関数解析1(バナッハ空間)

 
\(X\) を \(K\) ベクトル空間とする.( \(K\) は \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) とする)
 

ノルム空間とバナッハ空間

定義 1.1
関数 \(\|\cdot \|:X\to \mathbb{R}\) が次の性質を満たすとき \(\|\cdot \|\) を \(X\) のノルムといい,\( (X,\|\cdot \| )\) をノルム空間という.
  1. \(\|x\|\geq 0 \quad (\forall x\in X)\)
  2. \(\|x\| = 0 \Leftrightarrow x = 0\)
  3. \( \|ax\|=|a|\|x\| \quad (\forall a\in K,\ \forall x\in X) \)
  4. \( \|x+y\|\leq \|x\| + \|y\| \quad (\forall x,y\in X) \)

* \(|\cdot|\) は \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) に定められた絶対値のことである.

ノルム空間 \( (X, \| \cdot \| )\) に対して \(d(x,y) = \|x-y\| \) と定めると \(d\) は \(X\) 上の距離になる.すなわち,

  1. \(d(x,y)\geq 0 \quad (\forall x,y\in X)\)
  2. \(d(x,y) = 0 \Leftrightarrow x = y\)
  3. \(d(x,y) = d(y,x) \quad (\forall x,y\in X) \)
  4. \(d(x,z)\leq d(x,y) + d(y,z) \quad (\forall x,y,z\in X) \)

を満たす.(定義から容易に確かめられる)

定義 1.2
ノルム空間 \(X\) の点列 \(\{x_n\}\) が \(x\in X\) に収束するとは \[ \|x_n-x\| \to 0 \quad(n\to \infty) \] となることである.このとき \(x_n\to x \ \ (n\to \infty)\) とかき,\(x\) を極限値と呼ぶ.

*極限値は一般に距離空間で定義可能である.

もし \(\{x_n\}\) の極限が存在すれば一意的である.なぜならば 2 つの収束先 \(x,y\in X\) があるとすると,

\[ \| x- y \| = \| x _n- y- (x_n- x) \| \leq \| x _n- y \| + \| x_n- x \| \to 0 \]

より \(x=y\) となるからである.

命題 1.3
以下が成り立つ. \[x_n\to x,\ y_n\to y\ \Longrightarrow\ x_n+y_n\to x+y\] \[a_n\to a,\ x_n\to x\ \Longrightarrow\ a_nx_n\to ax\]

証明
\[\|x_n+y_n -(x+y)\| \leq \|x_n-x\|+\|y_n-y\| \to 0\] \begin{eqnarray} &&\|a_nx_n-ax\| \\ &&\quad = \|(a_n-a)(x_n-x) + (a_n-a)x + a(x_n-x)\| \\ &&\quad \leq |a_n-a|\|x_n-x\| + |a_n-a|\|x\| + |a|\|x_n-x\|\to 0 \end{eqnarray}

任意の \(x,y\in X\) に対して

\[ |\|x\|-\|y\|| \leq \|x-y\| \]

が成り立つ.(ノルム定義の条件 4 の変形を行なっただけ)

命題 1.4
ノルムは \(X\) 上の連続関数である.すなわち \(x_n\to x\) ならば \(\|x_n\| \to \|x\|\) となる.

証明
任意の \(x,y\in X\) に対して \[ |\|x_n\|-\|x\|| \leq \|x_n-x\| \to 0 \]

定義 1.5
ノルム空間 \(X\) の点列 \(\{x_n\}\) が \[ \|x_n-x_m\| \to 0 \quad(n,m\to \infty) \] を満たすとき \(\{x_n\}\) をコーシー ( Cauchy ) 列といい,\(X\) の任意のコーシー列が極限を持つとき \(X\) は完備であるという.

* \( \|x_n-x_m\| \leq \|x_n- x\| + \|x_m- x\| \) より収束列は常にコーシー列となりますが,一般のノルム空間で逆は成り立ちません.

定義 1.6
完備なノルム空間をバナッハ ( Banach ) 空間という.

定義 1.7
ノルム空間 \(X\) の部分集合 \(M\) が閉集合であるとは,点列 \(x_n\in M\) が \(X\) に極限値 \(x\) を持つとき \(x\in M\) であることを言う.

