留数定理【複素解析入門5】

【複素解析入門】

今回で複素解析入門は最終回です.

留数定理は複素積分を実際に計算する上で強力な武器となる定理です.

留数定理

以下ではジョルダン曲線 \(C\) の内部を \(C^{\circ}\) と表し,\(\overline{C}=C\cup C^{\circ}\) と表すことにします.

複素関数 \(f(z)\) のジョルダン曲線 \(C\) 上での線積分を考えます.

ここで \(f(z)\) と \(C\) について次が成り立つとします.

・ \(f(z)\) は \(C\) 上で正則
・ \(f(z)\) は \(C^{\circ}\) で有限個の孤立特異点 \(\{a_1,\cdots ,a_n\}\) を除いて正則

このとき,各 \(a_i\) は孤立特異点なので,ある \(R_i \gt 0\) があって

$$D_0(a_i,R_i)=\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a_i|\lt R_i\}$$

で \(f(z)\) が正則となるようにできます.また \(R=\min\{R_1,\cdots ,R_n\}\) と置いておきます.

また \(a_i \in C^{\circ}\) なので,ある \(0\lt r\lt R\) があって点 \(a_i\ (i=1,\cdots ,n)\) を中心とする半径 \(r\) の円 \(C_i\) が \(C_i \subset \overline{C}\) となるようにできます.

このとき,コーシーの積分定理(特に複素解析入門3の系5.2.2)により,

$$\int_C f(z)\ dz = \sum_{i=1}^n \int_{C_i} f(z)\ dz$$

が成り立ちます.

ここで議論を少し変えて,前回(複素解析入門4)紹介した定理 \(2.1\) について考えます.

*定理 2.1(ローラン展開)
関数 \(f(z)\) が領域 $$D_0(a,R)=\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a|\lt R\}$$ で正則ならば, \(f\) は領域 \(D_0(a,R)\) で収束する級数により $$f(z) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} a_n(z-a)^n$$ と表される.ここで \(a_n\) は $$a_n=\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(s)}{(s-a)^{n+1}}ds$$ で与えられる.ただし,積分路 \(C\) は \(a\) を中心とする半径 \(r\ (0\lt r\lt R)\) の正の向き(反時計回り)を持つ円周とする.

ここで,得られたローラン級数の \((z-a)^{-1}\) の係数は

$$a_{-1}=\frac{1}{2\pi i}\int_C f(s)\ ds$$

となっています.この \(a_{-1}\) を \(f(z)\) の \(a\) における留数といい, \(Res(f,a)\) と表します.

議論を戻すと,各 \(a_i\) について関数 \(f(z)\) は

$$D_0(a_i,R)=\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a_i|\lt R\}$$

で正則なので,

$$\int_{C_i} f(s)\ ds = 2\pi i \ Res(f,a_i)$$

となります.したがって,

$$ \int_{C} f(s)\ ds = \sum_{i=1}^n \int_{C_i} f(z)\ dz = 2\pi i \sum_{i=1}^n Res(f,a_i) $$

が成り立ちます.

定理 1.1(留数定理)
ジョルダン曲線 \(C\) があって, \(f(z)\) が \(C\) 上で正則かつ, \(C^{\circ}\) で有限個の孤立特異点 \(\{a_1,\cdots,a_n\}\) を除いて正則ならば, $$\int_{C} f(s)\ ds = 2\pi i\{Res(f,a_1)+\cdots+Res(f,a_n)\}$$ が成り立つ.

 

例 1.2
関数 \(f(z)=e^{-z}/(z-1)^2\) の積分路 \(C:|z|=2\) での積分値を求めよ.

解答
まず, \(f(z)\) は \(z=1\) を除いて \(C\) 上とその内部で正則な関数である.また, \begin{eqnarray} f(z)&=&\frac{e^{-z}}{(z-1)^2}=\frac{e^{-1}e^{-(z-1)}}{(z-1)^2}\\ &=&\frac{1}{e}\frac{1}{(z-1)^2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n(z-1)^n}{n!}\\ &=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n(z-1)^{n-2}}{n!e} \end{eqnarray} よって, \(z=1\) 周りのローラン級数の \((z-1)^{-1}\) の係数は \(-1/e\) となっている.したがって, $$\int_C \frac{e^{-1}}{(z-1)^2}\ dz = -\frac{2\pi i}{e}$$

 

例 1.3
関数 \(f(z)=e^{1/z^2}\) の積分路 \(C:|z|=2\) での積分値を求めよ.

解答
まず, \(f(z)\) は \(z=0\) を除いて \(C\) 上とその内部で正則な関数である.また, \begin{eqnarray} f(z)&=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!z^{2n}} \end{eqnarray} よって, \(z=0\) 周りのローラン級数の \(z^{-1}\) の係数は \(0\) となっている.したがって, $$\int_C e^{1/z^2}\ dz = 0 $$

 

例 \(1.3\) で用いた関数 \(f(z)=e^{1/x^2}\) に対して \(z=0\) はこの関数の真性特異点となります.孤立特異点が真性特異点のとき,留数を求めるのは一般に困難です.(ローラン級数を具体的に求めるなど)

しかし,孤立特異点が \(n\) 次の極ならば留数は比較的容易に計算することができます.

