) は \(C:z(t)\ (t:a\rightarrow b)\) に対して, \(-C:z(t)\ (t:b\rightarrow a)\) のこと.
\(C_1+C_2\) は \(C_1\) の終点と \(C_2\) の始点をつなげた曲線のこと.
\(z_0\in\mathbb{C}\) は定数, \(L\) は \(C\) の長さのこととする.

複素積分の基本的な性質の証明
(1) から (4) は被積分関数と積分路を \(f(z)=u(z)+iv(z)\),\(C:z(t)=x(t)+iy(t)\) と置いて,「複素積分の定義」と「実数変数複素数値関数の定積分の定義」,「通常の積分の性質」を利用すれば証明できるので,(5) のみを示す.
\begin{eqnarray} \left| \int_{C} f(z)\ dz\ \right| &=& \left| \int_{a}^b f(z(t))\ z'(t)\ dt\ \right| \\ &\leq& \int_{a}^b | f(z(t)) | \ | z'(t) | \ dt \\ &\leq& \int_{a}^b M\ | z'(t) | \ dt \quad (\ M=\sup_{z\in C} \left\{\left| f(z) \right| \right\}\ ) \\ &=& M\int_{a}^b \sqrt{(x'(t))^2+(y'(t))^2} \ dt \\ &=& ML\\ \end{eqnarray}

 

1.5. 複素積分の例題

複素積分の例題 \((1)\)
次の関数 \(f(z)\) を図に示す経路での積分値を求めよ. $$f(z)=z^2$$

複素積分の例題 \((1)\) の解答
赤色の積分路)積分路は \(C_1+C_2\) で, $$C_1:z_1(t)=2t-1+i\ t\quad (0\leq t\leq 1)$$ $$C_2:z_2(t)=1+i\ (1-t)\ \ \ (0\leq t\leq 1)$$ とかけて, \(z’_1(t)=2+i\) , \(z’_2(t)=-i\) である.したがって, \begin{eqnarray} \int_{C_1+C_2} f(z)\ dz &=& \int_{0}^1 (2t-1+i\ t)^2\ (2+i)dt \\ & &\quad\quad + \int_{0}^1 (1+i\ (1-t))^2\ (-i)dt \\ &=& \int_{0}^1 2t^2-8t+4\ dt + i \int_{0}^1 12t^2-10t+1\ dt \\ &=& \frac{2}{3} \end{eqnarray}

青色の積分路)積分路は \(C_1+C_2\) で, $$C_1:z_1(t)=2t-1-i\ t\quad (0\leq t\leq 1)$$ $$C_2:z_2(t)=1+i\ (t-1)\ \ \ (0\leq t\leq 1)$$ とかけて, \(z’_1(t)=2-i\) , \(z’_2(t)=i\) である.したがって, \begin{eqnarray} \int_{C_1+C_2} f(z)\ dz &=& \int_{0}^1 (2t-1-i\ t)^2\ (2-i)dt \\ & &\quad\quad + \int_{0}^1 (1+i\ (t-1))^2\ (i)dt \\ &=& \int_{0}^1 2t^2-8t+4\ dt – i \int_{0}^1 12t^2-10t+1\ dt \\ &=& \frac{2}{3} \end{eqnarray}

 

複素積分の例題 \((2)\)
次の関数 \(f(z)\) を図に示す経路での積分値を求めよ. $$f(z)=\frac{1}{z-z_0}$$

複素積分の例題 \((2)\) の解答
積分路は $$C:z(\theta)=re^{i\theta}+z_0\quad (\theta:0\rightarrow 2\pi)$$ とかけて, \(z'(\theta)=i\ re^{i\theta}\) である.このとき, \(C:z(t)\) 上での \(f(z)\) の値は $$f(z(\theta))=\frac{1}{z(\theta)-z_0}=\frac{1}{re^{i\theta}}$$ となり,これは積分路 \(C_0:z_0(\theta)=re^{i\theta}\) 上での関数 \(f_0(z)=1/z\) の値に等しい.したがって, $$\int_{C} f(z)\ dz = \int_{C_0} f_0(z)\ dz$$ が成り立つ.よって, \begin{eqnarray} \int_{C} f(z)\ dz &=& \int_{0}^{2\pi} \frac{i\ re^{i\theta}}{re^{i\theta}}d\theta \\ &=& \int_{0}^{2\pi} i\ d\theta \\ &=& i\ \left[\ \theta\ \right]_{0}^{2\pi} = 2\pi i \\ \end{eqnarray}