\(W\) が \(X\) の部分空間かつ閉集合のとき \(W\) を閉部分空間と呼び,定義から容易にわかるようにバナッハ空間の閉部分空間はバナッハ空間である.

ノルム空間 \(X\) の部分集合 \(M\) に対して,\(M\) を含むような最小の閉集合を \(\overline{M}\) と表し,\(M\) の閉包と呼ぶ.

 

バナッハ空間の例

例 1.8 ( \(\mathbb{R}^n\) のユークリッドノルム空間)
\(\mathbb{R}^n\) に和とスカラー倍を \[(x_1,\cdots,x_n) + (y_1,\cdots,y_n) = (x_1+y_1,\cdots,x_n+y_n)\] \[a(x_1,\cdots,x_n) = (ax_1,\cdots,ax_n) \quad(a\in \mathbb{R})\] と定めると \(\mathbb{R}^n\) は \(\mathbb{R}\) ベクトル空間となり, \[\|(x_1,\cdots,x_n)\| = \sqrt{x_1^2+\cdots +x_n^2}\] は \(\mathbb{R}^n\) 上のノルムとなる.(ユークリッド ( Euclid ) ノルム)
このとき,\(\mathbb{R}^n\) はバナッハ空間である.

証明
\(\mathbb{R}^n\) のコーシー列 \(\{(x_1^{(k)},\cdots ,x_n^{(k)})\}_{n=1}^{\infty}\) に対して, \[ |x_i^{(k)}- x_i^{(l)}| \leq \| (x_1^{(k)},\cdots ,x_n^{(k)})- (x_1^{(l)},\cdots ,x_n^{(l)}) \| \] となるから各 \(i\) に対して \(\{x_i^{(k)}\}_{n=1}^{\infty}\) はコーシー列である.\(\mathbb{R}\) は完備(実数の連続性より)だから \(x_i^{(k)}\to x_j\ \ (k\to \infty)\) となる実数 \(x_j\) が存在し, \[ \|(x_1^{(k)},\cdots ,x_n^{(k)})- (x_1,\cdots ,x_n)\|^2 = \sum_{i=1}^n(x_j^{(k)}-x_i)^2\] であるので \(k\to \infty\) とすると,右辺 \(\to 0\) となりコーシー列は極限を持つ.したがって \(\mathbb{R}^n\) はバナッハ空間である.

例 1.9 ( \(\mathbb{C}^n\) のユークリッドノルム空間)
\(\mathbb{C}^n\) に \(\mathbb{R}^n\) と全く同様に \(\mathbb{C}\) ベクトル空間の構造を定める.このとき, \[\|(x_1,\cdots,x_n)\| = \sqrt{|x_1|^2+\cdots +|x_n|^2}\] は \(\mathbb{C}^n\) 上のノルムとなり,同様の証明でバナッハ空間となることが確認できる.

例 1.10 (有界連続関数空間上のノルム空間)
\(\Omega\) を位相空間 \(S\) の部分集合とする.\(\Omega\) から \(K\) への有界連続関数全体を \(C_B(\Omega)\) と表すとする.このとき,\(f,g\in C_B(\Omega),\ a\in K\) に対して,\(K\) 係数ノルム空間の構造を \[(f+g)(x) = f(x)+g(x)\ ,\quad (af)(x) = a\, f(x)\] \[\|f\| = \sup_{x\in \Omega} |f(x)|\] によって定めると,\(C_B(\Omega)\) はノルム空間となる.
また,\(\Omega\) をコンパクトであるとすると,\(C_B(\Omega)\) はバナッハ空間である.
( \(\Omega\) がコンパクトであるとき連続関数は有界である.つまり,連続関数全体はよく \(C(\Omega)\) と書かれるので \(C_B(\Omega)=C(\Omega)\) となる.)