定理 1.4(留数の計算)
(1) 関数 \(f(z)\) の孤立特異点 \(a\) が \(n\) 次の極であるとき, $$Res(f,a) = \frac{1}{(n-1)!} \lim_{z\rightarrow a} \frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}(z-a)^n f(z) $$ が成り立つ.

(2) 関数 \(f(z)\) が正則関数 \(p(z)\) と \(z=a\) で 1 位の零点を持つ正則関数 \(q(z)\) により, $$f(z)=\frac{p(z)}{q(z)}$$ と表せるとする.このとき, \(p(a)\neq 0\) ならば $$Res(f,a)=\frac{p(a)}{q'(a)}$$

証明
(1) 定理 \(2.1\) から関数 \(f(z)\) はある実数 \(R\) があって領域 \(\{z\in\mathbb{C} \mid 0\lt |z-a|\lt R\}\) で $$f(z) = \sum_{k=-n}^{\infty} a_k(z-a)^k$$ $$a_k=\frac{1}{2\pi i}\int_C \frac{f(s)}{(s-a)^{k+1}}ds$$ と表せる.したがって, $$(z-a)^n f(z) = \sum_{k=0}^{\infty} a_{k-n}(z-a)^k$$ 右辺は \(D(a,R)=\{z\in\mathbb{C} \mid |z-a|\lt R\}\) で収束する.収束半径内では冪級数は項別微分可能なので \(D_0(a,R)\) 上で $$\frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}(z-a)^n f(z) = \sum_{k=0}^{\infty} a_{k-1}(z-a)^{k}$$ と表せる.したがって, \begin{eqnarray} \lim_{z\rightarrow a} \frac{d^{n-1}}{dz^{n-1}}(z-a)^n f(z) &=& \lim_{z\rightarrow a} \sum_{k=0}^{\infty} (n+k-1)! \ a_{k-1}(z-a)^{k}\\ &=& (n-1)! \ a_{-1}\\ \end{eqnarray} である.これで定理が示された.

(2) \(z=a\) は \(q(z)\) の 1 位の零点で, \(p(a)\neq 0\) より, \(z=a\) は \(f(z)\) の 1 位の極である(複素解析入門 4 定理 3.5 より).よって (1) より, \begin{eqnarray} Res(f,a) &=& \lim_{z\rightarrow a}(z-a)f(z)\\ &=& \lim_{z\rightarrow a}(z-a)\frac{p(z)}{q(z)} \\ &=& \lim_{z\rightarrow a}\frac{(z-a)}{q(z)-q(a)}p(z) \\ &=& \frac{p(a)}{q'(a)} \\ \end{eqnarray} ここで, \(z=a\) は \(q(z)\) の 1 位の零点なので, \(q'(a)\neq 0\) となっていることに注意.

 

ここで, \(f(z)\) が \(z=a\) で \(n\) 次の極を持つことは

$$\lim_{z\rightarrow a} \left| (z-a)^k f(z) \right| =\infty \quad (k\lt n)$$

$$\lim_{z\rightarrow a} \left| (z-a)^k f(z) \right| \lt \infty \quad (k = n)$$

を満たすことが必要十分です.(証明略)

 

例 1.5
関数 \(f(z)=(5z-2)\ /\ (z-1)^2\) の積分路 \(C:|z|=2\) での積分値を求めよ.

解答
関数 \(f(z)\) は \(z=1\) で 2 次の極を持つ.したがって定理 1.4 (1) より \begin{eqnarray} Res(f,1) &=& \frac{1}{(2-1)!} \lim_{z\rightarrow 1} \frac{d^{2-1}}{dz^{2-1}}(5z-2) \\ &=& 5 \\ \end{eqnarray} したっがって, $$\int_C f(z)\ dz = 10\pi i$$

 

例 1.6
関数 \(f(z)=z \ / \ (z^2+1)\) の積分路 \(C:|z|=2\) での積分値を求めよ.

解答
\(p(z)=z,\ q(z)=z^2+1\) とおくと, \(p(z),\ q(z)\) は正則な関数で \(p(z)\) は \(z=i,-i\) で 1 次の零点を持ち, $$f(z)=\frac{p(z)}{q(z)}$$ とかける.また, \(p(i)\neq 0,\ p(-i)\neq 0\) であるので,定理 1.4 (2) より, $$Res(f,i) = \frac{p(i)}{q'(i)} = \frac{i}{2i} = \frac{1}{2}$$ $$Res(f,-i) = \frac{p(-i)}{q'(-i)} = \frac{-i}{-2i} = \frac{1}{2}$$ したっがって, $$\int_C f(z)\ dz = 2\pi i \{Res(f,i) + Res(f,-i) \} = 2\pi i $$

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

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