 

複素積分の例題 \((3)\)
次の関数 \(f(z)\) を図に示す経路での積分値を求めよ. $$f(z)=\frac{1}{z}$$

複素積分の例題 \((3)\) の解答
赤色の積分路)積分路は $$C:z(\theta)=e^{i\theta}+2\quad (\theta:\pi\rightarrow 0)$$ とかけて, \(z'(\theta)=i\ e^{i\theta}\) である.したがって, \begin{eqnarray} \int_{C} f(z)\ dz &=& \int_{\pi}^{0} \frac{i\ e^{i\theta}}{e^{i\theta}+2}d\theta \\ &=& i\int_{\pi}^{0} \frac{1}{1+2e^{-i\theta}}d\theta \\ &=& i\int_{\pi}^{0} \frac{1}{1+2\cos{\theta}-2i\sin{\theta}}d\theta \\ &=& i\int_{\pi}^{0} \frac{1+2\cos{\theta}+2i\sin{\theta}}{(1+2\cos{\theta})^2+4\sin^2{\theta}}d\theta \\ &=& \underline{-\int_{\pi}^{0} \frac{2\sin{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta}_{\ (1)} +\ i\underline{\int_{\pi}^{0} \frac{1+2\cos{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta}_{\ (2)} \\ \end{eqnarray} \((1)\) を求める. \(t=\cos\theta\) とおくと, \(dt=-\sin\theta\ d\theta\) であるので, \begin{eqnarray} -\int_{\pi}^{0} \frac{2\sin{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta &=& \int_{-1}^{1} \frac{2}{5+4t}dt \\ &=& \left[ \frac{1}{2}\log{(5+4t)}dt \right]_{-1}^{1} \\ &=& \frac{1}{2}\log{9}\ -\ \frac{1}{2}\log{1} = \frac{1}{2}\log{9} \\ \end{eqnarray} \((2)\) を求める. \(3\tan\varphi=\tan{\frac{\theta}{2}}\) とおくと, \(\cos\theta = \frac{1-{9\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\) , \(d\theta = 6\frac{1+{\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\ d\varphi\) であるので, \begin{eqnarray} \int_{\pi}^{0} \frac{1+2\cos{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta &=& \frac{1}{2}\int_{\pi}^{0} 1-\frac{3}{5+4\cos{\theta}}d\theta \\ &=& -\ \frac{\pi}{2}\ -\ \frac{1}{2}\int_{\frac{\pi}{2}}^{0} \frac{3\cdot 6}{5+4\frac{1-9\tan^2{\varphi}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}} \frac{1+{\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\ d\varphi \\ &=& -\ \frac{\pi}{2}\ – \int_{\frac{\pi}{2}}^{0} \ d\varphi \\ &=& 0 \end{eqnarray} したがって, $$\int_{C} f(z)\ dz = \frac{1}{2}\log{9}$$

青色の積分路)赤色の積分路と計算はほぼ同様.積分路は $$C:z(\theta)=e^{i\theta}+2\quad (\theta:-\pi\rightarrow 0)$$ とかけて, \(z'(\theta)=i\ e^{i\theta}\) である.したがって, $$\int_{C} f(z)\ dz = \underline{-\int_{-\pi}^{0} \frac{2\sin{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta}_{\ (1)} +\ i\underline{\int_{-\pi}^{0} \frac{1+2\cos{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta}_{\ (2)} $$ \((1)\) を求める. \(t=\cos\theta\) とおくと, \(dt=-\sin\theta\ d\theta\) であるので, $$ -\int_{-\pi}^{0} \frac{2\sin{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta = \int_{-1}^{1} \frac{2}{5+4t}dt = \frac{1}{2}\log{9} $$ \((2)\) を求める. \(3\tan\varphi=\tan{\frac{\theta}{2}}\) とおくと, \(\cos\theta = \frac{1-{9\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\) , \(d\theta = 6\frac{1+{\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\ d\varphi\) であるので, \begin{eqnarray} \int_{-\pi}^{0} \frac{1+2\cos{\theta}}{5+4\cos{\theta}}d\theta &=& \frac{1}{2}\int_{-\pi}^{0} 1-\frac{3}{5+4\cos{\theta}}d\theta \\ &=& \ \frac{\pi}{2}\ -\ \frac{1}{2}\int_{-\frac{\pi}{2}}^{0} \frac{3\cdot 6}{5+4\frac{1-9\tan^2{\varphi}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}} \frac{1+{\tan^2{\varphi}}}{1+{9\tan^2{\varphi}}}\ d\varphi \\ &=& 0 \end{eqnarray} したがって, $$\int_{C} f(z)\ dz = \frac{1}{2}\log{9}$$