証明
ノルムとなることは容易にわかる.
バナッハ空間となること:
\(f_n\in C_B(\Omega)\) をコーシー列とする.任意の \(x\in \Omega\) に対して, \[|f_n(x)-f_m(x)|\leq \|f_n-f_m\|\] であるので,\(x\) を固定すると \(f_n(x)\) は \(K\) 上のコーシー列となる.\(K\) は完備であるので,\(f_n(x)\to y\) となる \(y\in K\) が各 \(x\in \Omega\) に対して存在する.したがって, \[f(x) = y\] となる関数 \(f\) が考えられる.この \(f\) が連続関数であることを示す.任意の実数 \(\varepsilon >0\) をとる.この \(\varepsilon\) に対して十分大きな \(n,m\) で \[|f_n(x)-f_m(x)|\leq \|f_n-f_m\|<\varepsilon \quad(\forall x\in \Omega)\] となる.したがって,\(m\to\infty\) とすると, \[|f_n(x)-f(x)|\leq \varepsilon \quad(\forall x\in \Omega)\] すなわち \(f_n\) は一様収束する.よって,与えられた \(\varepsilon\) に対して任意の十分大きな \(n\) で \[|f(x’)-f_n(x’)|\ ,\ \ |f_n(x)-f(x)|<\varepsilon \quad(\forall x,x’\in \Omega)\] となる.また,このような \(n\) を固定すれば \(f_n\) は連続なので,ある実数 \(\delta>0\) があって,\(\|x-x’\|<\delta\) ならば,\(|f_n(x’)-f_n(x)|<\varepsilon\) となる.したがって, \begin{eqnarray} &&|f(x’)-f(x)|\\ &&\quad\leq |f(x’)-f_n(x’)|+|f_n(x’)-f_n(x)|+|f_n(x)-f(x)|\\ &&\quad < 3\varepsilon \end{eqnarray} が得られる.これで連続性が示された.有界性は \(\Omega\) がコンパクトであることからわかる.よって,\(f\in C_B(\Omega)\) である.また, \[|f_n(x)-f(x)|\leq \varepsilon \quad(\forall x\in \Omega)\] より, \[\|f_n-f\| =\sup_{x\in \Omega}|f_n(x)-f(x)| \leq \varepsilon\] となり,\(f_n\to f\) であるので \(C_B(\Omega)\) はバナッハ空間である.

例 1.11 ( \(L^p\) 空間)
\(p\) を \(1\leq p < \infty\) となる実数とする.測度空間 \(\Omega\) 上の可測関数 \(f\) で \[ \|f\|_{L^p} := \left(\int_{\Omega}|f|^p\ d\mu \right)^{1/p} < \infty\] を満たすもの全体を \(L^{p}(\Omega)\) とかく.ここで \(\mu\) は測度である.この集合を \(f\sim g\Leftrightarrow f=g\ (\mu-a.e.)\) という同値関係で割った集合を改めて \(L^{p}(\Omega)\) と書くことにする.このとき \(\|\cdot\|_{L^p}\) は \(L^p(\Omega)\) のノルムであり,このノルムによりバナッハ空間となる.(ベクトル空間の構造は上で考えた \(C_B(\Omega\)) と同様)

* \(L^p(\Omega)\) に定めた同値類に対して,和は well-defined に定まる.すなわち,

\[f\sim f’\ ,\ g\sim g’ \Longrightarrow f+g\sim f’+g’\]

が成り立つ.積,スカラー倍,\(\|\cdot\|_{L^p}\) についても同様に well-defined である.

\(L^p(\Omega)\) がバナッハ空間であることの証明を行う前に \(2\) つの不等式を示します.

ヘルダー ( Hölder ) の不等式
\(p\) を \(1< p < \infty\) となる実数とし,\(q=\frac{p}{p-1}\) とするとき, \[\left| \int_{\Omega} fg\ d\mu \right| \leq \|f\|_{L^p}\|g\|_{L^q} \quad (f\in L^p(\Omega),\ g\in L^q(\Omega)) \]

