ルベーグ積分【ルベーグ積分3】

この章ではルベーグ積分の定義と基本的性質を紹介していますが,基本的性質の証明は少々面倒なため興味のない方は飛ばしていただいても良いと思います.

【ルベーグ積分2】で確認した可測関数が可測単関数の上極限として表現されるという事実から,ルベーグ積分の定義が自然なものと思うことができると思います.(ルベーグ積分が自然に定義できる関数のクラスを可測関数と名付けたといった方がいいかもしれませんが…)

 

ここでは \((S,\mathscr{A},\mu)\) は測度空間とし, \(\mathbb{R},\overline{\mathbb{R}},\mathbb{C}\) は Borel 集合族で可測空間となっているとします.

 

1. ルベーグ積分の定義

まず,非負単関数に対して積分を定義します.

積分の定義(非負単関数)
\(f:S\to[0,\infty)\) を可測な単関数とする.このとき,命題 2.3.1 より \[f = \sum_{j=1}^n \alpha_j 1_{A_j}\] と表せる.ただし \(\{A_j\}^n_{n=1}\subset \mathscr{A}\) は \(S\) の分割である.このとき \(f\) の \(A\in \mathscr{A}\) 上での積分を次で定める. \[\int_A f d\mu \overset{\rm{def}}{=} \sum_{j=1}^n \alpha_j \mu(A\cap A_j)\]

この定義は \(\rm{well\ defined}\) です.なぜなら

\[f = \sum_{i=1}^m \alpha_i 1_{A_i} = \sum_{j=1}^n \beta_j 1_{B_j}\]

と 2 通りの表現ができるとき \(A_i\cap B_j\) 上で \(\alpha_i = \beta_j\) なので,測度の有限加法性より

\begin{eqnarray} \sum_{i=1}^m \alpha_i \mu(A\cap A_i) &=& \sum_{i=1}^m \sum_{j=1}^{n} \alpha_i \mu(A\cap A_i\cap B_j)\\ &=& \sum_{j=1}^n \sum_{i=1}^{m} \beta_j \mu(A\cap A_i\cap B_j)\\ &=& \sum_{j=1}^n \beta_j \mu(A\cap B_j) \end{eqnarray}

となるからです.

※ここで,\(\alpha_i =0\) かつ \(\mu(A\cap A_i) = \infty\) ならば \(\alpha_i \mu(A\cap A_i) = 0\) とし,\(\alpha_i \neq 0\) かつ \(\mu(A\cap A_i) = \infty\) ならば \(\alpha_i \mu(A\cap A_i) = \infty\) としています.

*以降,\(0\cdot \infty=0\) とします.

次に非負可測関数 \(f:S\to[0,\infty]\) の積分を上の定義を用いて次のように定めます.

積分の定義(非負関数)
\(f:S\to[0,\infty]\) を可測関数とする.このとき \(f\) の \(A\in\mathscr{A}\) 上での積分を以下で定める. $$\int_A f d\mu \overset{\rm{def}}{=} \sup\left\{ \int_A g\ d\mu\ \middle|\ A\rm{上}\ 0\leq g \leq f\ ,\ g:\rm{可測単関数} \right\} $$

*命題 2.3.5 から任意の可測関数 \(f\) に対してある可測単関数列 \(\{f_n\}\) があって \(f_n\nearrow f\) と表せるのでこのように定義することは自然といえるでしょう.

*この定義では積分値が \(+\infty\) となることを許容しています.

ここまでで定めた非負関数の積分を用いて一般の可測関数の積分を定めます.

可積分の定義
\(f:S\to \overline{\mathbb{R}},\mathbb{C}\) が可測関数であるとき,\(f\) が \(A\) 上可積分とは, \[\int_A |f|\ d\mu \lt \infty\] となることをいう.

* \(|f|\) が可測関数であることは \(|\cdot|\) が連続関数であることからわかります.

積分の定義(実数値関数)
\(f:S\to\overline{\mathbb{R}}\) を可測関数, \(A\in\mathscr{A}\) とする. \[f^{+}=\max\{f,0\}\ ,\quad f^{-}=\max\{-f,0\}\] の少なくとも一方が \(A\) 上可積分であるとき \(f\) は \(A\) 上積分確定であるといい,このとき \(f\) の \(A\) 上での積分を以下で定める. \[\int_A f\ d\mu \overset{\rm{def}}{=} \int_A f^{+}\ d\mu\ \ -\ \int_A f^{-}\ d\mu \]

* \(f^{+},f^{-}\) が可測関数であることは \(g^{+}(x)=\max\{x,0\},g^{-}(x)=\max\{-x,0\}\) が連続関数であることからわかります.

