\(X\) を \(K\) ベクトル空間とする. (\(K\) は \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) とする)
内積空間とヒルベルト空間
定義 2.1
関数 \((\cdot ,\cdot ):X\times X\to K\) が次の性質を満たすとき \((\cdot ,\cdot )\) を \(X\) の内積といい,\( (X,(\cdot ,\cdot ) )\) を
内積空間という.(ここで \(\overline{z}\) とは \(z\) の複素共役のこと)
- \(0\leq (x,x) \quad (\forall x\in X)\)
- \((x,x) = 0 \Leftrightarrow x = 0\)
- \( (x,y) = \overline{(y,x)} \quad (\forall x,y\in X) \)
- \( (ax,y) = a(x,y) \quad (\forall a\in K,\ \forall x\in X) \)
- \( (x_1+x_2,y) = (x_1,y) + (x_2,y) \quad (\forall x_1,x_2,y\in X) \)
* \((x,x)\in \mathbb{R}\) は条件 \(3\) から導かれる.
定義から容易にわかるように
\[(x,ay) = \overline{a}(x,y) \quad (\forall a\in K,\ \forall x\in X)\]
\[(x,y_1+y_2) = (x,y_1) + (x,y_2) \quad (\forall x,y_1,y_2\in X)\]
が成り立つ.
内積空間 \( (X,(\cdot ,\cdot ) )\) に対して関数 \(\|\cdot \|:X\to \mathbb{R}\) を
\[\|x\| = (x,x)^{\frac{1}{2}}\]
と定めると,\( (X,\|\cdot\| ) \) はノルム空間である.
\(\|x+y\|\leq \|x\| + \|y\| \) であることのみ確認する.他は定義から容易に導ける.
シュワルツの不等式
\[|(x,y)|\leq \|x\|\|y\|\]
証明
\((x,y)=0\) なら明らかに成り立つ.
\((x,y)\neq 0\) とする.このとき \(\|y\|\neq 0\) であるので \(a=-\frac{(x,y)}{\|y\|^2}\) が得られる.このとき,
\begin{eqnarray}
0 &\leq & (x+ay,x+ay) \\
&=& \|x\|^2 + \overline{a}(x,y) + a\overline{(x,y)} + |a|^2\|y\|^2 \\
&=& \|x\|^2- \frac{|(x,y)|^2}{\|y\|^2}
\end{eqnarray}
上のシュワルツの不等式を用いれば
\begin{eqnarray}
\|x+y\|^2
&=& (x+y,x+y)\\
&=& \|x\|^2 +2{\rm Re}\ (x,y) + \|y\|^2 \\
&\leq & \|x\|^2 +2\|x\|\|y\| + \|y\|^2 \\
&=& ( \|x\| + \|y\| )^2
\end{eqnarray}
となることから \(\|x+y\|\leq \|x\| + \|y\| \) が成り立つ.
中線定理・極化等式
内積によって定められたノルムに対して次が成り立つ.
\[\|x+y\|^2 + \|x-y\|^2 = 2(\|x\|^2 + \|y\|^2)\]
\[(x,y) = \frac{1}{4}(\|x+y\|^2- \|x-y\|^2 + i\|x+iy\|^2- i\|x-iy\|^2 )\]
前者は中線定理,後者は極化等式と呼ばれる.
*証明は式変形を行うだけ
* \(K=\mathbb{R}\) ならば極化等式は \((x,y) = \frac{1}{4}(\|x+y\|^2- \|x-y\|^2)\) である.
命題 2.2
\((X\|\cdot\|)\) をノルム空間とする.ノルム \(\|\cdot\|\) に対して中線定理が成り立つとき,
\[(x,y) := \frac{1}{4}(\|x+y\|^2- \|x-y\|^2 + i\|x+iy\|^2- i\|x-iy\|^2 )\]
と定めると,\((\cdot,\cdot)\) は \(X\) の内積となり,\(\|x\|=(x,x)^{\frac{1}{2}}\) である.
