集合の濃度とは集合の元の個数を拡張した概念のことです.
今回は,濃度という概念を導入し,無限集合の性質について解説していきます.
集合の濃度
まずは,濃度の定義について確認します.
集合 \(A\) と対等な集合全体の集合(実は集合と呼ぶには大きすぎる)を \(A\) の濃度といい, \(|A|\) とかく.もし, \(A\) と \(B\) が対等ならば, \(|A|=|B|\) となる.
・自然数全体の集合 \(\mathbb{N}\) は,整数全体の集合 \(\mathbb{Z}\) と対等.
写像 \(f:\mathbb{N} \longrightarrow \mathbb{Z}\) を次のように定義すれば, \(f\) は全単射となる. $$f(x)= \left\{ \begin{array}{cccc} \frac{x-1}{2}\quad (x\ :\ odd\ number)\\ \ \ \,\frac{-x}{2}\ \quad (x\ :\ even\ number) \end{array} \right. $$
定義から次の関係はすぐにもとまります.このような関係を同値関係といいます.
\(|A|=|B|\Longrightarrow |B|=|A|\) (全単射の逆写像は全単射より)
\(|A|=|B|,|B|=|C|\Longrightarrow |A|=|C|\) (全単射の合成写像は全単射より)
濃度の大小
次に濃度の大小について考えます.
\(|A|\leq |B|\) のとき, \(|B|\) は \(|A|\) 以上といい, \(|A|\lt |B|\) のとき, \(|B|\) は \(|A|\) より大きいといいます.(「以下」,「より小さい」も同様)
ここで, \(A\) と \(B'(\subset B)\) が対等であることは, \(A\) から \(B\) への単射があることや, \(B\) から \(A\) への全射があることと同値となります.
必ずいずれかの関係が成り立つことは(順序集合の知識が必要なので)証明略.
また,次の定理より, \(|A|\leq |B|\) かつ \(|B|\leq |A|\) ならば, \(|A|=|B|\) が成り立ちます.
\(|A|\leq|B|,|B|\leq|A|\Longrightarrow |A|=|B|\) (Bernsteinの定理より)
\(|A|\leq|B|,|B|\leq|C|\Longrightarrow |A|\leq|C|\) (単射の合成写像は単射より)
では,濃度の大小を用いた例として,次の驚くべき命題を証明します.
(2) 自然数全体の集合 \(\mathbb{N}\) と,実数全体の集合 \(\mathbb{R}\) とは対等ではなく, \(|\mathbb{N}| \lt |\mathbb{R}|\) .したがって, \(|\mathbb{Q}| \lt |\mathbb{R}|\)
\(\mathbb{N} \subset \mathbb{Q}\) なので, \(|\mathbb{N}| \leq |\mathbb{Q}|\) .
また,次の図のように \(\mathbb{N}\) を \(y\) 座標が 0 以上の格子点に対応させると,この対応は \(\mathbb{N}\) から \(\mathbb{Z}\times (\mathbb{N}\cup \{0\})\) への全射であり, \(\mathbb{Q}\) の任意の点は \(a\in \mathbb{Z}\) と \(b\in (\mathbb{N}\cup \{0\})\) によって, \(\frac{a}{b}\) とかけるので( \(\frac{a}{0}=0\) としておく),この対応は \(\mathbb{N}\) から \(\mathbb{Q}\) への全射となっている.よって, \(|\mathbb{N}| \geq |\mathbb{Q}|\) であって,したがって, \(|\mathbb{N}| = |\mathbb{Q}|\) .
(2)
まず, \(f(x)=tan(\pi x+{\pi\over2})\) が開区間 \((0,1)\) から \(\mathbb{R}\) への全単射となることから,開区間 \((0,1)\) は \(\mathbb{R}\) と対等なので, \((0,1)\) と \(\mathbb{N}\) の関係を調べれば良い.
もし, \(\mathbb{N}\) と \((0,1)\) との間に全単射があれば, $$f(1)=0.a_1^{(1)}a_2^{(1)}\dots a_n^{(1)}\dots$$ $$f(2)=0.a_1^{(2)}a_2^{(2)}\dots a_n^{(2)}\dots$$ $$\vdots$$ $$f(n)=0.a_1^{(n)}a_2^{(n)}\dots a_n^{(n)}\dots$$ $$\vdots$$ と,対応させられる.しかし, \(b_n\) を $$b_n= \left\{ \begin{array}{cccc} 1\quad (a_n^{(n)} \neq 1)\\ 2\quad (a_n^{(n)} = 1) \end{array} \right. $$ と定めると, \(\beta = 0.b_1b_2\dots b_n\dots\) は \(\mathbb{N}\) と対応していない \((0,1)\) の元となっている.したがって, \(\mathbb{N}\) から \((0,1)\) への全単射は存在しない.よって,対等でない.
ここで, \(\mathbb{N} \subset \mathbb{R}\) より, \(|\mathbb{Q}|=|\mathbb{N}| \leq |\mathbb{R}| = |(0,1)|\) であり, \(\mathbb{N}\) と \((0,1)\) は対等でないので, \(|\mathbb{Q}| \lt |\mathbb{R}|\) .
上の証明により, \(\mathbb{Q}\) は \(\mathbb{N}\) と同じ数だけ存在していて, \(\mathbb{R}\) は \(\mathbb{Q}\) よりも多く存在する.といえるでしょう.