*この定義では積分値が \(+\infty\) または \(-\infty\) となることを許容しています.

積分の定義(複素数値関数)
\(f:S\to\mathbb{C}\) を可測関数, \(A\in\mathscr{A}\) とする.\({\rm{Re}}\ f\ ,\ {\rm{Im}}\ f\) がともに \(A\) 上可積分であるとき \(f\) の \(A\) 上での積分を以下で定める. \[\int_A f\ d\mu \overset{\rm{def}}{=} \int_A {\rm{Re}}\ f\ d\mu\ \ +\textbf{i}\int_A {\rm{Im}}\ f\ d\mu \]

* \({\rm{Re}}\ f\ ,\ {\rm{Im}}\ f\) は \({\rm{Re}}\ (\cdot)\ ,\ {\rm{Im}}\ (\cdot)\) が連続関数であるので可測関数です.

* \(f:S\to\mathbb{R}\) について \(|f| = f^{+}+f^{-}\) であるから,下で紹介する命題 3.2.4 より,

\[\int_Af^{+}\ d\mu + \int_Af^{-}\ d\mu = \int_A|f|\ d\mu\]

すなわち,

\[\int_Af^{+}\ d\mu <\infty \ \ {\rm{and}} \ \int_Af^{-}\ d\mu < \infty \Longleftrightarrow \int_A|f|\ d\mu < \infty\]

であるから,\({\rm{Re}}\ f\ ,\ {\rm{Im}}\ f\) がともに \(A\) 上可積分とはそれぞれの \(A\) 上での積分値が有限であるということを意味します.

 

2. ルベーグ積分の基本的性質

定義から容易にわかるように

\[ \int_A 0\ d\mu = 0\ ,\quad \int_A 1\ d\mu = \mu(A)\quad\cdot\cdot\cdot\ \ (1)\]

\[\mu(A)=0\ \Longrightarrow\ \int_A f\ d\mu = \int_A |f|\ d\mu = 0 \quad\cdot\cdot\cdot\ \ (2)\]

となります.また,可測関数 \(f:S\to\overline{\mathbb{R}}\ \text{or} \ \mathbb{C}\) を \(A\in\mathscr{A}\) 上積分確定( \(S\to\mathbb{C}\) のときは可積分)とし,\(\alpha\in\mathbb{C}\) とすると定義から次が成り立つこともわかります.(2つ目の式は \(\sup\{\alpha x_i\} = \alpha\sup\{x_i\}\) \((\alpha \geq 0)\) を用いれば良い)

\(f1_A\) は \(S\) 上積分確定で \(\int_A f\ d\mu = \int_S f1_A\ d\mu\) \(\quad\cdot\cdot\cdot\quad (3)\)

\(\alpha f\) は \(A\) 上積分確定で \(\int_A \alpha f\ d\mu = \alpha\int_A f\ d\mu\) \(\quad\cdot\cdot\cdot\quad (4)\)

次に積分についての以下の 4 つの性質を確認します.これらの証明は入り組んでいるので数回に分けて証明しています.

命題 3.2.1
可測関数 \(f:S\to[0,\infty]\) に対して,以下が成り立つ.
\(A\in \mathscr{A}\mapsto \int_A f\ d\mu\) は \(S\) 上の測度

命題 3.2.2 (積分の単調性)
可測関数 \(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\) に対して以下が成り立つ.
\(A\) 上 \(f\leq g\) \((\mu-\text{a.e.})\) なら \(\int_A f\ d\mu \leq \int_A g\ d\mu\)

*定義から \(A\) 上各点で \(f\leq g\) ならば \(\int_A f\ d\mu \leq \int_A g\ d\mu\) である.

命題 3.2.3 (非負単調収束定理)
\(f_n:S\to[0,\infty]\) を可測関数で \(A\) 上で \(f_n\nearrow f\) とする.このとき以下が成り立つ. \[\lim_n \int_A f_n\ d\mu = \int_A f\ d\mu\] * \(f\) は例 2.3.3 より可測関数.

