ローラン級数と解析接続【複素解析入門4】

【複素解析入門】

今回はローラン級数と解析接続について解説します.

 

1. テイラー展開

定理 1(テイラー展開)
関数 \(f(z)\) が点 \(a\) を中心とする半径 \(R>0\) の開円板 $$D(a,R)=\{z\in \mathbb{C} \mid |z-a|\lt R\}$$ で正則であるとする.このとき \(f\) は \(D(a,R)\) 上で点 \(a\) 周りのテイラー級数 $$f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n \quad (z\in D(a,R))$$ でべき級数展開可能である.

証明
\(D(a,R)\) 上の任意の点 \(z\) に対して, \(|z-a|\lt r\lt R\) となる \(r\) が存在する.ここで,点 \(a\) を中心とする半径 \(r\) の円の円周を \(C\) (正の向きを持つ)とすると, \(D(a,R)\) は単連結な領域であるので,コーシーの積分表示より, $$f(z)=\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(s)}{s-z}ds$$ が成り立つ.ここで, \(C\) 上の \(s\) で \(|z-a|\lt |s-a|\) が成り立ち, $$\frac{|z-a|}{|s-a|}\lt 1\Longrightarrow \left( \frac{z-a}{s-a} \right) ^n \rightarrow 0 \quad (n\rightarrow \infty)$$ を満たす.したがって,等比級数の公式より $$\frac{1}{s-z}=\frac{1}{s-a}\frac{1}{1-\frac{z-a}{s-a}}=\frac{1}{s-a}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(z-a)^n}{(s-a)^n}$$ が成り立つ.ここで,積分路 \(C\) 上で \(|s-a|=r\) で一定なので,級数 $$\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(z-a)^n}{(s-a)^{n+1}}$$ は \(C\) 上で一様収束する.(ワイエルストラスのM判定法)よって,項別積分可能で,一般のコーシーの積分定理の結果を用いれば, \begin{eqnarray} f(z)&=&\frac{1}{2\pi i}\int_C \sum_{n=0}^{\infty} f(s) \frac{(z-a)^n}{(s-a)^{n+1}} ds\\ &=& \frac{1}{2\pi i} \sum_{n=0}^{\infty} \int_C \frac{f(s)}{(s-a)^{n+1}} ds\ (z-a)^n \\ &=& \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!} (z-a)^n \end{eqnarray} が得られて,べき級数展開可能であることが導けた.

 

2. ローラン展開

関数 \(f\) が \(0\lt |z-a|\lt R\) で定義されていて正則で,点 \(a\) で正則でないとき \(a\) を \(f\) の孤立特異点と言います.この孤立特異点に関して次のように関数 \(f\) は級数展開されます.

※以下の定理で \(a\) が孤立特異点である仮定は不要ですが,正則点の場合はテイラー展開と全く同様なのであえて特異点としています.

定理 2.1(ローラン展開)
関数 \(f(z)\) が領域 $$D_0(a,R)=\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a|\lt R\}$$ で正則で点 \(a\) が \(f\) の孤立特異点ならば, \(f\) は領域 \(D_0(a,R)\) で収束する級数により $$f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n(z-a)^n$$ と表される.ここで \(a_n\) は $$a_n=\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(s)}{(s-a)^{n+1}}ds$$ で与えられる.ただし,積分路 \(C\) は \(a\) を中心とする半径 \(r\ (0\lt r\lt R)\) の正の向き(反時計回り)を持つ円周とする.

証明
領域 \(D_0(a,R)\) 上の任意の点 \(z\) に対して,次を満たすような \(r,r_1,r_2\gt 0\) が存在する.

\((1)\) \(r\) は \(|z-a|\lt r\lt R\) を満たす.
\((2)\) \(r_1,r_2\) は次を満たす. $$D_1=\{s\mid |s-z|\lt r_1\},\quad D_2=\{s\mid |s-a|\lt r_2\}$$ に対して, \(D_1\cap D_2=\emptyset\) かつ, \(D_1,D_2\subset \{s\mid |s-a|\lt r\}\) が成り立つ.

