σ加法族と測度【ルベーグ積分1】

0. 導入

今回から 5 回に分けて「ルベーグ (Lebesgue) 積分」を解説します.以下のように分けて解説します.

1. \(\sigma\) 加法族と測度
2.ボレル集合族と可測関数
3.ルベーグ積分
4.ルベーグの優収束定理
5.ルベーグ測度

参考文献として以下を使用します.

・吉田伸生「ルベーグ積分入門〜使うための論理と演習〜」
・伊藤清三「ルベーグ積分入門」

 

1. \(\sigma\) 加法族

\(\sigma\) 加法族の定義
集合 \(S\) の部分集合族 \(\mathscr{A}\) が以下の 3 条件を満たすとき, \(\mathscr{A}\) を \(\sigma\) 加法族という.(ここで \(A^c\) は \(A\) の補集合を表す) $$ \emptyset \in \mathscr{A} \tag{1}$$ $$ A\in \mathscr{A} \Longrightarrow A^c\in \mathscr{A} \tag{2}$$ $$ \{A_n\}_{n=1}^{\infty}\subset \mathscr{A} \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in \mathscr{A} \tag{3}$$

集合 \(S\) と \(\sigma\) 加法族 \(\mathscr{A}\subset 2^S\) の組み \((S,\mathscr{A})\) を可測空間といい, \((S,\mathscr{A})\) が可測空間のとき \(A\in \mathscr{A}\) ならば \(A\) は可測であるといいます.

\((S,\mathscr{A})\) が可測空間のとき \(S \in \mathscr{A}\) であることと,\(\{A_n\}_{n=1}^{\infty}\subset \mathscr{A} \Longrightarrow \bigcap_{n=1}^{\infty} A_n \in \mathscr{A}\) は容易にわかります.

 

\(S,T\) を集合,\(f:S\rightarrow T\) を関数,\(\mathscr{A}\subset 2^S\) ,\(\mathscr{B}\subset 2^T\) とする.ここで,\(f(\mathscr{A})\subset 2^T\) ,\(f^{–1}(\mathscr{B})\subset 2^S\) を次で定義します.

$$f(\mathscr{A}) := \{B\subset T \mid f^{-1}(B)\in \mathscr{A}\}$$

$$f^{-1}(\mathscr{B}) := \{f^{-1}(B)\subset S \mid B\in \mathscr{B}\}$$

\(f(\mathscr{A})\) を \(\mathscr{A}\) の \(f\) による押し出し,\(f^{-1}(\mathscr{B})\) を \(\mathscr{B}\) の \(f\) による引き戻しといいます.押し出し・引き戻しに関して次が成り立ちます.

命題 1.1
(1) \(\mathscr{A}\) が \(\sigma\) 加法族なら \(f(\mathscr{A})\) も \(\sigma\) 加法族である.
(2) \(\mathscr{B}\) が \(\sigma\) 加法族なら \(f^{-1}(\mathscr{B})\) も \(\sigma\) 加法族である.

証明
(1) ・ \(\emptyset_T\in f(\mathscr{A})\) を示す.
\(\emptyset_S\in \mathscr{A}\) なので \(f^{-1}(\emptyset_T) = \emptyset_S \in \mathscr{A}\) となる.したがって, \(\emptyset_T\in f(\mathscr{A})\) .

・ \(B\in f(\mathscr{A}) \Longrightarrow B^c\in f(\mathscr{A})\) を示す.
\(B\in f(\mathscr{A})\) とすると, $$f^{-1}(B^c) = (f^{-1}(B))^c \in \mathscr{A}$$ したがって, \(B^c\in f(\mathscr{A})\) である.

・ \(\{B_n\}_{n=1}^{\infty}\subset f(\mathscr{A}) \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} B_n \in f(\mathscr{A})\) を示す.
\(\{B_n\}_{n=1}^{\infty}\subset f(\mathscr{A})\) とすると, \(\{f^{-1}(B_n)\}_{n=1}^{\infty}\subset \mathscr{A}\) であるので, $$f^{-1}\left(\bigcup_{n=1}^{\infty} B_n\right) = \bigcup_{n=1}^{\infty} f^{-1}(B_n) \in \mathscr{A}$$ したがって, \(\bigcup_{n=1}^{\infty} B_n \in f(\mathscr{A})\) である.

証明
(2) ・ \(\emptyset_S\in f^{-1}(\mathscr{B})\) を示す.
\(\emptyset_T\in \mathscr{B}\) なので \(f^{-1}(\emptyset_T) = \emptyset_S \in f^{-1}(\mathscr{B})\) となる.