命題 3.2.4
可測関数 \(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\ \text{or} \ \mathbb{C}\) について,任意の \(x\in S\) で \((f(x),g(x))\neq (\pm\infty,\mp\infty)\)(すなわち \(f+g\) が定義可能)かつ $$ \begin{array}{c} \int_Af^{+}\ d\mu + \int_Ag^{+}\ d\mu < \infty \\ \text{or} \\ \int_Af^{-}\ d\mu + \int_Ag^{-}\ d\mu < \infty \end{array} $$ なら( \(f,g:S\to\mathbb{C}\) なら上の仮定は不要)\(f+g\) が \(A\) 上積分確定かつ \[\int_A(f+g)\ d\mu = \int_Af\ d\mu + \int_Ag\ d\mu\] が成り立ち,特に \(f,g\) が \(A\) 上可積分なら \(f+g\) も \(A\) 上可積分である.

* \(f+g\) が可測関数であること
\(f,g:S\to\mathbb{R}\ \text{or} \ \mathbb{C}\) であるとき,\(f+g\) が可測関数であることは命題 2.3.4 よりわかる.\(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\) については,任意に \(B\in \mathscr{B}(\overline{\mathbb{R}})\) をとると, \begin{eqnarray} (f+g)^{-1}(B) &=& (f+g)^{-1}(B\setminus\{-\infty,\infty\}) \\ &&\quad +\left(\ f^{-1}(B\cap\{-\infty,\infty\})\cup g^{-1}(B\cap\{-\infty,\infty\})\right) \end{eqnarray} である.ここで,\(A=(f+g)^{-1}(\mathbb{R})\) と定めると,\(A\in \mathscr{A}\) で \[f1_A+g1_A=(f+g)1_{A}:S\to\mathbb{R}\] は \(\mathscr{B}[\mathbb{R}]\subset\mathscr{B}[\overline{\mathbb{R}}]\) より可測関数となり, \[(f+g)^{-1}(B\setminus\{-\infty,\infty\}) = ((f+g)1_{A})^{-1}(B\setminus\{-\infty,\infty\})\] より,\((f+g)^{-1}(B\setminus\{-\infty,\infty\})\in\mathscr{A}\) である.したがって \((f+g)^{-1}(B)\in\mathscr{A}\) より \(f+g\) は可測関数.

では命題を証明します.

命題 3.2.1 証明(非負単関数)
\(f\) が \(S\) から \([0,\infty)\) への可測単関数として示す. 測度であることは非負性と可算加法性を示せばわかる.非負性は自明である.可算加法性を示す.集合族 \(\{A_n\}_n\in\mathscr{A}\) を互いに共通部分を持たないとする.
\[f = \sum_{i=1}^m \alpha_i 1_{B_i}\] と表せるとすると, \begin{eqnarray} \int_{\sum_n A_n} f\ d\mu &=& \sum_{i=1}^m \alpha_i\cdot\mu\left(B_i\cap \sum_n A_n\right) \\ &=& \sum_{i=1}^m \alpha_i\cdot\mu\left(\sum_n (A_n\cap B_i)\right) \\ &=& \sum_{i=1}^m \alpha_i\sum_n\mu (B_i\cap A_n) \\ &=& \sum_n\sum_{i=1}^m \alpha_i\cdot\mu (B_i\cap A_n) \\ &=& \sum_n\int_{A_n}f\ d\mu \end{eqnarray}

命題 3.2.2 証明(非負単関数)
\(f,g\) が \(S\) から \([0,\infty)\) への可測単関数であるとして示す.このとき \[f = \sum_{i=1}^m \alpha_i 1_{A_i}\ ,\quad g = \sum_{j=1}^n \beta_j 1_{B_j}\] と表せるとすれば,\(A\) 上 \(f\leq g\) \((\mu-\text{a.e.})\) だから, \[\mu(A \cap A_i \cap B_j)>0 \Longrightarrow \alpha_i\leq \beta_j\] したがって, \begin{eqnarray} \int_Af\ d\mu &=& \sum_{i,j=1}^{m,n}\alpha_i\mu(A \cap A_i \cap B_j) \\ &\leq & \sum_{i,j=1}^{m,n}\beta_j\mu(A \cap A_i \cap B_j) = \int_Ag\ d\mu \end{eqnarray} である.