証明
ノルムを定めること:
\[(x,x) = \frac{1}{4}(\|2x\|^2 + i|1+i|^2\|x\|^2- i|1-i|^2\|x\|^2 ) = \|x\|^2 \]
内積であること:
\begin{eqnarray}
(y,x) &=& \frac{1}{4}\left(\|y+x\|^2- \|y-x\|^2 + i\|y+ix\|^2- i\|y-ix\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{4}\left(\|x+y\|^2- \|-(x-y)\|^2 + i\|i(x-iy)\|^2- i\|-i(x+iy)\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{4}\left(\|x+y\|^2- \|x-y\|^2-(i\|x+iy\|^2- i\|x-iy\|^2\right) \\
&=& \overline{(x,y)} \\
\end{eqnarray}
中線定理より
\[ \|x+y\|^2- \|x-y\|^2 = 2\left(\|x\|^2+\|y\|^2-\|x-y\|^2 \right) \]
なので,
\begin{eqnarray}
{\rm Re}(x_1+x_2,y) &=& \frac{1}{4} \left(\|x_1+x_2+y\|^2-\|x_1+x_2-y\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{4} \left(\|x_1+y+x_2\|^2-\|x_1+y-x_2\|^2 \right. \\
&&\quad\quad \left. +\|x_1-(x_2-y)\|^2-\|x_1+(x_2-y)\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{2} \left(\|x_1+y\|^2+\|x_2\|^2-\|x_1+y-x_2\|^2 \right. \\
&&\quad\quad \left. -\|x_1\|^2-\|x_2-y\|^2+\|x_1-(x_2-y)\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{2} \left(\|x_1+y\|^2+\|x_2\|^2-\|x_1\|^2-\|x_2-y\|^2 \right)
\end{eqnarray}
となる.同様に,
\begin{eqnarray}
{\rm Re}(x_1+x_2,y) &=& \frac{1}{4} \left(\|x_1+x_2+y\|^2-\|x_1+x_2-y\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{4} \left(\|x_1+y+x_2\|^2-\|x_1-(x_2+y)\|^2 \right. \\
&&\quad\quad \left. +\|(x_1-y)-x_2\|^2-\|(x_1-y)+x_2\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{2} \left(\|x_2+y\|^2+\|x_1\|^2-\|x_2\|^2-\|x_1-y\|^2 \right)
\end{eqnarray}
となる.この \(2\) 式を足して \(2\) で割ると,
\[{\rm Re}(x_1+x_2,y) = \frac{1}{4} \left(\|x_1+y\|^2-\|x_1-y\|^2 + \|x_2+y\|^2-\|x_2-y\|^2 \right) \\\]
を得る.これは \({\rm Re}\{(x_1,y)+(x_2,y)\}\) と一致するから,
\[{\rm Re}(x_1+x_2,y) = {\rm Re}\{(x_1,y)+(x_2,y)\}\]
が得られた.虚部に対しても全く同様.したがって,
\[(x_1+x_2,y) = (x_1,y)+(x_2,y)\]
である.また,この結果から \((ax,y) = a(x,y)\) であることは \(a\in \mathbb{R}\) と虚数単位 \(i\) に対して成り立つことを示せば十分である.\(i\) に対しては
\begin{eqnarray}
(ix,y) &=& \frac{1}{4} \left(\|ix+y\|^2-\|ix-y\|^2+i\|ix+iy\|^2-i\|ix-iy\|^2 \right) \\
&=& \frac{1}{4} \left(\|x-iy\|^2-\|x+iy\|^2+i\|x+y\|^2-i\|x-y\|^2 \right) \\
&=& i(x,y) \\
\end{eqnarray}
である.\(a\leq 0\) と仮定すると,中線定理より,
\begin{eqnarray}
&&{\rm Re}(ax,y)-a{\rm Re}(x,y) \\