・ \(A\in f^{-1}(\mathscr{B}) \Longrightarrow A^c\in f^{-1}(\mathscr{B})\) を示す.
\(A\in f^{-1}(\mathscr{B})\) とすると,ある \(B\in \mathscr{B}\) があって, \(A=f^{-1}(B)\) となる.また, $$A^c = \left(f^{-1}(B) \right)^c = f^{-1}(B^c)$$ より, \(B^c\in \mathscr{B}\) であるので, \(A^c\in f^{-1}(\mathscr{B})\) が成り立つ.

・ \(\{A_n\}_{n=1}^{\infty}\subset f^{-1}(\mathscr{B}) \Longrightarrow \bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in f^{-1}(\mathscr{B})\) を示す.
\(\{A_n\}_{n=1}^{\infty}\subset f^{-1}(\mathscr{B})\) とすると,ある \(\{B_n\}_{n=1}^{\infty}\subset \mathscr{B}\) があって, \(f^{-1}(B_n)=A_n\) となる.また, $$\bigcup_{n=1}^{\infty}A_n = \bigcup_{n=1}^{\infty} f^{-1}(B_n) = f^{-1}\left( \bigcup_{n=1}^{\infty} B_n \right)$$ より, \(\bigcup_{n=1}^{\infty} B_n \in \mathscr{B}\) であるので, \(\bigcup_{n=1}^{\infty} A_n \in f^{-1}(\mathscr{B})\) が成り立つ.

 

命題 1.2
\(\mathscr{G}\subset 2^S\) に対し, \(\sigma[\mathscr{G}]\) を \(\mathscr{G}\) を含む \(\sigma\) 加法族全体の共通部分.つまり, $$\sigma[\mathscr{G}] := \bigcap_{\mathscr{G}\subset\mathscr{A}\ :\ \mbox{加法族}} \mathscr{A} $$ と定める. \(\sigma[\mathscr{G}]\) は \(\mathscr{G}\) を含む最小の \(\sigma\) 加法族である.

この命題は簡単なので証明は省略します.(注意:特に集合 \(S\) に対して \(2^S\) は自明な \(\sigma\) 加法族であり, \(\mathscr{G}\) を含むので \(\sigma[\mathscr{G}]\) は存在する)

\(\sigma[\mathscr{G}]\) を \(\mathscr{G}\) が生成する \(\sigma\) 加法族といいます.

命題 1.3
\(S\subset T\) , \(\mathscr{A}\subset2^S\) , \(\mathscr{B}\subset2^T\) とする.
(1) \(\mathscr{B}\) が \(T\) 上の \(\sigma\) 加法族ならば \(\mathscr{B}|_S:=\{B\cap S\mid B\in \mathscr{B}\}\) は \(S\) 上の \(\sigma\) 加法族である.( \(\mathscr{B}|_S\) を \(\mathscr{B}\) の \(S\) への制限という)
(2) \(\mathscr{A}\) が \(S\) 上の \(\sigma\) 加法族なら \(\{B\subset T\mid B\cap S\in \mathscr{A}\}\) は \(T\) 上の \(\sigma\) 加法族である.

証明
包含写像 \(p:S\rightarrow T\ ;x\mapsto x\) を考えると, \(B\subset T\) に対して \(p^{-1}(B)=B\cap S\) となる.したがって, $$p^{-1}(\mathscr{B})=\mathscr{B}|_S$$ $$p\ (\mathscr{A})=\{B\subset T\mid B\cap S\in \mathscr{A}\}$$ が成り立つので命題 1.1 より,これらは \(\sigma\) 加法族である.

 

命題 1.4
\(S\subset T\) , \(\mathscr{G}\subset2^T\) とする.このとき, \(\sigma[\mathscr{G}]_T|_S=\sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) .
(ここで \(\sigma[\mathscr{G}]_T\) は \(T\) 上の \(\sigma\) 加法族であることを表す)

証明
・ \(\sigma[\mathscr{G}]_T|_S \supset \sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) を示す.
\begin{eqnarray} \sigma[\mathscr{G}]_T\supset \mathscr{G} &\Longrightarrow& \sigma[\mathscr{G}]_T|_S \supset \mathscr{G}|_S \\ &\overset{\text{(#)}}{\Longrightarrow}& \sigma[\mathscr{G}]_T|_S \supset \sigma[\mathscr{G}|_S]_S \end{eqnarray} ここで \((\#)\) は \(\sigma[\mathscr{G}]_T|_S\) が \(S\) 上の \(\sigma\) 加法族であり, \(\sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) が \(\mathscr{G}|_S\) を含む最小の \(\sigma\) 加法族であることからわかる.