このような \(r,r_1,r_2\gt 0\) が存在することの証明は省略する.(難しくない,図参照)

このとき,

\(C\) : \(a\) を中心とする半径 \(r\) の円周
\(C_1\) : \(z\) を中心とする半径 \(r_1\) の円周
\(C_2\) : \(a\) を中心とする半径 \(r_2\) の円周

としてそれぞれ正の向きを与えておくと, \(D_0(a,R)\) から \(D_1,D_2\) を除いた領域では関数 $$\frac{f(s)}{s-z}$$ は正則なので,複素積分【複素解析入門3】系5.2.2# より, $$\int_{C_1}\frac{f(s)}{s-z}ds=\int_{C}\frac{f(s)}{s-z}ds \ -\int_{C_2}\frac{f(s)}{s-z}ds$$ がわかる.ここで, \(f\) は \(z\) で正則なので,コーシーの積分表示より, \begin{eqnarray} f(z) &=& \frac{1}{2\pi i}\int_{C_1}\frac{f(s)}{s-z}ds \\ &=& \frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(s)}{s-z}ds \ -\frac{1}{2\pi i}\int_{C_2}\frac{f(s)}{s-z}ds \end{eqnarray} となる.ここで, \(C\) 上の積分に対しては, \(C\) 上の \(s\) で \(|z-a|\lt |s-a|\) であるので,定理 1 の証明と同様に $$\frac{1}{s-z}=\frac{1}{s-a}\frac{1}{1-\frac{z-a}{s-a}}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(z-a)^n}{(s-a)^{n+1}}$$ であり, \(|s-a|=r\) で一定なので,この級数は \(C\) 上で一様収束し,項別積分可能で, \begin{eqnarray} \frac{1}{2\pi i}\int_{C}\frac{f(s)}{s-z}ds &=&\frac{1}{2\pi i}\int_C \sum_{n=0}^{\infty} f(s) \frac{(z-a)^n}{(s-a)^{n+1}} ds\\ &=& \frac{1}{2\pi i} \sum_{n=0}^{\infty} \int_C \frac{f(s)}{(s-a)^{n+1}} ds\ (z-a)^n \\ &=& \sum_{n=0}^{\infty} a_n (z-a)^n \end{eqnarray} また, \(C_2\) 上の積分に対しては, \(C_2\) 上の \(s\) で \(|z-a|\gt |s-a|\) であるので, $$\frac{1}{s-z}=-\frac{1}{z-a}\frac{1}{1-\frac{s-a}{z-a}}=-\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(s-a)^n}{(z-a)^{n+1}}$$ で,この級数に関しても \(|s-a|=r_2\) より,また項別積分可能で, \begin{eqnarray} \frac{-1}{2\pi i}\int_{C_2}\frac{f(s)}{s-z}ds &=&\frac{1}{2\pi i}\int_{C_2} \sum_{n=0}^{\infty} f(s) \frac{(s-a)^n}{(z-a)^{n+1}} ds\\ &=& \frac{1}{2\pi i} \sum_{n=0}^{\infty} \int_{C_2} f(s)(s-a)^n ds\ \frac{1}{(z-a)^{n+1}} \\ &=& \sum_{n=-\infty}^{-1} a_n (z-a)^n \end{eqnarray} が得られる.したがって, $$f(z)=\sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n (z-a)^n$$ が得られた.

 

定理 2.1 のような級数

$$\sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n(z-a)^n$$

を \(a\) を中心とするローラン級数といいます.関数 \(f(z)\) の \(a\) を中心とするローラン級数での級数展開を \(a\) を中心とするローラン展開といいます.

系 2.2(ローラン展開の一意性)
関数 \(f(z)\) の \(a\) を中心とするローラン展開は一意的に定まる.

証明
関数 \(f\) が領域 $$D_0(a,R)=\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a|\lt R\}$$ で正則な関数とし,定理 2.1 以外の形のローラン展開 $$f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} b_n(z-a)^n$$ を持つとする.このとき, \(a\) を中心とし \(0\lt r\lt R\) となる \(r\) を半径とする正の向きの円周 \(C\) 上での積分 $$\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(z)}{(z-a)^{m+1}}\ dz \quad (m\in \mathbb{Z})$$ を考えると, \(0\lt |z-a|=r\lt R\) より,級数 $$\sum_{n=-\infty}^{\infty} b_n(z-a)^{n-m-1}$$ は \(C\) 上で一様収束するので,項別積分可能で \begin{eqnarray} &&\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(z)}{(z-a)^{m+1}}\ dz \\ &&\quad = \frac{1}{2\pi i}\int_C \sum_{n=-\infty}^{\infty} b_n(z-a)^{n-m-1}\ dz \\ &&\quad = \sum_{n=-\infty}^{\infty} \frac{b_n}{2\pi i}\int_C (z-a)^{n-m-1}\ dz \\ \end{eqnarray} となる.ここで,この積分は積分路が \(C:a+re^{i\theta}\ (0\leq \theta\leq 2\pi)\) とかけるので, \begin{eqnarray} &&\frac{1}{2\pi i}\int_C (z-a)^{n-m-1}\ dz \\ &&\quad = \frac{r^{n-m}}{2\pi}\int_0^{2\pi} e^{i(n-m)\theta}\ d\theta = \left\{ \begin{array}{l} 1 \quad (n=m) \\ 0 \quad (n\neq m) \end{array} \right. \end{eqnarray} となる.したがって, $$b_m = \frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(z)}{(z-a)^{m+1}}\ dz$$ がわかり,これで一意性が得られた.