&&\quad= \frac{1}{4} \left(\|ax+y\|^2-\|ax-y\|^2\right)-\frac{a}{4}\left(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2\right) \\
&&\quad= \frac{1}{2} \left(\|ax+y\|^2-\|ax\|^2-\|y\|^2\right)-\frac{a}{2}\left(\|x\|^2+\|y\|^2-\|x-y\|^2\right) \\
&&\quad\leq \frac{1}{2} \left((\|ax\|+\|y\|)^2-\|ax\|^2-\|y\|^2-a\|x\|^2-a\|y\|^2+a(\|x\|+\|y\|)^2\right) \\
&&\quad= |a|\|x\|\|y\|+a\|x\|\|y\| = 0 \\
\end{eqnarray}
また同様に,
\begin{eqnarray}
&&{\rm Re}(ax,y)-a{\rm Re}(x,y) \\
&&\quad= \frac{1}{2} \left(\|ax+y\|^2-\|ax\|^2-\|y\|^2\right)-\frac{a}{2}\left(\|x\|^2+\|y\|^2-\|x-y\|^2\right) \\
&&\quad\geq \frac{1}{2} \left((\|ax\|-\|y\|)^2-\|ax\|^2-\|y\|^2-a\|x\|^2-a\|y\|^2+a(\|x\|-\|y\|)^2\right) \\
&&\quad= -|a|\|x\|\|y\|-a\|x\|\|y\| = 0 \\
\end{eqnarray}
したがって,\(a\leq 0\) に対して \({\rm Re}(ax,y)=a{\rm Re}(x,y)\) となる.虚部に対しても同様なので,
\[(ax,y)=a(x,y)\]
である.またこのことと,
\begin{eqnarray}
(-x,y) &=& \frac{1}{4}(\|-x+y\|^2- \|-x-y\|^2 + i\|-x+iy\|^2- i\|-x-iy\|^2 ) \\
&=& \frac{1}{4}(\|x-y\|^2- \|x+y\|^2 + i\|x-iy\|^2- i\|x+iy\|^2 ) \\
&=& -(x,y)
\end{eqnarray}
より,\(a\geq 0\) に対しても成り立つ.残りの条件は \((x,x)=\|x\|^2\) より明らかである.
命題 2.3
内積 \((\cdot,\cdot)\) は連続関数である.すなわち \(x_n\to x,\ y_n\to y\) ならば \((x_n,y_n)\to (x,y)\) となる.ここで \(x_n\to x\) とは内積により定まるノルムによって \(\|x_n-x\|\to 0\) を満たすことである.
証明
\[(x_n,y_n)-(x,y) = (x_n-x,y_n-y)+(x_n-x,y)+(x,y_n-y)\]
を用いるとシュワルツの不等式より
\[|(x_n,y_n)-(x,y)| \leq \|x_n-x\|\|y_n-y\|+\|x_n-x\|\|y\|+\|x\|\|y_n-y\|\]
であるから \(|(x_n,y_n)-(x,y)|\to 0\) である.
定義 2.4
内積空間 \(X\) が内積から定まるノルムに関して完備であるとき,\(X\) をヒルベルト ( Hilbert ) 空間という.
*明らかにヒルベルト空間はバナッハ空間である.
射影定理
内積空間 \(X\) の \(2\) つの部分集合 \(A,B\) が直行するとは
\[(x,y)=0\quad (\forall x\in A,\ \forall y\in B)\]
となることで,このとき \(A\perp B\) と表す.また, \((x,y)=0\) のとき \(x\perp y\) と表す.
簡単な計算からわかるように \(x\perp y\) ならばピタゴラス ( Pythagoras ) の定理
\[ \|x+y\|^2 = \|x\|^2+\|y\|^2 \]
が成り立つ.
定義 2.5
内積空間 \(X\) の部分集合 \(L\) に対して
\[L^{\perp} = \{x\in X\mid \{x\} \perp L\} \]
を \(L\) の直交補空間という.
\(x = 0 \Leftrightarrow (x,x) = 0\) より,
\[ \{x\}\perp X \Leftrightarrow x=0 \ ,\quad L\cap L^{\perp} = \{0\} \]
が成り立つ.
命題 2.6
内積空間 \(X\) の部分集合 \(L\) に対して \(L^{\perp}\) は閉部分空間である.
証明
\(x,y\in L^{\perp},\ a\in K\) とする.このとき,任意の \(h\in L\) に対して,
\[(x+y,h) = (x,h) + (y,h) = 0 \ ,\ \ (ax,h) = a(x,h) = 0\]
であるから \(L^{\perp}\) は \(X\) の部分空間である.