・ \(\sigma[\mathscr{G}]_T|_S \subset \sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) を示す.
この包含関係は「任意の \(B\in\sigma[\mathscr{G}]_T\) に対して, \(B\cap S \in \sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) が成り立つ」ことと同値である.したがって, $$\sigma[\mathscr{G}]_T\subset \mathscr{B} := \{B\in 2^T\mid B\cap S\in \sigma[\mathscr{G}|_S]_S\}$$ を示せば良い.ここで, \(\sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) は \(S\) 上の \(\sigma\) 加法族であるので,命題 1.3 より \(\mathscr{B}\) は \(\sigma\) 加法族である.また, \(B\in\mathscr{G}\) であるとき, \(B\cap S\in \mathscr{G}|_S\subset \sigma[\mathscr{G}|_S]_S\) より \(\mathscr{G}\subset \mathscr{B}\) が成り立つ.したがって, \((\#)\) と同様に \(\sigma[\mathscr{G}]_T\subset\mathscr{B}\) である.

 

2. 測度

測度の定義は測度 \(\mu\) が集合 \(A\in \mathbb{R}^2\) に対して面積 \(\mu(A)\) を与える関数の一般化だと考えれば,とても自然な定義となります.実際,\(\mathbb{R}^2\) 上では集合 \(A\in\mathbb{R}^2\) の面積を与える関数 \(\mu\) が測度となります.(後に解説するつもりです)

測度の定義
\(S\) を集合とし \(\mathscr{A}\subset 2^S\) とする.このとき,写像 \(\mu:\mathscr{A}\to [0,\infty]\) が以下の 2 条件を満たすとき \((\mathscr{A},\mu)\) を測度という.また \(\mathscr{A}\) が \(\sigma\) 加法族のとき \((S,\mathscr{A},\mu)\) を測度空間という.

(非負性)任意の \(A\in \mathscr{A}\) に対して \(0 = \mu(\emptyset) \leq \mu(A) \leq \infty\) が成り立つ.
(可算加法性) \(\{A_n\}_{n\geq 1}\subset \mathscr{A}\) が \(A_i\cap A_j = \emptyset\ (i\neq j)\) を満たし, \(\bigcup_{n\geq 1} A_n \in \mathscr{A}\) のとき, $$\mu \left( \bigcup_{n\geq 1} A_n \right) = \sum_{n\geq 1} \mu(A_n) $$ が成り立つ.

※以降では, \(\{A_n\}_{n\geq 1}\) に対して \(A_i\cap A_j=\emptyset\ \ (i\neq j)\) が成り立つときは \(A_1\cup A_2\) を \(A_1+A_2\) と表し, \(\bigcup A_n\) を \(\sum A_n\) と表すことにします.

次に示す条件を有限加法性といい, \(\mu\) が測度のとき明らかに \(\mu\) は有限加法性を持ちます.( \(A_k=\emptyset,\ (k\gt n)\) とおけば良い)

(有限加法性) \(\{A_n\}_{n=1}^m \subset \mathscr{A}\) かつ \(\bigcup_{n=1}^m A_n \in \mathscr{A}\) のとき, $$\mu \left( \sum_{n=1}^m A_n \right) = \sum_{n=1}^m \mu(A_n) $$ が成り立つ.

 

命題 1.4
\((S,\mathscr{A},\mu)\) が測度空間ならば以下が成り立つ.

(可算劣加法性) \(\{A_n\}_{n\geq 1}\subset \mathscr{A}\) に対して, \(\bigcup_{n\geq 1} A_n = A\) とおくと, $$\mu(A) \leq \sum_{n\geq 1} \mu(A_n) \ .$$ (有限加法性と同様に有限劣加法性を定義できて, \((S,\mathscr{A},\mu)\) が測度空間ならばこの性質も成り立つ)
(単調性) \(A_1,A_2\in \mathscr{A}\) かつ \(A_1\subset A_2\) ならば \(\mu(A_1)\leq \mu(A_2)\) .
(増大列連続性) \(\{A_n\}_{n\geq 1}\subset \mathscr{A}\) , \(A_n\nearrow A\) ならば \(\lim\mu(A_n)=\mu(A)\) .
(減少列連続性) \(\{A_n\}_{n\geq 1}\subset \mathscr{A}\) , \(A_n\searrow A\) ,また,ある自然数 \(p\geq 1\) があって \(\mu(A_p)\lt \infty\) ならば \(\lim\mu(A_n)=\mu(A)\) .