また,上の証明により,任意の写像 \(f:\mathbb{Q}\longrightarrow\mathbb{R}\) に対して,\(\mathbb{R}’=\mathbb{R}-f(\mathbb{Q})\neq\emptyset\) となりますが,このとき, \(|\mathbb{R}’|\) の濃度はどのようになっているのでしょう?
実は \(|\mathbb{R}’|\) に関して次の命題が成り立ちます.
\(|\mathbb{N}|\geq |\mathbb{R}’|\) と仮定して矛盾を導く. \(|\mathbb{N}|\geq |\mathbb{R}’|\) ならば, \(|\mathbb{N}|\) は後に示すように濃度が最小の無限集合であるので, \(\mathbb{R}’\) は有限集合か \(\mathbb{N}\) と対等な集合となる.
任意の写像 \(f:\mathbb{N}\longrightarrow\mathbb{R}\) を 1 つとると, $$f(1)=x_1,\ f(2)=x_2,…,\ f(n)=x_n,…$$ とかける.
このとき, \(\mathbb{R}’\) が有限集合ならば, $$ \mathbb{R}’ =\{a_1,a_2,…,a_m\}$$ とかけて,写像 \(g:\mathbb{N}\longrightarrow\mathbb{R}\) を $$g(1)=a_1,\ g(2)=a_2,…,\ g(m)=a_m,\\ g(m+1)=x_1,…,\ g(m+n)=x_n,…$$ と定義すると,この写像は全射となり \(|\mathbb{N}| \lt |\mathbb{R}|\) と矛盾する.
\(\mathbb{R}’\) が \(\mathbb{N}\) と対等ならば, $$ \mathbb{R}’ =\{a_1,a_2,…,a_n,…\}$$ とかけて,写像 \(h:\mathbb{N}\longrightarrow\mathbb{R}\) を $$h(1)=a_1,\ h(3)=a_2,…,\ h(2n-1)=a_n,…\\ h(2)=x_1,\ h(4)=x_2,…,\ h(\ \ \ 2n\ \ \ )=x_n,…$$ と定義すると,この写像は全射となり \(|\mathbb{N}| \lt |\mathbb{R}|\) と矛盾する.
したがって, \(|\mathbb{N}|\lt |\mathbb{R}’|\) であるので, \(|\mathbb{Q}|\lt |\mathbb{R}’|\) .
この命題より,写像 \(f:\mathbb{Q}\longrightarrow\mathbb{R}\) を \(f(a)=a\) とおくと,無理数は有理数よりも多く存在する.ということができます.
濃度が最小の無限集合
\(\mathbb{Z}\) や \(\mathbb{Q}\) など \(\mathbb{N}\) と対等な集合を可算集合といい,可算集合の濃度を \(\aleph_0\) (アレフ・ゼロ)とかきます.
\(\mathbb{R}\) などの \(\mathbb{N}\) より濃度の大きい集合を非可算集合といいます.特に, \(\mathbb{R}\) の濃度を連続濃度といい \(\aleph\) (アレフ)とかきます.
\(\aleph_0\) が無限集合の濃度で最小となることは次の定理によりわかります.
注)この証明で,集合 \(X_i=M- \{a_1,a_2,\dots ,a_i\}\) から元を 1 つ選ぶ操作は選択公理によって保証されている.つまり, \(f_i(X_i)\in X_i\) となる \(f_i\) が存在することが選択公理により保証されているので, \(a_{i+1}=f_i(X_i)\) とおけば良い.
濃度が最大の集合
次の定理から最大の濃度を持つ集合は存在しないことがわかります.
したがって,任意の \(x\in X\) に対して \(f(x)\neq B\) となる.これは, \(X\) の部分集合 \(B\) に対応する \(X\) の元が存在しないということなので, \(f\) は全単射でない.
この定理から,いくらでも大きな濃度の集合を作れることがわかります.例えば, \(\mathfrak{P}(\mathfrak{P}(X))\) は \(\mathfrak{P}(X)\) より大きな濃度の集合です.
連続体仮説
可算集合の濃度より大きく連続濃度より小さい濃度があるか,つまり
$$\aleph_0 \lt |X| \lt \aleph$$
となる集合 \(X\) は存在するかということについて述べておきます.
このような \(X\) は存在しないという仮説を連続体仮説といい,現在一般的に用いられている集合論の公理系であるZFC公理系の元で連続体仮説は証明できないことが分かっています.
このことがZFC公理系の不完全性を示している.とも言われています.
無限集合に関する事実
最後に,無限集合について成り立つ事実を一通り載せておきます.
・ \(|\mathbb{R}|=|\mathbb{C}|=|\mathbb{N}^{\mathbb{N}}|=|\mathfrak{P}(\mathbb{N})|=|\mathbb{R}^a|\)( \(2\leq a\leq \infty,\ a\in \mathbb{N}\))
・ \(\mathbb{R}\) から \(\mathbb{R}\) への連続関数全体の集合を \(C(\mathbb{R})\) とかくと, \(|C(\mathbb{R})|=|\mathbb{R}|\) .
・ \(X\) が無限集合で \(|A|\lt |X|\) のとき, \(|X-A|=|X\cup A|=|X\times A|=|X|\) .