命題 3.2.3 証明(非負単関数)
各 \(f_n\) が \(S\) から \([0,\infty)\) への可測単関数であるとして示す.まず,\(\{\int_Af_n\ d\mu\}\) は積分の定義から明らかに単調増加し,\(\lim\int_Af_n\ d\mu\) は \(+\infty\) を含めれば存在する.
各 \(f_n\) は \(A\) 上 \(0\leq f_n\leq f\) であるから任意の \(n\) で \[\int_Af_n\ d\mu \leq \int_Af\ d\mu\] となる.したがって, \[\lim_{n}\int_Af_n\ d\mu \leq \int_Af\ d\mu\] したがって,逆の不等号を示せばよい.
\(g\) を \(A\) 上 \(0\leq g\leq f\) となる任意の可測単関数で \(0 < \forall c < 1\) とする.ここで, \[A_n=\{x\in A \mid cg(x)\leq f_n(x) \} = (f_n-cg)^{-1}([0,\infty))\] と定めると \(A_n\in\mathscr{A}\) かつ \(A_n\nearrow A\) である.よって, \[\int_Af_n\ d\mu \overset{\rm{命題 3.2.1}}{\geq} \int_{A_n}f_n\ d\mu \overset{ (4) }{\geq} c\int_{A_n}g\ d\mu \] 命題 3.2.1 より \(A\mapsto \int_A g\ d\mu\) が測度であるので,増大列連続性(命題 1.4 )を適用できて, \[\lim\int_Af_n\ d\mu \geq c\lim\int_{A_n}g\ d\mu = c\int_{A}g\ d\mu\] が得られる.\(c\to 1\) として, \[\lim_n \int_A f_n\ d\mu \geq \int_{A} g\ d\mu\] \(g\) は任意の単関数であったから, \[\lim_n \int_A f_n\ d\mu \geq \sup_{0\leq g\leq f}\left\{\int_{A} g\ d\mu\right\} = \int_A f\ d\mu\] これで等号が示された.

命題 3.2.1 証明
\(f\) を \(S\) から \([0,\infty]\) への可測関数として示す.
一般に測度 \(\mu_n:\mathscr{A}\to[0,\infty]\) があって,任意の \(A\in\mathscr{A}\) に対して \(\{\mu_n(A)\}\) が単調増加するとき,\(\mu(A)=\lim\mu_n(A)\) は測度である.実際,非負性は明らかで,可算加法性については,集合族 \(\{A_k\}_k\in\mathscr{A}\) を互いに共通部分を持たないとすると, \begin{eqnarray} \mu\left(\sum_{k} A_k\right) &=& \lim_{n}\mu_n\left(\sum_{k} A_k\right) \\ &=& \lim_{n}\sum_{k}\mu_n(A_k) \\ &=& \sum_{k}\lim_{n}\mu_n(A_k) = \sum_{k}\mu(A_k) \end{eqnarray} となるからである.ここで,\(\lim\) と \(\sum\) の交換は \(\mu_n(A)\) が単調増加することから可能である.(杉浦,解析入門I, V 章,命題 5.2 など参照)
この一般論から \(f\) に対して \(f_n\nearrow f\) となる可測単関数列 \(\{f_n\}\) が存在するから \(\mu_n(A) = \int_{A} f_n\ d\mu\) とおけば,これは測度で任意の \(A\in\mathscr{A}\) に対して \(\{\mu_n(A)\}\) が単調増加するので, \[\lim_n\mu_n = \lim_n\int_{A} f_n\ d\mu \overset{\rm{命題 3.2.3}}{=} \int_{A} f\ d\mu \] は測度である.

命題 3.2.4 証明(非負関数)
まず, \(f,g\) が \(S\) から \([0,\infty)\) への可測単関数であるとき,常に仮定を満たし \(f+g\) はまた単関数だから \(A\) 上可積分である.また, \[f = \sum_{i=1}^m \alpha_i 1_{A_i}\ ,\quad g = \sum_{j=1}^n \beta_j 1_{B_j}\] と表せるとすれば, \begin{eqnarray} \int_A f\ d\mu + \int_A g\ d\mu &=& \sum_{i=1}^m \alpha_i \mu(A\cap A_i) + \sum_{j=1}^n \beta_j \mu(A\cap B_j) \\ &=& \sum_{i,j=1}^{m,n} \alpha_i \mu(A\cap A_i\cap B_j) + \sum_{i,j=1}^{m,n} \beta_j \mu(A\cap A_i\cap B_j) \\ &=& \sum_{i,j=1}^{m,n} (\alpha_i + \beta_j) \mu(A\cap A_i\cap B_j) \\ &=& \int_A (f+g)\ d\mu \end{eqnarray} となるので,単関数については命題を満たす.