 

テイラー展開の一意性も同様に証明することができます.

ローラン展開の例
$$\frac{\sin z}{z}=1-\frac{1}{3!}z^2+\frac{1}{5!}z^4-\frac{1}{7!}z^6+\cdots \quad(0\lt |z|\lt \infty)$$ $$\frac{\sin z}{z^2}=\frac{1}{z}-\frac{1}{3!}z+\frac{1}{5!}z^3-\frac{1}{7!}z^5+\cdots \quad(0\lt |z|\lt \infty)$$

 

3. 特異点と零点

零点の定義
・関数 \(f(z)\) に対して \(f(a)=0\) となる点 \(a\) を \(f\) の零点(ぜろてん)という.
・ \(n\geq 1\) に対し \(f^{(k)}(a)=0\ (0\leq k\leq n-1)\) , \(f^{(n)}(a)\neq 0\) であるとき, \(a\) は \(f\) の \(n\) 次の零点という.
・任意の \(n\in \mathbb{N}\) で \(f^{(n)}(a)=0\) となるとき, \(a\) は \(f\) の無限次の零点という.

特異点の定義
関数 \(f\) の孤立特異点 \(a\) を中心とするローラン展開 $$\sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n(z-a)^n$$ の係数 \(a_n\) に対して,
・全ての \(n\leq -1,\ n\in\mathbb{Z}\) に対して \(a_n=0\) のとき, \(a\) を除去可能特異点という.
・ある負の整数 \(n\) に対して, \(a_n\neq 0\) で全ての \(m\lt n\) で \(a_m=0\) となるとき, \(a\) を \(f\) の \(n\) 次の極という.
・ \(a_n\neq 0\) となる負の整数 \(n\) が無限に存在するとき, \(a\) を真性特異点という.

定理 3.1(零点の性質)
関数 \(f\) が開集合 \(D\) で正則で恒等的に \(0\) でないとき, \(f\) の任意の零点 \(a\in D\) に対して次が成り立つ.
(1) \(a\) は無限次の零点ではない.
(2) 領域 \(D(a,R) = \{z\mid |z-a|\lt R\}\) に対して, \(D(a,R)\subset D\) であるとき, \(a\) が \(n\) 次の零点であることは, \(D(a,R)\) で正則な関数 \(f_n\) が存在して, $$f(z)=(z-a)^nf_n(z),\quad f_n(a)\neq 0$$ となることが必要十分条件である.
(3) \(D(a,r)\) 上の \(f\) の零点が \(a\) 以外存在しないような \(r\) が存在する.

証明
(1) \(D_1\) を無限次の零点の集合とし, \(D_2=D-D_1\) とする.このとき \(D_1,D_2\) がともに開集合であることを示す.
\(D(a,R)=\{z\mid |z-a|\lt R\}\subset D\) ならば,定理 1 より正則関数 \(f\) は \(a\) を中心とするテイラー展開できて, $$f(z) = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n$$ が成り立つ. \(a\in D_1\) であるとき,明らかに \(|z-a|\lt R\) で \(f(z)=0\) である.また,このとき \(|z-a|\lt R\) で \(f^{(n)}(z)=0\ (n\in \mathbb{N})\) となるので, $$a\in D_1 \Longrightarrow f(z)=0\ (|z-a|\lt R) \Longrightarrow D(a,R)\subset D_1$$ となり, \(D_1\) は開集合である.次に \(a\in D_2\) ならば,ある \(n\) があって, \(f^{(n)}(a)\neq 0\) となる.ここで, \(f^{(n)}(z)\) は連続なので, $$z\in D(a,r)\Longrightarrow f^{(n)}(z)\neq 0$$ となるような \(r\) が存在する.したがって, \(D_2\) は開集合である.
以上のことから \(D_1,D_2\) はともに開集合であるが, \(D\) は連結集合(2つの空でなく共通部分を持たない開部分集合の直和で表せない)なので, \(D_1=\emptyset\) または \(D_2=\emptyset\) が成り立つ.
ここで, \(D_2=\emptyset\) つまり \(D=D_1\) とすると,これは \(f\) が \(D\) の各点 \(z\) で \(f(z)=0\) となることのなので仮定に反する.したがって, \(D_1=\emptyset\) がわかり,無限次の零点は存在しない.