証明
\(\|f\|_{L^p}=0\) であるとき, \begin{eqnarray} \|f\|_{L^p}=0 &\Longrightarrow & f=0\ (\mu-a.e.) \\ &\Longrightarrow & fg=0\ (\mu-a.e.) &\Longrightarrow & \int_{\Omega} fg\ d\mu =0 \end{eqnarray} より,このとき不等式は成り立つ.\(\|g\|_{L^q}=0\) でも同様である.どちらでもないとする.
ところで \(b\geq 0\) として \(x\geq 0\) に対して, \[\varphi(x) = \frac{x^p}{p}+\frac{b^q}{q}-xb\] と定めると,\(\varphi\) の微分を確かめればわかるように,\(\varphi\) は \(x=b^{\frac{1}{p-1}}\) で最小値 \(0\) をとる.したがって,\(a,b\geq 0\) に対して, \[ab\leq \frac{a^p}{p}+\frac{b^q}{q}\] が成り立つ.この結果を用いると, \begin{eqnarray} \frac{1}{\|f\|_{L^p}\|g\|_{L^q}}\left| \int_{\Omega} fg\ d\mu \right| &\leq & \int_{\Omega} \frac{|f|}{\|f\|_{L^p}}\frac{|g|}{\|g\|_{L^q}}\ d\mu \\ &\leq & \frac{1}{p\|f\|_{L^p}^p} \int_{\Omega} |f|^p\ d\mu + \frac{1}{q\|f\|_{L^q}^q} \int_{\Omega} |g|^q\ d\mu \\ &\leq & \frac{1}{p} + \frac{1}{q} = 1 \end{eqnarray} したがって,不等式が示された.

ミンコフスキ ( Minkowski ) の不等式
\(p\) を \(1\leq p < \infty\) となる実数する.\(f,g\in L^p(\Omega)\) ならば \(f+g\in L^p(\Omega)\) であり, \[\left( \int_{\Omega} |f+g|^p\ d\mu \right)^{1/p} \leq \left( \int_{\Omega} |f|^p\ d\mu \right)^{1/p} + \left( \int_{\Omega} |g|^p\ d\mu \right)^{1/p} \]

証明
\(f(x)=x^p\ (x\geq 0)\) は下に凸な関数であるので, \(a,b\geq 0\) に対して \[\left( \frac{a+b}{2}\right)^p \leq \frac{a^p+b^p}{2}\] が成り立つ.したがって, \[(a+b)^p \leq 2^{p-1}(a^p+b^p)\] である.このことを用いて, \[|f+g|^p\leq (|f|+|g|)^p\leq 2^{p-1}(|f|^p+|g|^p)\] がわかる.したがって,\(f,g\in L^p(\Omega)\) ならば \(f+g\in L^p(\Omega)\) である.
主張の不等式が成り立つことを示す. \(p=1\) ならば明らか.\(p>1\) と仮定する.
ヘルダーの不等式を用いて, \begin{eqnarray} &&\int_{\Omega} |f+g|^p\ d\mu \\ &&\quad \leq \int_{\Omega} |f+g|^{p-1}|f|\ d\mu + \int_{\Omega} |f+g|^{p-1}|g|\ d\mu \\ &&\quad \leq \left( \int_{\Omega} |f+g|^{(p-1)q}\ d\mu \right)^{1/q} ( \|f\|_{L^p}+\|g\|_{L^p} ) \\ &&\quad = \left( \int_{\Omega} |f+g|^{p}\ d\mu \right)^{1/q} ( \|f\|_{L^p}+\|g\|_{L^p} ) \end{eqnarray} が得られる.ここで,\(|f+g|^{p-1}\in L^q(\Omega)\) であることは上の変形の4行目によりわかる. \[k:=\int_{\Omega} |f+g|^{p}\ d\mu \] とおく.\(k\neq 0\) であるとき,両辺を \(k^{1/q}\) で割れば欲しかった不等式は得られる. \(k=0\) のとき主張の不等式が正しいことは明らかである.
以上で全ての主張は示された.

準備ができたので \(L^p(\Omega)\) がバナッハ空間となることを証明します.

証明
ミンコフスキの不等式とルベーグ積分の知識からノルム空間となることは容易にわかる.