次に \(f,g\) が \(S\) から \([0,\infty]\) への可測関数であるとして示す.命題 2.3.5 より \(f_n\nearrow f,\ g_n\nearrow g\) となる可測単関数列 \(\{f_n\},\{g_n\}\) が取れる.したがって, \begin{eqnarray} \int_Af\ d\mu +\int_Ag\ d\mu &\overset{命題 3.2.3 }{=}& \lim \left(\int_Af_n\ d\mu +\int_Ag_n\ d\mu \right) \\ &\overset{単関数}{=}& \lim\int_A(f_n+g_n)\ d\mu \\ &\overset{命題 3.2.3 }{=}& \int_A\lim(f_n+g_n)\ d\mu \\ &=& \int_A(f+g)\ d\mu \end{eqnarray} \(f,g\) がともに非負であるから明らかに \(f+g\) は \(A\) 上積分確定で,上の等式から \(f,g\) が \(A\) 上可積分なら \(f+g\) も \(A\) 上可積分である.

命題 3.2.2 証明
\(f,g\) が \(S\) から \([0,\infty]\) への可測関数であるとして示す.このとき \[\{f\leq g\}=\{x\in S\mid f(x)\leq g(x)\}\] と定めると,\(\{f\leq g\}\in\mathscr{A}\) である.また,\(\{f>g\}\in\mathscr{A}\) を同様に定めて, \[f_0=f1_{\{f\leq g\}}\ ,\quad f_1=f1_{\{f > g\}}\] とおく,\(\mu(A\cap \{f>g\})=0\) より, \[\int_Af_1\ d\mu = \int_{A\cap\{f>g\}}f\ d\mu = 0\] また,\(f=f_0+f_1\) かつ \(A\) 上各点で \(f_0\leq g\) であるから, \[\int_Af\ d\mu \overset{命題 3.2.4}{=} \int_Af_0\ d\mu + \int_Af_1\ d\mu = \int_Af_0\ d\mu \leq \int_A g\ d\mu \] \(f,g\) が \(S\) から \(\overline{\mathbb{R}}\) への可測関数であるとして示す. \(A\) 上 \(f\leq g\) \((\mu-\text{a.e.})\) であるから \(A\) 上で \[f^{+}\leq g^{+}\ ,\ f^{-}\geq g^{-} \quad (\mu-\text{a.e.})\] したがって, \begin{eqnarray} \int_Af\ d\mu &=& \int_Af^{+}\ d\mu-\int_Af^{-}\ d\mu \\ &\leq& \int_Ag^{+}\ d\mu-\int_Ag^{-}\ d\mu = \int_Ag\ d\mu\\ \end{eqnarray}

命題 3.2.3 証明
証明は可測単関数の場合と全く同様である.命題 3.2.1 が単関数以外の場合でも示されているので,それをそれを用いれば良い.