 

2. コーシーの積分定理

ここでは,ある程度の幾何学的な直感を認めて証明します.(厳密な証明にはホモローグ0や,ジョルダン曲線定理などの導入が望ましい)

2.1. 単連結と多重連結

この節の本題に入る前に単連結と多重連結という概念について定義しておきます.

単連結・多重連結の定義
複素平面の領域 \(D\) が単連結であるとは, \(D\) 内の任意のジョルダン曲線の内部が全て \(D\) の部分集合であることをいう.
また,領域 \(D\) が単連結でないとき, \(D\) は多重連結であるという.例えば, $$D:1\leq |z|\leq 2$$ などは円環になり単連結でないので多重連結な領域となる.

 

2.2. コーシーの積分定理

以下ではジョルダン曲線 \(C\) の内部を \(C^{\circ}\) と表し,\(\overline{C}=C\cup C^{\circ}\) と表すことにします.

コーシーの積分定理
関数 \(f(z)\) は単連結な領域 \(D\) 内で正則であるとする.このとき \(D\) 上の始点と終点が一致する曲線 \(C\) に対して $$\int_C f(z)\ dz=0$$ が成り立つ.

コーシーの積分定理の証明
積分路 \(C\) はジョルダン曲線としていい.なぜなら,点と終点が一致する曲線はジョルダン曲線の組み合わせとして表せるからである.(図参照)


まず,ジョルダン曲線 \(C\) に対して \(\overline{C}\) の領域を次の図のように \(n\) 個の正方形と部分正方形に分割することを考える.


各(部分)正方形を順番付けし, \(D_j\ (1\leq j\leq n)\) と表すことにして,その周を \(C_j\ (1\leq j\leq n)\) と書くとする.このとき, \(f\) 正則なので,任意の \(\varepsilon\gt 0\) と \(D_j\) の任意の 2 点 \(z,z_j\) に対して,次の不等式が成り立つような分割の仕方が存在する. $$\left| \frac{f(z)-f(z_j)}{z-z_j}-f'(z_j) \right|\lt \varepsilon$$ ここで, \(D_j\) 上の点 \(z_j\) を固定して \(D_j\) 上で関数 \(g_j(z)\) を次のように定義する. \begin{eqnarray} g_j(z)=\left\{ \begin{array}{ccc} \displaystyle \frac{f(z)-f(z_j)}{z-z_j}-f'(z_j) &(z\neq z_j)\\ 0 &(z= z_j) \end{array} \right. \end{eqnarray} このとき, $$f(z)=f(z_j)+zf'(z_j)-z_jf'(z)+(z-z_j)g_j(z)$$ が成り立つ.したがって, $$\int_{C_j} dz = \int_{C_j} z\ dz = 0$$ (このことは複素積分の定義にしたがって計算すれば求まる)より, \begin{eqnarray} \left| \int_{C_j} f(z)\ dz \right| &= & \left| \int_{C_j} (z-z_j)g_j(z)\ dz \right| \\ & \leq & \int_{C_j} |z-z_j||g_j(z)||dz| \end{eqnarray} となる.また,正方形の一辺の長さを \(s\) として,\(C_j\) と \(C\) の共通部分の長さを \(L_j\) とすると, $$|z-z_j|\leq \sqrt{2}s,\quad |g_j(z)|\lt \varepsilon,\quad \int_{C_j} |dz|\leq 4s+L_j$$ であるので, \(C\) を内側に含むような正方形の一辺の長さを \(S\) とおくと, \begin{eqnarray} \left| \int_{C} f(z)\ dz \right| &=& \left| \sum_{j=1}^{n}\int_{C_j} f(z)\ dz \right| \\ &\leq& \sum_{j=1}^{n} \left| \int_{C_j} f(z)\ dz \right| \\ &\leq& \sum_{j=1}^{n} \varepsilon (4\sqrt{2} s^2+\sqrt{2}sL_j) \\ &\leq& \varepsilon (4\sqrt{2} S^2+\sqrt{2}S \sum_{j=1}^{n} L_j) \\ &=& \varepsilon (4\sqrt{2} S^2+\sqrt{2}SL) \\ \end{eqnarray} したがって, $$\int_{C} f(z)\ dz = 0$$ である.