※ここで \(A_n\nearrow A\) とは \(A_n\subset A_{n+1}\) かつ \(A=\bigcup_{n\geq 1} A_n\) となることであり, \(A_n\searrow A\) とは \(A_n\supset A_{n+1}\) かつ \(A=\bigcap_{n\geq 1} A_n\) となることである.

証明
(単調性)
\(A_1,A_2\in \mathscr{A}\) , \(A_1\subset A_2\) ならば \(A_2 = A_1 + A_2\setminus A_1\) と書けるので,有限加法性と非負性から $$\mu(A_2) = \mu(A_1 + A_2\setminus A_1) = \mu(A_1) + \mu(A_2\setminus A_1) \geq \mu(A_1)$$

(増大列連続性)
仮定から \(A = A_1 + \sum_{k\geq 1} (A_{k+1}\setminus A_k) \) , \(A_n = A_1 + \sum_{k=1}^{n-1} (A_{k+1}\setminus A_k)\) となる.したがって, \begin{eqnarray} \mu(A) &=& \mu\left(A_1 + \sum_{k\geq 1} (A_{k+1}\setminus A_k)\right) \\ &\overset{\text{(可算加法性)}}{=}& \mu(A_1) + \sum_{k\geq 1} \mu(A_{k+1}\setminus A_k) \\ &=& \lim_n \left(\mu(A_1) + \sum_{k=1}^{n-1} \mu(A_{k+1}\setminus A_k)\right) \\ &\overset{\text{(有限加法性)}}{=}& \lim_n \mu(A_n) \end{eqnarray}

(減少列連続性)
仮定から \(A_n = A + \sum_{k\geq n} (A_{k}\setminus A_{k+1}) \) となる.したがって, $$\mu(A_n) \overset{\text{(可算加法性)}}{=} \mu(A) + \sum_{k\geq n} \mu(A_{k}\setminus A_{k+1})$$ が成り立つ.特に \(n=p\) とすると, \(\infty\gt\mu(A_p)\geq\sum_{k\geq p} \mu(A_{k}\setminus A_{k+1})\) であるので,級数の収束に関する定理から $$\lim_n \sum_{k\geq n} \mu(A_{k}\setminus A_{k+1}) = 0$$ となる.したがって, \(\lim \mu(A_n) = \mu(A)\) .

(可算劣加法性)
まず,有限劣加法性を示す.
\(A,B\in \mathscr{A}\) のとき,\(A\cup B = A + B\setminus A \in \mathscr{A}\) であるので,単調性より, \begin{eqnarray} \mu(A\cup B) &=& \mu(A + B\setminus A) \\ &\overset{\text{(有限加法性)}}{=}& \mu(A) + \mu(B\setminus A) \\ &\overset{\text{(単調性)}}{\leq}& \mu(A) + \mu(B) \end{eqnarray} 次に可算劣加法性を示す.
仮定から \(B_m = \bigcup_{n=1}^m A_n\) と定めると, \(B_m \nearrow A\) かつ \(\mathscr{A}\) が \(\sigma\) 加法族だから, \(B_m\in \mathscr{A}\) .したがって, \begin{eqnarray} \mu(A) &\overset{\text{(増大列連続性)}}{=}& \lim_m \mu(B_m) \\ &\overset{\text{(有限劣加法性)}}{\leq}& \lim_m \sum_{n=1}^m\mu(A_n) = \sum_{n\geq 1}\mu(A_n) \end{eqnarray}

 

3. 零集合

零集合の定義
\((S,\mathscr{A},\mu)\) を測度空間とする.このとき \(N\subset S\) が \(\mu\) 零集合であるとは, $$N\subset A\ ,\ \ \mu(A)=0$$ を満たすような,ある \(A\in \mathscr{A}\) が存在することである.
また,測度空間 \((S,\mathscr{A},\mu)\) の \(\mu\) 零集合全体を \(\mathscr{N}^{\mu}\) と書く.

a.e. の定義
\((S,\mathscr{A},\mu)\) を測度空間とする. \(A\in \mathscr{A}\) の点 \(x\) に関する命題 \(P(x)\) に対して, $$A_1=\{x\in A \mid P(x)\ \text{が定義され,かつ真}\}$$ \(A\setminus A_1\) が \(\mu\) 零集合ならば \(P(x)\) は \(\mu\) について「 \(A\) 上ほとんど至る所で成立する」という.このことを略して,「 \(A\) 上 \(\mu\) – a.e. (almost everywhere) 」と表す.

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

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