命題 3.2.4 証明
可測関数 \(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\) について, \[\int_Af^{-}\ d\mu + \int_Ag^{-}\ d\mu < \infty\] と仮定する(もう一方の場合も同様).このとき,\((a,b)\neq (\pm\infty,\mp\infty)\) ならば \((a+b)^{\pm}\leq a^{\pm}+b^{\pm}\) であるから,\((f+g)^{-}\leq f^{-}+g^{-}\) となる.したがって, \[\int_A(f+g)^{-}\ d\mu \leq \int_A(f^{-}+g^{-})\ d\mu \overset{非負関数}{=} \int_Af^{-}\ d\mu +\int_A g^{-}\ d\mu<\infty\] より,\(f+g\) は \(A\) 上積分確定である.また, \[(f+g)^{+}-(f+g)^{-} = f+g = f^{+}-f^{-}+g^{+}-g^{-}\] であり,\(A\) 上で \((f+g)^{-},f^{-},g^{-}\neq \infty\ (\mu-\text{a.e.})\) である(そうでないなら積分値が有限であることに矛盾する)ので,移項できて \[(f+g)^{+}+f^{-}+g^{-} = (f+g)^{-}+f^{+}+g^{+}\quad(\mu-\text{a.e})\] より,命題 3.2.4 は非負関数の場合は示されているから, \begin{eqnarray} &&\int_A(f+g)^{+}\ d\mu+\int_Af^{-}\ d\mu+\int_Ag^{-}\ d\mu \\ &&\quad\quad= \int_A(f+g)^{-}\ d\mu+\int_Af^{+}\ d\mu+\int_Ag^{+}\ d\mu \\ &\Longrightarrow&\int_A(f+g)^{+}\ d\mu-\int_A(f+g)^{-}\ d\mu \\ &&\quad\quad= \int_Af^{+}\ d\mu+\int_Ag^{+}\ d\mu-\int_Af^{-}\ d\mu-\int_Ag^{-}\ d\mu \\ &\Longrightarrow& \int_A(f+g)\ d\mu = \int_Af\ d\mu+\int_Ag\ d\mu \end{eqnarray} が成り立つ.ここで,命題 3.2.2 より,\(A\) 上 \(f=g\ (\mu-\text{a.e.})\) ならば \[\int_Af\ d\mu=\int_A g\ d\mu\] となることを用いた.可測関数 \(f,g:S\to\mathbb{C}\) について, \begin{eqnarray} &&\int_Af\ d\mu +\int_Ag\ d\mu \\ &=& \int_A {\rm{Re}}\ f\ d\mu\ +\textbf{i}\int_A {\rm{Im}}\ f\ d\mu + \int_A {\rm{Re}}\ g\ d\mu\ +\textbf{i}\int_A {\rm{Im}}\ g\ d\mu \\ &=& \int_A ({\rm{Re}}\ f+{\rm{Re}}\ g)\ d\mu + \textbf{i}\int_A ({\rm{Im}}\ f+{\rm{Im}}\ g)\ d\mu \\ &=& \int_A {\rm{Re}}\ (f+g)\ d\mu + \textbf{i}\int_A {\rm{Im}}\ (f+g)\ d\mu \\ &=& \int_A(f+g)\ d\mu \end{eqnarray}

 

命題 3.2.5
可測関数 \(f:S\to \mathbb{C}\) について,三角不等式 \[\left|\int_A f\ d\mu\right|\leq \int_A|f|\ d\mu\] が成立する.

証明
関数 \(\varphi\) を $$ \varphi(x) = \left\{ \begin{array}{cccccc} \frac{f(x)}{|f(x)|} & & (f(x)\neq 0) \\ 0 & & (f(x)= 0) \end{array} \right. $$ と定めて,\(a=\int_Af\ d\mu,\ \alpha=\frac{a}{|a|}\) と定める.( \(a=0\) ならば命題は自明に成り立つから \(a\neq 0\) とする) このとき, \[\overline{\alpha}\int_A|f|\varphi\ d\mu = \overline{\alpha}\int_Af\ d\mu = \frac{\overline{a}a}{|a|} = |a|\] が成り立ち,また,積分の定義と積分値が実数であることから \[\int_A\overline{\alpha}|f|\varphi\ d\mu = \int_A {\rm{Re}}\ (\overline{\alpha}|f|\varphi)\ d\mu \] また,一般に \({\rm{Re}}\ f < |f|\) なので,\({\rm{Re}}\ (\overline{\alpha}|f|\varphi) \leq |f|\) となる.したがって, \[|a| = \overline{\alpha}\int_A|f|\varphi\ d\mu = \int_A {\rm{Re}}\ (\overline{\alpha}|f|\varphi)\ d\mu \leq \int_A|f|\ d\mu\]

 

3.可測修正

命題 3.2.2 より

\(A\) 上 \(f = g\ (\mu-\text{a.e.})\) なら \(\int_A f\ d\mu = \int_A g\ d\mu\)

が成り立つので,ルベーグ積分は \(f\) の \(\mu\) 零集合上の値を無視しても良いと言えます.このことを拡張すると,\(f\) が \(\mu\) 零集合上で定義されていなくても積分ができると考えることができます.これについて考えてみましょう.

\((T,\mathscr{B})\) は可測空間とします.