完備性のみ確かめる. \(f_n\in L^p(\Omega)\) をコーシー列とする.このとき, \[\|f_{n_{k+1}}-f_{n_k}\|_{L^p}<\frac{1}{2^k} \quad(k=1,2,\cdots)\] となるような部分列 \(\{f_{n_k}\}\ (n_{k+1}\geq n_k)\) が取れる.実際, \[\|f_{m}-f_{n_1}\|_{L^p}<\frac{1}{2}\quad (\forall m>n_1)\] \[\|f_{m}-f_{n_2}\|_{L^p}<\frac{1}{2^2}\quad (\forall m>n_2>n_1)\] を満たすような \(n_1,n_2\) を取ることができて,これを繰り返せばよい.この \(\{f_{n_k}\}\) を簡単に \(\{f_{k}\}\) と表すことにする.定め方から, \[\sum_{k=1}^{\infty}\|f_{k+1}-f_k\|_{L^p} < \sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{2^k} = 1\]
次に \(g_n\) を次のように定める. \begin{equation} \left\{ \, \begin{aligned} g_1 & = |f_1| \\ g_n & = |f_1| + \sum_{k=1}^{n-1}|f_{k+1}-f_k| \end{aligned} \right. \end{equation} このとき,明らかに \(0\leq g_n\leq g_{n+1}\) が成り立つ.ここで \(g_n\) は単調増加するので \(\infty\) を含めて収束する.また,任意の \(n\) で \begin{eqnarray} \int_{\Omega}(g_n)^p\ d\mu &=& (\|g_n\|_{L^p})^p \\ &\leq & \left( \|f_1\|_{L^p} + \sum_{k=1}^{n-1}\|f_{k+1}-f_k\|_{L^p} \right)^p \\ &\leq & \left( \|f_1\|_{L^p} + 1 \right)^p \end{eqnarray} であるので,\(\lim_{n\to\infty} g_n = g\) とおくと,ファトゥ ( Fatou ) の補題より \[\int_{\Omega}g^p\ d\mu \leq \lim_{n\to\infty}\int_{\Omega}(g_n)^p\ d\mu \leq \left( \|f_1\|_{L_p} + 1 \right)^p < \infty\] したがって,\(\|g\|_{L^p}<\infty\) .すなわち \(g\in L^p(\Omega)\) である.

上で定めた \(g\) を用いて \(\{f_k\}\) が収束することを示す. \[|f_n -f_m| \leq \sum_{k=m}^{n-1}|f_{k+1}-f_k| = g_n-g_m\] より, \(\{g_n\}\) は \(g<\infty\ (\mu-a.e.)\) に収束するので \(\mathbb{R}\) 上のコーシー列 \((\mu-a.e.)\) である.よって,\(f_n\) も \(\mathbb{C}\) 上のコーシー列 \((\mu-a.e.)\) である.したがって, \[m,n\to \infty \Rightarrow |f_n -f_m|\to 0 \quad (\mu-a.e.)\] よって,\(\mathbb{C}\) の完備性より,ほとんど至る所の \(x\in \Omega\) で有限な \(f^*\) があって, \[\lim_{n\to\infty} f_n = f^* \quad (\mu-a.e.)\] となる. この \(f^*\) は \(L^p(\Omega)\) に含まれている.実際, \[|f_n -f_1| \leq \sum_{k=1}^{n-1}|f_{k+1}-f_k| = g_n-g_1\] より,三角不等式を用いて, \[|f_n| \leq g_n\] がわかり,\(n\to\infty\) とすると, \[|f^*| \leq g \quad (\mu-a.e)\] となるから \(f^*\in L^p(\Omega)\) である.

ミンコフスキの不等式の証明の中でも用いた不等式を用いて, \begin{eqnarray} |f_k-f^*|^p &\leq & (|f_k|+|f^*|)^p \leq (g_n+|f^*|)^p \\ &\leq & (g+|f^*|)^p \leq 2^{p-1}g^p+2^{p-1}|f^*|^p \end{eqnarray} がわかる.ゆえに,\(|f_k-f^*|^p\) は \(k\) に依らない可測関数に上から抑えられている.よって,\(|f_k-f^*|\to 0\ (\mu-a.e.)\) であることと,ルベーグ ( Lebesgue ) の優収束定理を用いて, \[\lim_{k\to\infty}\|f_k-f^*\|_{L^p} = 0\ .\]
最後に \(\{f_n\}\)( \(\{f_k\}\) を作る前に取ってきたコーシー列)が \(f^*\) に収束することを確認すれば良い.この点列はコーシー列なので,任意の \(\varepsilon>0\) に対して十分大きな \(n\) があって, \[\|f_n-f_{n_k}\|_{L^p}<\varepsilon\quad(n_k>n)\] となる.\(n_k\to\infty\) とすれば, \[\|f_n-f^*\|_{L^p}\leq \varepsilon\] となり,これで完備性が示された.

