関数解析3(ONS, CONS)

\(X\) を \(K\) ベクトル空間とする. (\(K\) は \(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) とする)
 

ONS と CONS

定義 3.1
内積空間 \(X\) の部分集合 \(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\) が \[(x_{\lambda}, x_{\mu}) = \delta_{\lambda\mu}\] を満たすとき,\(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in\Lambda}\) を正規直交系 ( ONS ) という.
ここで \(\delta_{\lambda\mu}\) はクロネッカーのデルタである.

ベッセル ( Bessel ) の不等式
\(\{x_k\}_{k\in\mathbb{N}}\) を内積空間 \(X\) の高々可算な ONS とすると,任意の \(x\in X\) に対して, \[ \sum_{k\in\mathbb{N}} |(x,x_k)|^2\leq \|x\|^2 \] が成立する.

証明
\(a_k = (x,x_k)\) とおくと,任意の \(n\) に対して \begin{eqnarray} 0 &\leq & \left\| x\ – \sum_{k=1}^n a_k x_k \right\|^2 \\ &=& \|x\|^2\ – \sum_{k=1}^n\overline{a_k}(x,x_k)\ – \sum_{k=1}^n a_k(x_k,x) + \sum_{j,k=1}^n a_j\overline{a_k}(x_j,x_k) \\ &=& \|x\|^2\ – \sum_{k=1}^n |a_k|^2 \end{eqnarray} が成り立つ.したがって, \[ \sum_{k=1}^{\infty} |a_k|^2 \leq \|x\|^2 \] であり,絶対収束するから, \[ \sum_{k\in\mathbb{N}} |a_k|^2 \leq \|x\|^2 \]

ベクトル空間 \(X\) とその部分集合 \(M\) に対して \(M\) で生成される \(X\) の部分空間を \( \mathcal{LH}(M)\) と表す.すなわち,

\[ \mathcal{LH}(M) = \left\{ \left. \sum_{k=1}^n a_k x_k \ \right| a_k\in K ,\ x_k \in M ,\ n\in \mathbb{N} \right\}\]

とする.このとき,\(\overline{\mathcal{LH}(M)}\) は \(X\) の部分空間である.証明はノルムの連続性を用いれば容易にできる.(ここで \(\overline{M}\) は \(M\) の閉包を表す)

命題 3.2
\(\{x_k\}_{k\in\mathbb{N}}\) をヒルベルト空間 \(X\) の高々可算な ONS とする.\(L = \overline{\mathcal{LH}(\{x_k\}_{k\in\mathbb{N}})}\) と表す.このとき任意の \(x\in X\) に対し, \[P_L(x) = \sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)x_k\] が成り立つ.また,任意の \(x,x’\in X\) に対して, \[(P_L(x),P_L(x’)) = \sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)\overline{(x’,x_k)}\] となる.

証明
任意の \(x\in X\) に対して \(a_k = (x,x_k)\) とおくと,ピタゴラスの定理より, \[ \left\| \sum_{k=1}^n a_k x_k- \sum_{k=1}^m a_k x_k \right\|^2 = \left\| \sum_{k=n+1}^m a_k x_k \right\|^2 = \sum_{k=n+1}^m |a_k|^2 \] である.(ここで \(n < m\) とした) .このとき \(\sum_{k=1}^{n} |a_k|^2\) はベッセルの不等式より収束するので,これはコーシー列である.よって,完備性から \(\sum_{k=1}^{n} a_k x_k\) は \(L\) の元に収束する.その極限を \(y\in L\) とする.ここで,\(y\) は \(\{x_k\}\) の和の順番によらない.\(\{x_{\varphi(k)}\}\) を新たに取る.任意の \(\varepsilon>0\) に対して,\(n,m>N\) ならば \[\left\|\sum_{k=1}^n a_{k} x_{k}-y\right\| < \varepsilon\ ,\quad \sum_{k=n+1}^m |a_k|^2 < \varepsilon\] となる \(N\in\mathbb{N}\) が存在する.また,\(n>N\) を一つ固定したとき, \[\{x_k\}_{k=1}^n\subset \{x_{\varphi(k)}\}_{k=1}^P\] を満たす \(P > N\) が取れる.\(p \geq P\) に対して, \[\{x_k\}_{k=1}^n\subset \{x_{\varphi(k)}\}_{k=1}^p \subset \{x_{k}\}_{k=1}^{m_p}\] となる \(m_p > N\) が取れるので,\(p \geq P\) で, \begin{eqnarray} \left\|\sum_{k=1}^p a_{\varphi(k)} x_{\varphi(k)}-y\right\| &\leq& \left\|\sum_{k=1}^p a_{\varphi(k)} x_{\varphi(k)}-\sum_{k=1}^n a_{k} x_{k}\right\| + \left\|\sum_{k=1}^n a_{k} x_{k}-y\right\| \\ &\leq & \sum_{k=n+1}^{m_p} |a_k|^2 + \left\|\sum_{k=1}^n a_{k} x_{k}-y\right\| \\ &<& 2\varepsilon \end{eqnarray} よって,\(y\) は \(\{x_k\}\) の和の順番によらない.内積の連続性より \begin{eqnarray} (x-y,\ x_p) &=& (x,\ x_p)- (y,\ x_p) \\ &=& (x,\ x_p)- \sum_{k=1}^{\infty} a_k\left(x_k ,\ x_p \right) = 0 \end{eqnarray} が成り立つ.したがって \(x-y\in L^{\perp}\) であるので,射影定理より, \[P_L(x) = y = \sum_{k\in\mathbb{N}} a_k x_k\] これで主張の前半は示された.