 

系 5.2.1
関数 \(f(z)\) は単連結な領域 \(D\) 内で正則であるとする.このとき任意の \(2\) 点を結ぶ \(D\) 内の曲線 \(C_1,C_2\) に対して $$\int_{C_1} f(z)\ dz = \int_{C_2} f(z)\ dz$$ が成り立つ.つまり積分値は始点と終点のみによって定まり,積分路に依らない.

系 5.2.1 の証明
\(C_1,C_2\) を点 \(z_1\) から \(z_2\) への曲線とすると, \(C_1-C_2\) は \(z_1\) を始点かつ終点とする曲線といえる.したがってコーシーの積分定理より, $$\int_{C_1-C_2}f(z)\ dz=0 \Longrightarrow \int_{C_1}f(z)\ dz=\int_{C_2}f(z)\ dz$$

 

系 5.2.2
ジョルダン曲線 \(C\) に対して \(\overline{C}\) 上にジョルダン曲線 \(C_i\ (i=1,\cdots n)\) があって, \(R=\overline{C}-\bigcup_{i=1}^n C_i^{\circ}\) で関数 \(f(z)\) が正則なとき, \(C\) の向きと \(C_i\) の向きを「逆」とすれば, $$\int_{C+C_1+\cdots+C_n} f(z)\ dz=0$$ が成り立つ.

系 5.2.2 の証明
下の図のように積分路を \(2\) つに分解できる.(図は \(n=2\) のとき)
分割した積分路をそれぞれ \(C_a,C_b\) とすると,仮定から \(f(z)\) は \(\overline{C_a},\overline{C_b}\) で正則であるからコーシーの積分定理より, $$\int_{C_a}f(z)\ dz=0\ ,\ \int_{C_b}f(z)\ dz=0$$ となる.したがって, $$\int_{C+C_1+\cdots+C_n} f(z)\ dz = \int_{C_a}f(z)\ dz + \int_{C_b}f(z)\ dz = 0$$ ( \(C_a\) と \(C_b\) に共通する積分路は方向が逆なので打ち消される)

 

系 5.2.2 は次のように言い換えることもできます.

系 5.2.2#
ジョルダン曲線 \(C\) に対して \(\overline{C}\) 上にジョルダン曲線 \(C_i\ (i=1,\cdots n)\) があって, \(R=\overline{C}-\bigcup_{i=1}^n C_i^{\circ}\) で関数 \(f(z)\) が正則なとき, \(C\) の向きと \(C_i\) の向きを「同じ」とすれば, \begin{eqnarray} \int_{C} f(z)\ dz &=& \int_{C_1+\cdots+C_n} f(z)\ dz \\ &=& \sum_{k=1}^n \int_{C_k} f(z)\ dz \end{eqnarray} が成り立つ.

このことからジョルダン曲線 \(C\) の内部に正則でない点があるときは,それらの点の近傍での積分値の和が \(C\) 上の積分値になることがわかります.

 

2.3. コーシーの積分表示

コーシーの積分表示
関数 \(f(z)\) は単連結な領域 \(D\) 上で正則であるとする.このとき \(D\) 上の正の向きを持ったジョルダン曲線 \(C\) と \(C\) 内部の任意の点 \(z_0\) に対して, $$f(z_0) = \frac{1}{2\pi i} \int_C \frac{f(z)}{z-z_0}\ dz$$ が成り立つ.ここで,正の向きとは反時計回りのこととする.