収束列 \(\{x_n\}\subset L^{\perp}\) をとる.このとき,内積の連続性から任意の \(h\in L\) に関して
\[\forall\varepsilon >0\ ,\ \exists N \ \ \rm{s.t.}\ \ n>N \Rightarrow |(x_n,h)\ – (x,h)|<\varepsilon\]
したがって任意の \(\varepsilon\) に対して \(|(x,h)|<\varepsilon\) であるので \((x,h)=0\) .つまり \(x\in L^{\perp}\) である.よって \(L^{\perp}\) は \(X\) の閉部分空間である.
最短距離定理
\(L\) をヒルベルト空間 \(X\) の閉凸部分集合とする.ここで凸集合とは任意の \(x,y\in L\) に対して \(tx+(1-t)y\in L \ \ (0\leq t\leq t)\) となる集合をいう.このとき,任意の \(z\in X\) に対して
\[\|z-x_0\| = \inf\{\|z-x\| \mid x\in L\}\]
を満たす \(x_0\in L\) がただ一つ存在する.
証明
\(r=\inf\{\|z-x\| \mid x\in L\}\) とおく.このとき,
\[\lim_{k\to\infty}\|z-x_k\| = r\]
となるような点列 \(\{x_k\}\subset L\) が存在する.\(\{x_k\}\) がコーシー列であることを示せば \(X\) が完備であること \(L\) が閉集合であるから \(\lim_k x_k = x_0 \in L\) が存在して
\[\|z-x_0\| = r\]
を満たす.中線定理より
\begin{eqnarray}
&&\|(x_k-z)+(x_l-z)\|^2 + \|(x_k-z)-(x_l-z)\|^2 \\
&&\quad = 2(\|x_k-z\|^2 + \|x_l-z\|^2)
\end{eqnarray}
となるから,
\begin{eqnarray}
\|x_k-x_l\|^2 &=& \|(x_k-z)-(x_l-z)\|^2 \\
&=& 2(\|x_k-z\|^2 + \|x_l-z\|^2)\ – \|(x_k-z)+(x_l-z)\|^2 \\
&=& 2(\|x_k-z\|^2 + \|x_l-z\|^2)\ – 4\|\frac{1}{2}(x_k+x_l)-z\|^2
\end{eqnarray}
\(L\) が凸集合だから \(\frac{1}{2}(x_k+x_l)\in L\) なので
\[r^2\leq \|\frac{1}{2}(x_k-x_l)-z\|^2\]
\[\|x_k-x_l\|^2 \leq 2(\|x_k-z\|^2 + \|x_l-z\|^2)\ – 4r^2 \]
右辺は \(k\to\infty\) とすると,右辺 \(\to 2r^2+2r^2-4r^2=0\) となるので \(\{x_k\}\) はコーシー列である.
次に一意性を示す.\(x_0,y_0\in K\) があって
\[\|z-x_0\| = \|z-y_0\| = r\]
となるとすると,
\begin{eqnarray}
\|x_0-y_0\|^2 &=& \|(x_0-z)-(y_0-z)\|^2 \\
&=& 2(\|x_0-z\|^2 + \|y_0-z\|^2)\ – \|(x_0-z)+(y_0-z)\|^2 \\
&=& 4r^2 – 4\|\frac{1}{2}(x_0+y_0)-z\|^2 \\
&\leq & 4r^2 – 4r^2 = 0
\end{eqnarray}
したがって \(x_0 = y_0\) である.
射影定理
\(L\) をヒルベルト空間 \(X\) の閉部分空間とする.このとき,
\[L\times L^{\perp} \to X \ \ ; \ \ (x_0,x_1) \mapsto x_0+x_1 \]
は全単射である.