例 1.12 ( \(l^p\) 空間)
\(p\) を \(1\leq p < \infty\) となる実数とする.複素数列 \(x=\{x_n\}_{n\geq 1}\) で \[\|x\|_{l^p}:=\left( \sum_{n=1}^{\infty}|x_n|^p \right)^{1/p} < \infty \] となるもの全体を \(l^p\) と表す.このとき \(\|\cdot\|_{l^p}\) は \(l^p\) のノルムであり,このノルムによりバナッハ空間となる.

証明
ミンコフスキの不等式の証明中に確認した初等的な不等式 \[|x+y|^p\leq 2^{p-1}(|x|^p+|y|^p)\] を用いれば, \[\sum_{n=1}^{\infty}|x_n+y_n|^p \leq 2^{p-1}\sum_{n=1}^{\infty}|x_n|^p + 2^{p-1}\sum_{n=1}^{\infty}|y_n|^p <\infty\] がわかり,このことから \(l^p\) は \(\mathbb{C}\) ベクトル空間である.\(\|\cdot\|_{l^p}\) がノルムであることは,ヘルダー不等式とミンコフスキ不等式が積分と同様に和についても成り立つことからわかる.
完備であることを示す.
\(\{x^{(n)}\}\) を \(l^p\) のコーシー列とする.任意の \(\varepsilon >0\) に対して \(N\) を適当にとれば, \[n,m>N \Longrightarrow \|x^{(n)}-x^{(m)}\|_{l^p}<\varepsilon\] となる.任意の \(j,k\) に対して, \[|x_j^{(n)}-x_j^{(m)}|\leq \left( \sum_{j=1}^k |x_j^{(n)}-x_j^{(m)}|^p \right)^{1/p} \leq \|x^{(n)}-x^{(m)}\|<\varepsilon\] であるから,各 \(j\) に対して \(\{x_j^{(n)}\}_n\) は \(\mathbb{C}\) のコーシー列であり,\(\mathbb{C}\) の完備性から \[x_j^{(n)}\to x_j \quad (n\to\infty)\] が存在する.任意の \(k\) と \(n>N\) で, \[\left( \sum_{j=1}^k |x_j^{(n)}-x_j|^p \right)^{1/p} \leq \varepsilon\] かつ, \[\left( \sum_{j=1}^k |x_j|^p \right)^{1/p} \leq \left( \sum_{j=1}^k |x_j^{(n)}-x_j|^p \right)^{1/p} + \left( \sum_{j=1}^k |x_j^{(n)}|^p \right)^{1/p}\] となるから,\(m\to\infty\) とすると右辺は有限で \(\sum_{j=1}^{\infty} |x_j|^p< \infty\) である.よって,\(\{x_j\}_{j\geq 1}=:x\in l^p\) である.また, \[\left( \sum_{j=1}^{\infty} |x_j^{(n)}-x_j|^p \right)^{1/p} \leq \varepsilon\] より,\(\varepsilon\) は任意なので \(\|x^{(n)}-x\|_{l^p}\to 0\) であり,\(l^p\) は完備である.

他にも \(L^{\infty}\) 空間,\(l^{\infty}\) 空間などが例として挙げられるが,ここでは解説しない.

 

ノルム空間の完備化

定理 1.13
\((X,\|\cdot\|)\) をノルム空間とするとき,次の性質を持つバナッハ空間 \((\tilde{X},\|\cdot\|_{\sim})\) と \(X\) から \(\tilde{X}\) への写像 \(J\) が存在する.
  1. \(J\) は \(X\) から \(\tilde{X}\) への単射である.
  2. \(\|J(x)\| = \|x\|\quad (x\in X)\)
  3. \(\overline{J(X)} = \tilde{X}\)

*上の定理は「与えられたノルム空間 \(X\) があるバナッハ空間の \(\tilde{X}\) の部分空間としてみなせる」ことを主張している. \(\tilde{X}\) を \(X\) の完備化と呼ぶ.