可測修正の定義
\(N\in\mathscr{N}^{\mu}\) とする( \(\mathscr{N}^{\mu}\) は \(\mu\) 零集合全体を表す).このとき \(f:S\setminus N\to (T,\mathscr{B})\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数であるとは \[f=\tilde{f}\quad(\mu-\text{a.e.})\] となる可測関数 \(\tilde{f}:(S,\mathscr{A})\to (T,\mathscr{B})\) が存在することであり,この \(\tilde{f}\) を \(f\) の可測修正と呼ぶ.

補題 3.3.1
\(f:S\setminus N\to (T,\mathscr{B})\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数であることは次と同値である. \[\exists\tilde{N}\in\mathscr{N}^{\mu}\ \ \text{s.t.}\ \ N\subset\tilde{N},\ \ f|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to (T,\mathscr{B}))\] ただし,\(\tilde{S}=S\setminus \tilde{N}\) である.

証明
\(f\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数とする.すなわち \(f=\tilde{f}\ (\mu-\text{a.e.})\) なる \(\tilde{f}\in\mathbb{M}((S,\mathscr{A})\to (T,\mathscr{B}))\) が存在する.このとき,\(\tilde{N}=N\cup\{f\neq\tilde{f}\}\) とおけば \(\tilde{N}\in\mathscr{N}^{\mu}\) であり,\(\tilde{S}=S\setminus\tilde{N}\) で \(f|_{\tilde{S}}=\tilde{f}|_{\tilde{S}}\) である.また,容易にわかるように \[f|_{\tilde{S}}=\tilde{f}|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to (T,\mathscr{B}))\] である.
逆を示す.\(f\) に対して \(\tilde{N}\in\mathscr{N}^{\mu}\) が存在して, \[N\subset\tilde{N},\ \ f|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to (T,\mathscr{B}))\] を満たすとする.このとき \(\tilde{N}\subset\tilde{N}_0\) なる \(\tilde{N}_0\in \mathscr{N}^{\mu}\cap\mathscr{A}\) をとり,\(\tilde{f}:S\to T\) を $$ \tilde{f}(x) = \left\{ \begin{array}{ccccc} f(x) & & (x\in S\setminus \tilde{N}_0) \\ \alpha & & (x\in \tilde{N}_0) \end{array} \right. $$ と定める.ここで \(\alpha\) は \(T\) の任意の点である.\(f=\tilde{f}\ (\mu-\text{a.e})\) であるから \(\tilde{f}\in \mathbb{M}(S\to T)\) を示せば良い.\(\tilde{S}_0=S\setminus \tilde{N}_0\) とおけば,\(\tilde{S}_0\subset\tilde{S}\) より \[\tilde{f}|_{\tilde{S}_0}=f|_{\tilde{S}_0}\in \mathbb{M}((\tilde{S}_0,\mathscr{A}|_{\tilde{S}_0})\to (T,\mathscr{B}))\] であり,任意の \(B\in\mathscr{B}\) に対して, $$ \tilde{f}^{-1}(B) = \left\{ \begin{array}{ccccc} f|_{\tilde{S}_0}^{-1}(B) & & (\alpha\notin B) \\ f|_{\tilde{S}_0}^{-1}(B)\cup \tilde{N}_0 & & (\alpha\in B) \end{array} \right. $$ \(\tilde{S}_0\in \mathscr{A}\) であるから \(f|_{\tilde{S}_0}^{-1}(B)\in\mathscr{A}|_{\tilde{S}_0}=\{A\cap \tilde{S}_0\mid A\in\mathscr{A}\}\) より \(f|_{\tilde{S}_0}^{-1}(B)\in\mathscr{A}\) .すなわち \(\tilde{f}^{-1}(B)\in\mathscr{A}\) であり,これで \(\tilde{f}\in \mathbb{M}(S\to T)\) が示された.

例 3.3.1
\(f,g\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数かつ \[(f(x),g(x))\neq (\pm\infty,\mp\infty)\quad (\mu-\text{a.e.})\] なら \(f+g\) もまた \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数である.