証明
・全射性
任意に \(x\in X\) をとる.部分空間は凸部分集合であるので最短距離定理より
\[\|x-x_0\| = \inf\{\|x-h\| \mid h\in L\}\]
を満たす \(x_0\in L\) が存在して \(x_1 = x\ – x_0\) とおく.任意の \(h\in L,\ t\in\mathbb{R}\) に対して
\[\|x – x_0\|^2 \leq \|x + th\ – x_0\|^2 \]
なので,
\[\|x_1\|^2 \leq \|x_1 + th\|^2 \]
\[\Rightarrow 0\leq 2t\ {\rm Re}\ (x_1,h) + t^2\|h\|^2\]
これは \(t\) に関する二次方程式であるので \({\rm Re}\ (x_1,h) = 0\) である.また,
\[\|x_1\|^2 \leq \|x_1 + ith\|^2 \]
\[\Rightarrow 0\leq 2t\ {\rm Im}\ (x_1,h) + t^2\|h\|^2\]
より \({\rm Im}\ (x_1,h) = 0\) である.したがって \((x_1,h) = 0\) .つまり \(x_1\in L^{\perp}\) であるので全射性が示された.
・単射性
\(x_0+x_1 = y_0+y_1 \ (x_0,y_0\in L,\ x_1,x_2\in L^{\perp})\) とすると,
\[x_0-y_0 = y_1-x_1 \in L\cap L^{\perp} = \{0\}\]
より,\(x_0 = y_0,\ y_1 = x_1\) である.したがって単射性が示された.
ヒルベルト空間 \(X\) とその閉部分空間 \(L\) を定める.このとき,射影定理より \(x\in X\) に対して
\[ x = x_0 + x_1 \quad (x_0\in L,\ x_1\in L^{\perp})\]
となる \(x_0\) がただ一つ定まる.この \(x_0\) を \(x\) の \(L\) 上への正射影といい,\(x\) に \(x_0\) を対応させる写像 \(P_L\) を正射影作用素という.
内積空間の \(X\) の部分空間 \(L_1,L_2\) が \(L_1\perp L_2\) となるとき,\(L_1 + L_2\) を \(L_1 \oplus L_2\) と表し,\(L_1\) と \(L_2\) の直和と呼ぶ.
命題 2.7
\(L\) をヒルベルト空間 \(X\) の閉部分空間とする.このとき,
\[ (L^{\perp})^{\perp} = L \ . \]
証明
一般に内積空間の部分集合 \(L\) に対して明らかに \((L^{\perp})^{\perp} \supset L\) は成り立つ.
\((L^{\perp})^{\perp} \subset L\) を示す.
任意に \(x\in (L^{\perp})^{\perp}\) をとる.射影定理より \(x_0\in L,\ \in x_1\in L^{\perp}\) があって,\(x=x_0+x_1\) と表せる.ここで,\((L^{\perp})^{\perp} \supset L\) より,
\[ L^{\perp} \ni x_1 = x – x_0 \in (L^{\perp})^{\perp} \]
であるので \(x = x_0 \in L\) である.したがって,\((L^{\perp})^{\perp} \subset L\) となる.
ヒルベルト空間の例
例 2.8 ( \(\mathbb{R}^n,\ \mathbb{C}^n\) のユークリッド内積空間)
\(\mathbb{R}\) ベクトル空間 \(\mathbb{R}^n\) と \(\mathbb{C}\) ベクトル空間 \(\mathbb{C}^n\) に対して,それぞれ
\[(x,y)_{\mathbb{R}^n} = \sum_{k=1}^n x_ky_k\ ,\quad (x,y)_{\mathbb{C}^n} = \sum_{k=1}^n x_k\overline{y_k}\]
と定める.これは内積であり,関数解析 1 で \(\mathbb{R}^n,\ \mathbb{C}^n\) に定めたノルムを定める.したがって,\(\mathbb{R}^n,\ \mathbb{C}^n\) は完備,すなわちヒルベルト空間である.
*証明は容易であるので省略する.
例 2.9 ( \(L^2\) 空間)
\(L^{2}(\Omega)\) に対して
\[(f,g) = \int_{\Omega}f(x) \overline{g(x)}\ d\mu\]
と定めると,これは内積であり,関数解析 1 で \(L^{2}(\Omega)\) に定めたノルムを定める.したがって,\(L^{2}(\Omega)\) は完備,すなわちヒルベルト空間である.