証明
\(X\) のコーシー列 \(\{x_n\}\) 全体の集合 \(W\) に対して同値関係を以下のように定める. \[\{x_n\}\sim \{x_n’\}\Longleftrightarrow \|x_n-x_n’\|\to 0\ \ (n\to \infty)\] この同値関係で \(W\) を割った集合を \(\tilde{X}=W/\sim\) と定める.\(\{x_n\},\{y_n\}\) を代表元に持つ \(\tilde{X}\) の元を \([x_n],[y_n]\) と表して, \[[x_n]+[y_n] := [x_n+y_n]\] \[a[x_n] := [ax_n]\] によって和とスカラー倍を定める.ここで,この定義が \(\text{wll-defined}\) であることを確認しなければならない.
\(\{x_n+y_n\},\{ax_n\}\) がコーシー列となることは, \[\|(x_n+y_n)- (x_m+y_m)\| \leq \|x_n-x_m\| + \|y_n-y_m\|\] \[\|ax_n- ax_m\| = |a|\|x_n-x_m\|\] となることからわかる.また,\([x_n]=[x’_n],[y_n]=[y’_n]\) とすると, \[\|(x’_n+y’_n)-(x_n-y_n)\|\leq \|x’_n-x_n\| + \|y’_n-y_n\|\] \[\|ax’_n-ax_n\|= |a|\|x’_n-x_n\|\] \([x_n+y_n]=[x’_n+y’_n],[ax_n]=[ax’_n]\) である.したがって \(\text{wll-defined}\) である.
次に実数列 \(\{\|x_n\|\}\) は \[|\|x_n\|-\|x_m\|| \leq \|x_n-x_m\|\] よりコーシー列であり \(\mathbb{R}\) の完備性より \(\|x_n\|\to \beta\ \ (n\to \infty)\) となる \(\beta\) が取れる.この \(\beta\) は \([x_n]=[x’_n]\) であるとき, \[\|x_n\| \leq \|x_n-x’_n\|+\|x’_n\| \ ,\ \ \|x’_n\| \leq \|x’_n-x_n\|+\|x_n\| \] より,\(\|x_n\|\to \beta \ \Leftrightarrow \ \|x’_n\|\to \beta \) であるので,\(\tilde{X}\) の元に対して一意的に定まる.\(\tilde{x}\in \tilde{X}\) に対して定まるこの \(\beta\) を \(\|\tilde{x}\|_{\sim}\) と表す. \(\|\cdot\|_{\sim}\) は \(\tilde{X}\) のノルムであることを確認する.
\(\|\tilde{x}\|_{\sim}\geq 0\) は明らかである.\(\|[x_n]\|_{\sim}=0\) とすると, \(\|x_n- 0\| \to 0\ \ (n\to \infty)\) であるので \(x_n\) が全て \(0\) である点列を代表元にもつ \(\tilde{X}\) の元 \(\tilde{0}\) (これが \(\tilde{X}\) の零元)と同値である. したがって \(\|\tilde{x}\|_{\sim}=0 \ \Leftrightarrow \ \tilde{x} = \tilde{0}\) である.また \[\|a[x_n]\|_{\sim} = \lim_{n\to \infty}{\|ax_n\|} = |a|\lim_{n\to \infty}{\|x_n\|} = |a|\|[x_n]\|_{\sim} \] \begin{eqnarray} \|[x_n] + [y_n]\|_{\sim} &=& \|[x_n + y_n]\|_{\sim} = \lim_{n\to\infty}{\|x_n + y_n\|} \\ &\leq & \lim_{n\to \infty}{\|x_n\|} + \lim_{n\to \infty}{\|y_n\|} = \|[x_n]\|_{\sim} + \|[y_n]\|_{\sim} \end{eqnarray} である.これでノルム空間 \((\tilde{X},\|\cdot\|_{\sim})\) が得られた.
ノルム空間 \((\tilde{X},\|\cdot\|_{\sim})\) は完備であることを示す.
\(\tilde{X}\) のコーシー列 \(\{\tilde{x}_n\}\) をとる.各 \(n\) に対して \(\tilde{x}_n\) の代表元 \(\{x^{(n)}_k\}_{k=1}^{\infty}\) を一つ定める.\(\{x^{(n)}_k\}_{k=1}^{\infty}\) は \(X\) のコーシー列であるから,\(n\) に対してある \(k_n\) があって, \[m>k_n \Rightarrow \|x^{(n)}_m- x^{(n)}_{k_n}\|\leq \frac{1}{n}\] とできる.このとき,\(\{x^{(n)}_{k_n}\}_{n=1}^{\infty}\) は \(X\) のコーシー列となることを確かめる.