証明
\[f:S\setminus N\to\overline{\mathbb{R}}\ ,\ \ f:S\setminus M\to\overline{\mathbb{R}}\] \[L=\{x\in S\mid (f(x),g(x))=(\pm\infty,\mp\infty)\}\] であるとき \(\tilde{N}=N\cup M\cup L\) とおくと \(\tilde{N}\in\mathscr{N}^{\mu}\) であり \(\tilde{S}=S\setminus\tilde{N}\) に対して, \[f|_{\tilde{S}}\ ,\ g|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to \overline{\mathbb{R}})\] \[(f(x),g(x))\neq (\pm\infty,\mp\infty)\quad (x\in \tilde{S})\] であるので, \[(f+g)|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to \overline{\mathbb{R}})\] すなわち,補題 3.3.1 より \(f+g\) もまた \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数である.

例 3.3.2
\(\{f_n\}_n\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数の列で \(f(x)=\lim_n f_n(x)\) が \(\mu-\text{a.e.}\) に存在すれば \(f\) は \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数である.

証明
\[f_n:S\setminus N_n\to\overline{\mathbb{R}}\ ,\quad L=\{x\in S\mid \text{not exists}\ \lim f_n(x)\}\] であるとき \(\tilde{N}=L\cup \left(\bigcup N_n\right)\) とおくと \(\tilde{N}\in\mathscr{N}^{\mu}\) であり \(\tilde{S}=S\setminus\tilde{N}\) に対して, \[f_n|_{\tilde{S}}\in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to \overline{\mathbb{R}})\] であり,\(\lim f_n(x)\) は任意の \(x\in\tilde{S}\) で存在する.よって, \[\lim f_n|_{\tilde{S}} = f|_{\tilde{S}} \in \mathbb{M}((\tilde{S},\mathscr{A}|_{\tilde{S}})\to \overline{\mathbb{R}})\] すなわち,補題 3.3.1 より \(f=\lim f_n\) もまた \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された \(\overline{\mathbb{R}}\) 可測関数である.

積分の定義’
\(f\) を \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数とし,\(\tilde{f}\in\mathbb{M}(S\to\overline{\mathbb{R}}\ \text{or}\ \mathbb{C})\) をその可測修正とする.このとき,以下のように定める.
\(f\) が \(A\) 上積分確定(可積分) \(\overset{\rm{def}}{\Longleftrightarrow}\) \(f\) が \(A\) 上積分確定(可積分)
\[\int_Af\ d\mu \overset{\rm{def}}{=} \int_A\tilde{f}\ d\mu\]

*この定義は well-defined となります.すなわち異なる可測修正 \(\tilde{f}_1,\tilde{f}_2\) が取れたとき,両方の積分値が一致します.実際,\(\tilde{f}_1=\tilde{f}_2\ (\mu-\text{a.e})\) なので,命題 3.2.2 より積分値が一致します.

(3) , (4) , 命題 3.2.1 , 3.2.2 , 3.2.5 は可測関数を\(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数としても成り立ちます.また,命題 3.2.3 はこの条件に加えて \(\mu-\text{a.e.}\) で極限が存在するとしても成り立ちます.これらのことの証明は容易なので省略します.

命題 3.2.4 については以下の命題として書き直すことができます.このことも容易に示すことができます.

命題 3.2.4’
\(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数 \(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\ \text{or} \ \mathbb{C}\) について, $$ \begin{array}{c} \int_Af^{+}\ d\mu + \int_Ag^{+}\ d\mu < \infty \\ \text{or} \\ \int_Af^{-}\ d\mu + \int_Ag^{-}\ d\mu < \infty \end{array} $$ なら( \(f,g:S\to\mathbb{C}\) なら上の仮定は不要)\(f+g\) が \(A\) 上積分確定かつ \[\int_A(f+g)\ d\mu = \int_Af\ d\mu + \int_Ag\ d\mu\] が成り立ち,特に \(f,g\) が \(A\) 上可積分なら \(f+g\) も \(A\) 上可積分である.

* \(f,g:S\to\overline{\mathbb{R}}\) に対して, \begin{eqnarray} &&\int_Af^{+}\ d\mu + \int_Ag^{+}\ d\mu < \infty \\ &\Longrightarrow & (f(x),g(x))\neq (+\infty,+\infty)\quad (\mu-\text{a.e.}) \\ &\Longrightarrow & (f(x),g(x))\neq (\pm\infty,\mp\infty)\quad (\mu-\text{a.e.}) \end{eqnarray} です.また,このことから \(f+g\) は \(\mu-\text{a.e.}\) に定義された可測関数になります.

 

今回は以上となります.お疲れ様でした.

次回はルベーグ積分の重要定理である優収束定理を紹介します.

 

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