*任意の \(f,g\in L^2(\Omega)\) に対して,ヘルダー不等式より,
\[\left| \int_{\Omega}f(x) \overline{g(x)}\ d\mu \right| \leq \|f\|_{L^2}\|g\|_{L^2} < \infty\]
である.内積であることは容易に確認できる.
例 2.10 ( \(l^2\) 空間)
\(l^{2}\) に対して
\[(x,y) = \sum_{n=1}^{\infty}x_n\overline{y_n}\]
と定めると,これは内積であり,関数解析 1 で \(l^{2}\) に定めたノルムを定める.したがって,\(l^{2}\) は完備,すなわちヒルベルト空間である.
*ヘルダー不等式より有界な値を与えることがわかり,内積であることも容易に確認できる.
内積空間の完備化
定理 2.11
\((X,(\cdot,\cdot))\) を内積空間とするとき,次の性質を持つヒルベルト空間 \((\tilde{X},(\cdot,\cdot)_{\sim})\) と \(X\) から \(\tilde{X}\) への写像 \(J\) が存在する.
- \(J\) は \(X\) から \(\tilde{X}\) への単射である.
- \((J(x),J(y))_{\sim} = (x,y)\quad (x,y\in X)\)
- \(\overline{J(X)} = \tilde{X}\)
この証明では関数解析 1 定理 1.13 の証明で考えたベクトル空間 \(\tilde{X}\) に主張を満たすような内積が定まることを示す.したがって,定理 1.13 の証明と併せて読んでほしい.
証明
\(\tilde{x},\tilde{y}\) を \(\tilde{X}\) から任意にとる.\(\{x_n\},\{y_n\}\) を \(\tilde{x},\tilde{y}\) の代表元とすると,複素数列 \(\{(x_n,y_n)\}\) は収束列である.実際,シュワルツの不等式より,
\[|(x_n-x_m,y_n)|\leq \|x_n-x_m\|\|y_n\|\]
であり,\(\{y_n\}\) はコーシー列であるから有界列なので
\[(x_n-x_m,y_n)\to 0 \quad (n,m\to\infty)\]
である.したがって,
\begin{eqnarray}
(x_n,y_n)-(x_m,y_m) &=& (x_n,y_n)-(x_m,y_n)+(x_m,y_n)-(x_m,y_m) \\
&=& (x_n-x_m,y_n)+(x_m,y_n-y_m)
\end{eqnarray}
より,\(\{(x_n,y_n)\}\) はコーシー列なので \(\mathbb{C}\) の完備性より収束列である.この収束先を \(\beta\) とおく.この \(\beta\) は代表元の取り方によらない.なぜなら,別の代表元 \(\{x’_n\},\{y’_n\}\) をとると,
\[\|x_n-x’_n\|\to 0\ ,\ \ \|y_n-y’_n\|\to 0 \quad(n\to\infty)\]
かつ,
\[|(x_n-x’_n,y_n)|\leq \|x_n-x’_n\|\|y_n\|\]
である.したがって,先ほどと同様に
\[(x_n,y_n)-(x’_n,y’_n) = (x_n-x’_n,y_n)+(x’_n,y_n-y’_n)\]
より, \(|(x_n,y_n)-(x’_n,y’_n)|\to 0\ \ (n\to\infty)\) となるからである.この \(\beta\) を用いて,
\[(\tilde{x},\tilde{y})_{\sim}=\beta:=\lim_{n\to\infty} (x_n,y_n)\]
と定めると,これは主張を満たす内積である.
\((\cdot,\cdot)_{\sim}\) が内積となることは難しくないので省略する.
\(x\in X\) に対して自明なコーシー列 \(\{x,x,\cdots\}\) が代表する元 \(x^{\ast}\in \tilde{X}\) とり,\(J(x)=x^{\ast}\) とすると,\(J\) は単射で,
\[(x,y) = (x^{\ast},y^{\ast})_{\sim} \quad(x,y\in X)\]
を満たすことが確認できる.
また,この内積が \(\tilde{X}\) が完備となるノルムを定めることや,\(\overline{J(X)} = \tilde{X}\) が成り立つことは定理 1.13 の証明からわかる.
今回は以上です.お疲れ様でした.