(2) \(a\) が \(n\) 次の零点とすると, \(f\) のテイラー級数は,微分して \(z=a\) を代入する操作によって, \(n-1\) 次までの係数は \(0\) であることが確かめられる.(ここで,級数の項別微分は可能).よって, \(f\) のテイラー展開は $$f(z)=\sum_{k=n}^{\infty}a_k(z-a)^k\ ,\ \ a_k=\frac{f^{(k)}(a)}{k!}$$ となるから, $$f_n(z)=\sum_{k=n}^{\infty}a_{k}(z-a)^{k-n}=\sum_{k=0}^{\infty}a_{k+n}(z-a)^{k}$$ とおくと, \(a_n\neq 0\) なので, $$f(z)=(z-a)^nf_n(z)\ ,\quad f_n(a)\neq 0$$ が成り立つ.また, \(f_n(z)\) が \(D(a,R)\) で正則であることは,テイラー級数 \(f_n(z)\) が \(D(a,R)\) で収束であることからわかる.
逆に \(f(z)=(z-a)^nf_n(z)\) とかけるとすると,ライプニッツの公式より, \begin{eqnarray} f^{(k)}(z) &=& \sum_{i=1}^k \{(z-a)^n\}^{(i)}f_n^{(k-i)}(z)\\ &=& \sum_{i=1}^k \frac{n!}{(n-i)!}(z-a)^{n-i}f_n^{(k-i)}(z)\\ \end{eqnarray} したがって, \begin{eqnarray} f^{(k)}(a)= \left\{ \begin{array}{l} 0 \quad (0\leq k\leq n-1) \\ n!f_n(a) \neq 0 \quad (k=n) \end{array} \right. \end{eqnarray} が得られて, \(a\) は \(f\) の \(n\) 次の零点である.


(3) (2) の結果から \(f(z)=(z-a)^nf_n(z)\) と表せる.ここで, \(f_n(a)\neq 0\) であって, \(f_n\) は連続であるので \(D(a,r)\) 内の任意の元 \(z\) に対して \(|f_n(z)|\gt 0\) となる \(r\) が存在する.また, \(z\neq a\) のとき \(|(z-a)^n|\neq 0\) となるので, \(D(a,r)\) 内に零点は \(a\) だけしか存在しない.

 

以下の4つの定理には証明は付けませんが(長くなりすぎるので),重要な定理です.気になる方は「杉浦光夫;解析入門II」などを参照してください.

リーマンの定理(除去可能特異点の性質)
関数 \(f\) が点 \(a\) を中心とするローラン展開が可能なとき,次は同値である.

(1) \(a\) は除去可能特異点である.
(2) \(\lim_{z\rightarrow a}f(z)=a_0\in \mathbb{C}\) が存在する.
(3) \(f\) はある \(r\) に対して \(D_0(a,r)=\{z\mid 0\lt |z-a|\lt r\}\) で有界である.

また,上の条件のいずれかを満たすとき, \(f(a):=\lim_{z\rightarrow a}f(z)\) と改めて定義すれば, \(f\) は \(a\) でも正則である.

定理 3.3(極の性質)
関数 \(f\) の孤立特異点 \(a\) を中心とするローランに対して,次は同値である.

(1) \(a\) は \(m\) 次の極である.
(2) \(a\) の近傍 \(D(a,r)=\{z\mid |z-a|\lt R\}\) で正則な関数 \(f_1(z)\) で \(f_1(a)\neq 0\) なるものがあって, $$f(z)=\frac{f_1(z)}{(z-a)^m},\quad 0\lt |z-a|\lt R$$ が成り立つ.