\(x\in X\) に対して自明なコーシー列 \(\{x,x,\cdots ,x,\cdots\}\) を考え,このコーシー列を代表元に持つような \(\tilde{X}\) の元を \(\tilde{x}_*\) と表す. \(J:X\to \tilde{X}\) を \(J(x)=\tilde{x}_*\) と定めると,\(J\) は明らかに単射で \(\|J(x)\|_{\sim}=\|x\|\) である. \[\|\tilde{x}_n- J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} = \lim_{n\to\infty}\|x^{(n)}_m- x^{(n)}_{k_n}\| \leq \frac{1}{n}\] であるので, \begin{eqnarray} \|x^{(n)}_{k_n}- x^{(n)}_{k_n}\| &=& \|J(x^{(n)}_{k_n})- J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} \\ &\leq& \|J(x^{(n)}_{k_n})- \tilde{x}_n\|_{\sim} + \|\tilde{x}_n- \tilde{x}_m\|_{\sim} + \|\tilde{x}_m – J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} \\ &\leq & \|\tilde{x}_n- \tilde{x}_m\|_{\sim} + \frac{1}{n} + \frac{1}{m} \end{eqnarray} がわかる.したがって \(\{x^{(n)}_{k_n}\}_{n=1}^{\infty}\) はコーシー列である.この列が代表する \(\tilde{X}\) の元 \(\tilde{x}\) が \(\{\tilde{x}_n\}\) の収束先であることを言えれば,\(\tilde{X}\) が完備であることが示される. \begin{eqnarray} \|\tilde{x}\ – \tilde{x}_n\|_{\sim} &\leq & \|\tilde{x}- J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} + \|J(x^{(n)}_{k_n})- \tilde{x}_n \|_{\sim} \\ &\leq & \|\tilde{x}- J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} + \frac{1}{n} \end{eqnarray} かつ, \begin{eqnarray} \|\tilde{x} – J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} &=& \lim_{p\to \infty}\|x^{(p)}_{k_p}- x^{(n)}_{k_n}\| \\ &\leq & \lim_{p\to \infty} \left( \|\tilde{x}_p- \tilde{x}_n\|_{\sim} + \frac{1}{p} + \frac{1}{n} \right) \end{eqnarray} より, \begin{eqnarray} \lim_{n\to \infty} \|\tilde{x}- \tilde{x}_n\|_{\sim} &\leq & \lim_{n\to \infty} \|\tilde{x}- J(x^{(n)}_{k_n})\|_{\sim} \\ &\leq & \lim_{n,p\to \infty} \left( \|\tilde{x}_p- \tilde{x}_n\|_{\sim} \right) = 0 \end{eqnarray} したがって,\(\tilde{X}\) はバナッハ空間である.よって,\(\overline{J(X)} = \tilde{X}\) であることを示せば主張は全て示されたことになる.
任意の \(\tilde{x}\in \tilde{X}\) をとり \(\tilde{x}\) の代表元 \(\{x_n\}\) を一つとる.\(\{x_n\}\) はコーシー列なので任意の正数 \(\varepsilon\) に対して,ある \(N\) があって, \[m,n > N \Rightarrow \|x_n-x_m\|<\varepsilon \] が成り立つ.したがって \(n>N\) に対して \[\|\tilde{x}- J(x_n)\|_{\sim} = \lim_{m\to\infty} \|x_m- x_n\| \leq \epsilon \] となるから \(\overline{J(X)} = \tilde{X}\) である.

 

今回は以上になります.お疲れ様でした.

 

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