任意の \(x\in X\) に対して \(a_k = (x,x_k),\ a’_k = (x’,x_k)\) とおくと,シュワルツの不等式とベッセルの不等式より \[ \left( \sum_{k=1}^n |a_k \overline{a’_k}| \right) ^2 \leq \left( \sum_{k=1}^n |a_k|^2 \right)\left( \sum_{k=1}^n |\overline{a’_k}|^2 \right) \leq \|x\|^2 \|x’\|^2 \] である.したがって,\(\sum_{k=1}^n a_k \overline{a’_k}\) は絶対収束する.よって,前半の結果を用いれば,内積の連続性より, \begin{eqnarray} (P_L(x),\ P_L(x’)) &=& \left(\sum_{k=1}^{\infty}a_k x_k,\ \sum_{k=1}^{\infty}a’_k x_k\right) \\ &=& \lim_{n\to \infty}\left(\sum_{k=1}^{n}a_k x_k,\ \sum_{k=1}^{n}a’_k x_k\right) \\ &=& \lim_{n\to \infty}\sum_{k=1}^{n}a_k \overline{a’_k} \\ \end{eqnarray} これで全ての主張が示された.

定理 3.3
\(\{x_k\}_{k\in\mathbb{N}}\) をヒルベルト空間 \(X\) の高々可算な ONS とする.\(L = \overline{\mathcal{LH}(\{x_k\}_{k\in\mathbb{N}})}\) とする.このとき以下は同値である.
  1. \(L=X\)
  2. 任意の \(x\in X\) に対して次が成り立つ. \[x=\sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)x_k\]
  3. 任意の \(x,x’\in X\) に対して次が成り立つ. \[(x,x’) = \sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)\overline{(x’,x_k)}\]
  4. 任意の \(x\in X\) に対して次のパーセバル ( Parseval ) の等式が成り立つ. \[\|x\|^2 = \sum_{k\in\mathbb{N}} |(x,x_k)|^2\]
  5. 任意の \(k\) に対して \((x,x_k) = 0\) となるとき, \(x=0\) である.

証明
\(1\Rightarrow 2\) であること:
命題 3.2 と仮定より,\(x = P_L(x) = \sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)x_k\) である.

\(2\Rightarrow 3\) であること:
命題 3.2 と仮定より,\(P_L(x) = \sum_{k\in\mathbb{N}} (x,x_k)x_k = x\) なので命題 3.2 より主張を満たす.

\(3\Rightarrow 4\) であること:
\(x=x’\) とすれば良い.

\(4\Rightarrow 5\) であること:
任意の \(k\) に対して \((x,x_k) = 0\) となるとき,仮定より \(\|x\|=0\) なので \(x=0\) である.

\(5\Rightarrow 1\) であること:
仮定より \(L^{\perp}=\{0\}\) である.よって射影定理より \(X=L\) である.

定義 3.4
\(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}\) を内積空間 \(X\) の ONS とする.このとき \(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}\) が正規直交基底 ( CONS ) であるとは \(X= \overline{\mathcal{LH}(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda})} \) となることである.

*内積空間 \(X\) の ONS \(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}\) が高々可算であるとき,この定義は上の定理の \(2\) から \(5\) によって言い換えられる.

例 3.5 ( \(L^2(-\pi,\pi)\) におけるフーリエ ( Fourier ) 級数展開)
関数解析 2 で見たように \(L^2(-\pi,\pi)\) は, \[(f,g) = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi} f(\theta)\overline{g(\theta)}\ d\theta\] によってヒルベルト空間となる.
\(e_n:=e^{in\theta}\in L^2(-\pi,\pi)\) とおくと, \[(e_n,e_m)=\delta_{nm}\] より,\(\{e_n\}\) は \(L^2(-\pi,\pi)\) の ONS である.また,フーリエ解析の議論により,任意の \(f\in L^2(-\pi,\pi)\) に対して, \[\left\|f-\sum_{|n|\leq N}(f,e_n)e_n \right\|\to 0 \ ,\ \quad(N\to\infty)\] が成り立つことが知られているので \(\{e_n\}_{n\in\mathbb{Z}}\) は CONS である.