また,上の条件のいずれかを満たすとき, \(\lim_{z\rightarrow a}|f(z)|=+\infty\) である.

カソラチ・ワイエルストラスの定理(真性特異点の性質)
\(a\) が関数 \(f\) の真性特異点であるとき,次が成り立つ.
(1) 任意の実数 \(M\gt 0\) と任意の \(\delta \gt 0\) に対して \(0\lt |z-a|\lt \delta\) , \(|f(z)|\gt M\) を満たす \(z\in\mathbb{C}\) が存在する.
(2) 任意の \(c\gt \mathbb{C}\) と任意の \(\delta,\varepsilon \gt 0\) に対して \(0\lt |z-a|\lt \delta\) , \(|f(z)-c|\lt \varepsilon\) を満たす \(z\in\mathbb{C}\) が存在する.
(3) \(\lim_{z\rightarrow a}f(z)\) は有限値または \(\pm\infty\) とならない.

定理 3.5(特異点と零点の関係)
関数 \(f\) が \(D_0(a,R) = \{z\mid 0\lt |z-a|\lt R\}\) で正則で,定数 \(0\) でないとする. \(a\) が \(f\) の \(m\) 次の極ならば \(a\) は \(\frac{1}{f(x)}\) の \(m\) 次の零点となり, \(a\) が \(f\) の \(m\) 次の零点(したがって, \(D(a,R)\) で正則)ならば \(a\) は \(\frac{1}{f(x)}\) の \(m\) 次の極となる.

 

4. 一致の定理と解析接続

一致の定理
領域 \(D\) で正則な関数 \(f,g\) に対して,ある複素数 \(a\in D\) に収束する数列 \(\{z_n\}\subset D\) で任意の \(n\) で \(z_n\neq a\) かつ, \(f(z_n)=g(z_n)\) を満たすものが存在するならば, \(f,g\) は領域 \(D\) の各点で一致する.

証明
\(h(z)=f(z)-g(z)\) とおくと, \(h\) は \(D\) で正則(つまり連続)なので, $$ h(a) = \lim_{n\rightarrow \infty} h(z_n) = 0 $$ である.したがって \(a\) は零点で,どんな \(r\gt 0\) に対しても \(z_n\in \{z\mid |z-a|\lt r\}\) かつ \(h(z_n)=0\) となる \(n\) が存在する.このことに定理 \(3.1\ (3)\) の対偶を対応させると領域 \(D\) で \(h=0\) であることがわかる.したがって, \(f=g\) が得られた.

 

一致の定理から次の重要な事実が得られます.

「開領域 \(D\) で正則な関数を領域 \(R\supset D\) で正則な関数として拡張する方法は一意的である」

このような領域 \(D\) で正則な関数を領域 \(R\supset D\) で正則な関数として拡張することを解析接続といます.

解析接続の最も重要な例はゼータ関数の解析接続です.

ゼータ関数の解析接続
ゼータ関数とは $$\zeta(z) = 1+\frac{1}{2^z}+\frac{1}{3^z}+\frac{1}{4^z}+\frac{1}{5^z}+\cdots$$ で定義される関数で,この級数は \({\rm Re}\ z\gt 1\) の範囲で収束し正則な関数ですが, \({\rm Re}\ z\lt 1\) で必ず発散します.
このゼータ関数は \(z\neq 1\) で正則な関数により複素平面上に解析接続されます.(解析接続で得られた関数を改めてゼータ関数と言うことにする).ミレニアム問題の一つであるリーマン予想はゼータ関数の零点に関する問題で,この関数の \(z=-2n\ (n=1,2,\cdots)\) 以外の零点は全て実部が \(1/2\) であるという問題です.

リーマン予想は素数の分布に大きく関わっていて,リーマン予想が真であれば,自然数 \(n\) に対して \(n\) 以下の素数の数をかなり正確に知ることができる公式が得られることがわかっています.

余談ですが,リーマン予想が解決するとRSA暗号(大きな数の素因数分解が困難であることを利用した暗号)が解読されるようになってしまうという話がありますが,これは誤りです.(素数の分布がわかるだけなので)

しかし,コンピュータ性能の向上や量子コンピュータの出現によりRSA暗号の安全性が危ぶまれているため,RSA暗号に変わるより安全性の高い暗号化の方法(格子暗号など)の開発が急がれています.

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

Please Share