コーシーの積分表示の証明
\(C\) 内部の任意の \(z_0\) に対してある \(\delta_1\) が存在して, \(z_0\) を中心とする半径 \(\delta_1\) の開円板が \(C\) の内部に含まれるようにできる.
また, \(f(z)\) は連続なので任意の \(\varepsilon\) に対して,ある \(\delta_2\) があって, $$|z-z_0|\leq \delta_2 \Longrightarrow |f(z)-f(z_0)|\lt \varepsilon$$ が成り立つようにできる. \(\delta = \min\{\delta_1,\delta_2\}\) ととれば, \(z_0\) を中心とする半径 \(\delta\) の円の円周 \(C_0\) は \(\overline{C}\) 上のジョルダン曲線である.また, \(f(z)/(z-z_0)\) は点 \(z_0\) を除いて正則であるので,系5.2.2# より, $$\int_C \frac{f(z)}{z-z_0}dz = \int_{C_0} \frac{f(z)}{z-z_0}dz$$ が成り立つ.したがって,1.5. 複素積分の例題 (2) の結果を用いれば, \begin{eqnarray} \left| \int_C \frac{f(z)}{z-z_0}dz \ -\ 2\pi i\ f(z_0) \right| &=& \left| \int_{C_0} \frac{f(z)}{z-z_0}dz \ – \int_{C_0} \frac{f(z_0)}{z-z_0}dz \right| \\ & = & \left| \int_{C_0} \frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0} dz \right| \end{eqnarray} とできて,積分路 \(C_0\) 上で \(|z-z_0|=\delta\) ,積分路の長さは \(2\pi \delta\) で, \(|f(z)-f(z_0)|\leq \varepsilon\) なので, $$\left| \int_{C_0} \frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0} dz \right| \lt \frac{\varepsilon}{\delta}2\pi\delta = 2\pi\varepsilon$$ となる.よって, $$\int_C \frac{f(z)}{z-z_0}dz = 2\pi i\ f(z_0)$$ が得られた.

 

一般のコーシーの積分表示
関数 \(f(z)\) は単連結な領域 \(D\) 上で正則であるとする.このとき \(f(z)\) は \(D\) 上で任意階微分可能で \(D\) 上の正の向きを持ったジョルダン曲線 \(C\) と \(C\) 内部の任意の点 \(z\) に対して, $$f^{(n)}(z) = \frac{n!}{2\pi i} \int_C \frac{f(s)}{(s-z)^{n+1}}\ ds$$ が成り立つ.ここで,正の向きとは反時計回りのこととする.

一般のコーシーの積分表示の証明
数学的帰納法を用いて示す.

\(k=0\) のときはコーシーの積分表示により, $$f^{(0)}(z) = \frac{0!}{2\pi i} \int_C \frac{f(s)}{(s-z)^{0+1}}\ ds$$ が成り立つ.

\(f(z)\) が \(D\) 上で \(k\) 階微分可能で \(D\) 上の正の向きを持ったジョルダン曲線 \(C\) と \(C\) 内部の任意の点 \(z\) に対して, $$f^{(k)}(z) = \frac{k!}{2\pi i} \int_C \frac{f(s)}{(s-z)^{k+1}}\ ds$$ が成り立つとする.このとき \(k+1\) でも同様に成り立つことを示す. \(|\Delta z|\lt \delta\) ならば \(z+\Delta z\) が \(C\) の内部の点となるような \(\delta\) をとると, \(|\Delta z|\lt \delta\) となる任意の \(\Delta z\) で, \begin{eqnarray} &&\frac{f^{(k)}(z)-f^{(k)}(z+\Delta z)}{\Delta z} \\ &&\quad = \frac{k!}{2\pi i} \int_C \left( \frac{1}{(s-z)^{k+1}}\ – \frac{1}{(s-(z+\Delta z))^{k+1}}\right) \frac{f(s)}{\Delta z}ds \\ \end{eqnarray} となる.ここで, $$\lim_{\Delta z \rightarrow 0}\left( \frac{1}{(s-z)^{k+1}}\ – \frac{1}{(s-(z+\Delta z))^{k+1}}\right)\frac{1}{\Delta z}$$ は \(g(z)=1/(s-z)^{k+1}\) の微分で, \(g'(z)=(k+1)/(s-z)^{k+2}\) が得られる.また,この極限は \(s\neq z\) でコンパクト一様収束し, \(z\) は \(C\) の内部の点であるので,上の極限は \(C\) 上一様収束する.よって,極限と積分の順序交換可能で, $$\lim_{\Delta z \rightarrow 0}\frac{f^{(k)}(z)-f^{(k)}(z+\Delta z)}{\Delta z} = \frac{(k+1)!}{2\pi i} \int_C \frac{f(s)}{(s-z)^{k+2}}ds $$ したがって, \(f(z)\) は \(k+1\) 階微分可能で, $$f^{(k+1)}(z) = \frac{(k+1)!}{2\pi i} \int_C \frac{f(s)}{(s-z)^{k+2}}\ ds$$ を満たすので,数学的帰納法により,一般のコーシーの積分表示は示された.

 

この定理により関数 \(f(z)\) が領域 \(D\) で正則であるとき何回でも微分可能であるという重要な結果が得られました.

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

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