 

可分な空間

定義 3.6
ノルム空間 \(X\) の部分集合 \(L\) が \[X=\overline{L}\] を満たすとき \(L\) は \(X\) で稠密であるという.また,このような \(L\) が高々可算な集合として取れるとき \(X\) は可分であるという.

命題 3.7
\(X\) を可分な内積空間とし,\(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}\) を内積空間の ONS とする.このとき \(\{x_{\lambda}\}_{\lambda\in \Lambda}\) は高々可算である.

証明
\(X\) は可分なので稠密な可算部分集合 \(L\subset X\) が取れる.したがって,任意の ONS の元 \(x_{\lambda},x_{\mu}\) と任意の実数 \(\varepsilon>0\) に対して, \[\exists u_{\lambda}\in L\ \ {\rm s.t.}\ \ \|x_{\lambda}-u_{\lambda}\| < \varepsilon\] \[\exists u_{\mu}\in L\ \ {\rm s.t.}\ \ \|x_{\mu}-u_{\mu}\| < \varepsilon\] となる.\(x_{\lambda} \neq x_{\mu}\) であるとき \(\|x_{\lambda}\ -x_{\mu}\| = \sqrt{2}\) なので, \begin{eqnarray} \sqrt{2} &=& \|x_{\lambda}\ -x_{\mu}\| \\ &\leq & \|x_{\lambda}\ -u_{\lambda}\| + \|u_{\lambda}\ -u_{\mu}\| + \|u_{\mu}\ -x_{\mu}\| \\ &<& 2\varepsilon + \|u_{\lambda}\ -u_{\mu}\| \end{eqnarray} したがって,\(\sqrt{2}\ -2\varepsilon < \|u_{\lambda}\ -u_{\mu}\|\) である.このことから \(\varepsilon=1/2\) とでもしておけば \(u_{\lambda}\neq u_{\mu}\) となる.
よって,ONS の元 \(x_{\lambda}\) に対してこのような \(u_{\lambda}\in L\) を対応させる写像は単射であるので,\(\#\Lambda\leq \#L\) であり,主張が示された.

定理 3.8
\(X\) を可分な内積空間とすると CONS が存在する.

証明
\(X\) は可分なので稠密な可算部分集合 \(L=\{e_n\}_{n=1}^{\infty}\subset X\) が取れる.このとき次のように \(e’_n\) を定める.

\(e’_1 = e_1\) とする.
\(e_k\notin \mathcal{LH}(e’_1)\) となる最小の \(k\) をとって \(e’_2 = e_k\) とする.
\(e_k\notin \mathcal{LH}(e’_1,e’_2)\) となる最小の \(k\) をとって \(e’_3 = e_k\) とする.
以下この操作を繰り返す.

得られた \(\{e’_n\}_{n=1}^{\infty}\) に対してシュミット直交化を施して ONS である \(\{\tilde{e}_n\}_{n=1}^{\infty}\) を得る.作り方から \(L\subset \mathcal{LH}(\{\tilde{e}_n\}_{n=1}^{\infty})\) を満たすから \(\{\tilde{e}_n\}_{n=1}^{\infty}\) は \(X\) の CONS である.

例 3.9 (有界連続関数空間)
\(\Omega\) を \(\mathbb{R}^n\) のコンパクトな部分集合とする( \(\mathbb{R}^n\) にはユークリッド位相を定める).このとき,関数解析1例1.10で見たように \(\Omega\) から \(\mathbb{R}\) への連続関数全体 \(C(\Omega)\) は \[\|f\|=\sup_{x\in \Omega}|f(x)|\] により \(\mathbb{R}\) 係数のバナッハ空間である.ここで,任意に \(f\in C(\Omega)\) を取ると,ワイエルシュトラス ( weierstrass ) の多項式近似定理により,任意の \(\varepsilon >0\) に対して,ある \(\mathbb{R}\) 係数多項式 \(P\) があって, \[\|f-P\|<\varepsilon\] とできる.また,\(P\) に対して \(\Omega\) がコンパクトなので \(\mathbb{Q}\) 係数多項式 \(Q\) があって, \[\|P-Q\|<\varepsilon\] とできる.つまり,\(\mathbb{Q}\) 係数多項式の全体 \(\mathbb{Q}[x_1,\cdots,x_n]\) は \(C(\Omega)\) で稠密である.\(\mathbb{Q}[x_1,\cdots,x_n]\) は可算濃度であるので,\(C(\Omega)\) は可分である.

 

今回は以上です.お疲れ様でした.

 

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